TEA FOR ONE

まぁお茶でも飲みながら気ままに、好きなことを、すこ~しネタバレしながら、のんびりと………。

せつなさこそ名美物語

 石井隆の“名美物語”を久々に観てからというもの、ここのところ心地よい呪縛に捕われている。
 我ながら呆れるのは、新作の某サスペンス・スリラーを観ていても、主人公の女性と彼女を慕う男との関係性や、そのふたりのラストシーンに名美の世界を当てはめていたこと。分かるひとには分かってもらえるプロットなのだ………。

 当地の映画館では「人が人を愛することのどうしようもなさ」の上映が4週目に入った。石井隆作品としては嬉しいロングランになるのだが、配給の東映サイドの要求がいつまでも『花と蛇』路線だとしたら何とも哀しい。
 今回の喜多嶋舞の熱演に水を注す気は毛頭ないのだが、ヒットを支える観客の目的が、『花と蛇』路線だけとは思いたくないのだ。石井隆映画の代名詞が『花と蛇』路線だけでは寂し過ぎる。若いファンには『GONIN』や『黒の天使シリーズ』のアクションを求める声が多いようだけど、それも良し。ただ、いつまでも緊縛や拷問のイメージではないはず。
 この名美復活のヒットから、震えるほど切ない名美の物語を、新たな女と男の愛の世界を描いていって欲しい。亡くなったM.アントニオーニ監督が描いてきた“愛の不毛”を、大胆に受け継いでいけるのは、石井隆監督しかいないと断言したい。

 今回の「人が人を愛することのどうしようもなさ」に愛の対象として村木を登場させなかったことで、今後、名美と村木の物語を危惧する必要はない。なぜなら、名美が愛する男は村木しかいないからだ。
 「人が人を愛することのどうしようもなさ」では、名美が最後まで愛して止まない男は、夫の洋介でしかなく、だから、洋介こそ村木哲郎なのだ。無償の愛を捧げる岡野は、常に名美の呪縛に捕われた恋慕の男。ただし、恋慕する男もまた、村木的な男でもあり、この辺りの石井隆描く男の存在が微妙なところ。
 『ヌードの夜』の村木がその恋慕の男だったが、名美の切ない愛の物語は、この三角関係があるからこそ成り立つのだ。


☆reviewはこちら☆
「人が人を愛することのどうしようもなさ」

★彷徨う名美ふたたび★

    ◇

 ファンなら誰もが描いてみる自分なりの名美のキャスティングをしてみよう。
 名美役って難しい。新人なら新人でもいいけれど、美人なだけではダメ……もちろん演技力を求めたい。個人的には、いつまでも余貴美子さんしか存在しないのだが、『歌謡曲だよ、人生は』のなかの一遍「ざんげの値打ちもない」では、“その後の名美”みたいな雰囲気に感激した。まだまだ充分に、名美に成り得ます(笑)。 

 さて、30代の女優で考えてみて、木村多江はどうだろう。
 彼女の写真集『余白、その色。』の表紙には、ゾクっとする程、そこに名美の姿を見いだすことができる。「日本一死体が似合う女優になりたい」と発言している彼女には、憂いと不幸が似合い過ぎるかな。
 “名美と村木と川島の物語”の三角関係を描いた長編劇画の名作『雨のエトランゼ』(1979)あるいは『赤い微光線』(1984)をモチーフにした作品を、佐藤浩市と椎名桔平か北村一輝で観てみたいなぁ。

    ◇

 覚え書きとして、これまでの土屋名美登場作品のキャスティングを列記しておく。

    ◇


・女高生 天使のはらわた(1978)
 土屋名美=大谷麻知子

・天使のはらわた 赤い教室(1979)
 土屋名美=水原ゆう紀:村木=蟹江敬三

・天使のはらわた 名美(1979)
 土屋名美=鹿沼えり:村木=地井武男

・天使のはらわた 赤い淫画(1981)
 土屋名美=泉じゅん:村木=阿部雅彦

・団鬼六 少女馬責め(1982)
 土屋名美=西川瀬里奈:村木=下元史朗

・縄姉妹 奇妙な果実(1983)
 村木=北見俊之

・ルージュ(1984)
 土屋名美=新藤恵美:村木=火野正平

・ラブホテル(1985)
 土屋名美=速水典子:村木=寺田農

・夜に頬よせ 過去を抱いた女(1986)TV
 土屋名美=紺野美沙子

・赤い縄 果てるまで(1987)
 土屋名美=岸加奈子

・天使のはらわた 赤い眩暈(1988)
 土屋名美=桂木麻也子:村木=竹中直人

・死霊の罠(1988)
 土屋名美=小野みゆき

・月下の蘭(1991)
 橋川名美=余貴美子

・ガッデム!(1991)
 土屋名美=安原麗子

・死んでもいい(1992)
 土屋名美=大竹しのぶ

・ちぎれた愛の殺人(1993)
 村木名美=余貴美子:村木=佐野史郎

・ヌードの夜(1993)
 土屋名美=余貴美子:村木=竹中直人

・夜がまた来る(1994)
 土屋名美=夏川結衣:村木=根津甚八

・天使のはらわた 赤い閃光(1994)
 土屋名美=川上麻衣子:村木=根津甚八

・人が人を愛することのどうしようもなさ(2007)
 土屋名美=喜多嶋舞 (劇中劇としての村木は山口祥行)

    ◆

 土屋名美の相手役として村木姓ではなかった男優は

『女高生 天使のはらわた』深水三章
  少年の名前は哲郎だが、名字は劇画ではお馴染みの“川島”

『赤い縄 果てるまで』阿部雅彦
  これも劇画ではお馴染みの名前“陽介”だった

『死霊の罠』本間優二
『月下の蘭』根津甚八
 名美と最多の3度共演している根津甚八は、
 最初のこの作品では“村木”姓ではなかった

『ガッデム!』小沢仁志
  ここに登場する“岡本”姓も、よく使われる男の名前

『死んでもいい』永瀬正敏

    ◇

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彷徨う名美ふたたび★「人が人を愛することのどうしようもなさ」

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(C)東映ビデオ

 今回の新作『人が人を愛することのどうしようもなさ』では、二重三重に丁寧に織り込まれたストーリーが、表層だけでも十分にサスペンス・ノワールに仕上がっているが、劇画時代からの熱心なファンには、もっと深いところに隠された黙示を汲み取ることができるという。
 それをもう一度確認するために、今週ふたたび映画館へ足を運んでみた。

 前回はストーリーに触れなかったので、今回は新たなレヴューとして簡単に物語を述べながら進めていく。

 ★以下、ネタバレや結末等に触れます。

  ☆     ☆

 映画館は定員70人 ほどの小さなところだったが、はじめに観に行ったときも2度目の今回も、そのほとんどが中年の男性客の中にあって、一割ほどの女性客がいたことには嬉しい思いをした。この作品、思い切って言ってしまえば、女性に観てもらいたい映画だ。たしかに、その過激な性描写に驚愕するかもしれないが、本質的なところで“愛”を描いた作品だと感じるはずだ。

 元アイドルで人気女優として活躍する名美だが、私生活では15歳年上の夫洋介(永島敏行)との破局が目に見えていた。洋介もかつては栄華を極めた人気俳優だったが、下り坂になった現在は若い女優との情事に耽る荒んだ生活をし、そんな環境に名美自身も心身ともに追いつめられている。
 そんな名美の新作映画『レフトアローン』は、夫洋介と愛人の女優との共演というスキャンダル性を狙ったもので、名美が扮する鏡子という愛に絶望した女優が、自ら下品な化粧をほどこし、街角に立ち男に躰を捧げる日々を送るといった内容の作品。
 映画ジャーナリスト(竹中直人)のインタビューを受けながら作品を語るかたちで本作は進んでいくのだが、ここにまた『愛の行方』と『ブラックバード』という『レフトアローン』の劇中劇が入り子状態で織り込まれ、名美の現実と虚構の橋渡りがつづいていくことになる。

 真実なのか妄想なのか、映画はひとつのサスペンスを創り出していくのだが、もう片方にある愛の物語が女性向けだと述べた要素として、名美であれ鏡子であれ、愛する人への狂おしい想いが叶わないときに陥る危うさが、心を揺さぶってくるだろう。
 街で男たちに声をかけ、どんなに如何わしい行為に陥っても、どんなに男を貪っても、決して満足することができないのは、名美がどんなに蔑まれようが愛して止まない人がただひとりいるからだ。
 劇画でも映画でも、名美はいつも純粋だ。強姦されても、気が狂っても、名美が待ちつづけるものは、その先にある愛だろう。そんな“どうしようもない”心の底から愛する感情があるからこそ、ぼくは、名美の自虐性と孤独に惹かれる。
 
 マネージャーの岡野(津田寛治)の言葉として出てくる「人が人を愛することのどうしようもなさ」。スキャンダルの対策に奔走する岡野は、名美(鏡子)の街娼の後始末にも「君はやっちゃいけない人だよ」と己自身を犠牲にする。ここにもうひとり、叶わぬ想いを抱く無償の愛の姿がある。

  ☆     ☆

 劇画時代から、石井隆氏が描く名美が唯一無二の「女優」であり、ぼくらは劇画のなかで名美が演じる数々の女性たちを見てきたわけだが、とりわけ刹那的であったり感傷的であったりしながら、常にひとりの女性が過去に背負って来た生き様を繰り返し物語のなかに見てきた。
 そうしたなか、過去と現在の繰り返しが多様される石井隆の世界は、劇画でも映画でも同じように、それがいつのまにか、耽美な夢と虚構の迷宮へと繋がっていくことになる。
 石井隆氏の作品を語るとき、とりわけ名美を語るときには必ずそこには“死”が見え隠れする。過去と現在の繰り返しは、或は、虚構と現実を行き来すると云うことは、名美が“死に場所”を求め彼岸を彷徨っていることになる。

 虚構性が行き着くラストは、娯楽映画の結末としては筋が通っているし、愛する夫を殺めたベッドの端に佇む名美の姿は“人が人を愛することのどうしようもなさ”として納得のいくものである。
 名美と鏡子の入れ替えにもなる劇中劇『愛の行方』の、クライマックスに引用された1992年の劇画『主婦の一日』(カンタレッタの:第九匣)では、稲妻とともに消える名美の姿のあと、開け放たれたベランダの窓から一陣の風が吹き込む画で終わるのだが、さて、映画での名美の行き着く先は何処なのか。名美に対する石井監督のおとしまえはどこに落ち着くのか。

 洋介と愛人が血まみれになって横たわるベッドで、そこに腰掛ける名美にルージュをひく岡野。
 石井監督の言葉によるとこのシーンは、名美のvagina【唇】と岡野のpenis【口紅】をイメージしたエロティックな場面なのだが、同時にこれは死化粧と言えなくもない。
 石井隆の世界を読み解くにあたり、先に述べたように名美が“死に場所”を求めているとするのなら、ラスト・シークエンスの舞散る紙片とともに名美の躰を照らすライトは、魂を救うために化仏となった名美の光背だろうか。

 だからぼくは、フェイド・アウトした暗闇のなかを彷徨う名美の魂に、また会いたくなる。


☆人が人を愛することのどうしようもなさ☆


 


「人が人を愛することのどうしようもなさ」*石井隆監督作品



監督:石井隆
脚本:石井隆
音楽:安川午朗
出演:喜多嶋舞、津田寛治、永島敏行、美景(みかげ)、伊藤洋三郎、山口祥行、中山俊、志水季里子、品川徹、竹中直人

☆☆☆☆  2007年/東映/115分 

    ◇

 名美探しの長い旅を、石井隆監督が自ら封印をして13年。
 これほど、待ち焦がれた映画はなかった。
 切なく、痛く、どうしようもなく愛しい、愛の物語として
 ここに、永遠のミューズ“名美”が、ふたたび舞い降りてきた。

 映画は、名美(喜多嶋舞)を女優として登場させる。劇中映画『レフトアローン』と、そのまた劇中劇『ブラックバード』と『愛の行方』というマトローシュカの入り子のような構造を創りあげ、何重にも“虚”と“実”を仕込んだ構造のなかで、そこを行き来するヒロイン名美をどこまでも壮絶に追っていく。
 劇中劇の名美の役名は『鏡の国のアリス』の如く鏡子と名付けられ、名美がインタビュアー(竹中直人)に語る“虚”(映画『レフトアローン』)の鏡子と、現実の名美とが溶け合いながら、妄想と理性の狭間に名美を堕としていく。
 実に映画的、いや、これこそ映画だ。

 深夜の山手線の車中で、紅いルージュをべったりと唇に塗りたくり、極限にまで広げた脚の間から闇に向けて閃光を放つ女優・喜多嶋舞の肉体は、石井隆監督の凄まじいほどの濃密な画〈絵〉の中で、異様なほどに輝き、過激なほどに朽ちていく。

 常に女優を美しく描きたい、スクリーンには女優を輝くように映したいと考える石井監督が、今回は、喜多嶋舞のリアルで生〈き〉のままの肉体を映像に焼き付けてきた。観客がたじろぐことなどお構いなく、子を産み母乳を与えた女の“勲章”を隠すことなく曝け出してくる。
 先の『花と蛇』('04)『花と蛇2~パリ/静子』('05)において主演した杉本彩の肉体は、完璧ではあったが残念ながらアンドロイドの如くフィギュアの美しさだった。
 それに対して喜多嶋舞は、エロティックとかいう前に、女そのものを見せつけてくる。名美の、これまでの人生が刻まれたリアルな肉体として、そして、その歩みがあることから、女から夜叉への変貌を見ることができるのだ。

 隠すためではなく、曝け出すための化粧。
 石井隆の劇画では、頻繁に化粧による“虚”と“実”の入れ替わりが描かれてきた。崩れる化粧から、内面を鋭くえぐってくる。
 1988年の劇画『雨物語』の第2話「酒場の花」では、ニューハーフの男がルージュをひき好きな男を待つ様子に、名美の心の虚空を絡ませながら、化粧の下の本質を切なく描いている。また、映画『GONIN2』('96)での大竹しのぶの若作りの街娼からは、化粧の下から、演じるという女のしたたかさが見え隠れする。

 女優名美は、けばけばしい化粧をして街娼として立つ。そして、理性の錯乱とともに化粧はどんどん崩されていく。

 石井隆の世界で名美の相手は、名美を常に愛しつづけ、守りつづける男として村木哲郎が登場する。しかし今回、村木は劇中劇『ブラックバード』の中にしか登場しない。(ややこしいが、この『ブラックバード』は『夜がまた来る』のリメイクとして見てみたい)代わりに名美のそばにいるのは岡野というマネージャー(津田寛治)だ。1983年に描かれた長編劇画『象牙色のアイツ』において、芸能プロダクションの社長名美を守り通した丈太郎のような男だろうか。

 ラスト・シークエンスとなる劇中劇『愛の行方』は、1980年の同名劇画と1992年の『カンタレッタの匣』第9話「主婦の一日」がモチーフとなっており、特に「主婦の一日」のカット割が引用されている。

 血まみれのベッドに座る名美の唇にルージュをひく岡野の切なさこそ、純愛だ。
 化粧が崩れ、マスカラの流れ落ちる顔の名美が、なんとも美しい。

 さて、ひとつの解決として描かれた問題のラストシーンには、さらなる変貌が潜んでいるのか………石井隆、恐るべし。


☆彷徨う名美ふたたび☆




「Live at BUDOKAN 1976」CREATION



 歴史的コンサートを完全収録したライヴ音源が発掘された。
 これは、日本のロックバンドが世界に羽ばたく何日か前の貴重な記録です。

 ブルース・クリエイションとして若干17歳の竹田和夫が結成したグループは、カルメン・マキとのジョイント・アルバムを含め3枚のスタジオ・アルバムと、近年発掘された『創世記』を入れた2枚のライヴ音源を残し、3年間の活動を終えた。
 解散後すぐにロンドンへ飛んだ竹田は、半年後このクリエイションを結成して、内田裕也のバックバンドとして再出発を始めたわけだ。何度かのメンバー入れ替えをしながら1974年に1stアルバムを発表。そして翌年、2ndアルバムがアメリカで制作された。
 海外ロックの真似から始まった日本のロックが、70年代の中期には驚愕の進化を遂げていたことの証明が、このクリエイションの活動だと思う。
 クリームやマウンテンを創り出した男フェリックス・パッパラルディが、クリエイションとともに活動を始めたのだ。2ndアルバムのレコード・ジャケットには、CREATIONの文字の下にFELIX PAPPALARDIの文字。4人の日本人に混じって写るパッパラルディ。このアルバムを引っさげて、アメリカのレコード会社と契約し全米ツアーを敢行。この事実は凄いことなのだ。

 今回発掘された音源は、全米ツアー・デビュー前にパッパラルディとともに国内で行なわれた2回の前哨戦のうちのひとつで、このクリエイションが日本のロックバンドとして初めて武道館に立ったのだ。
 音質はオーディエンス録音のため決して最高な音とは云えないけれど、武道館だからこその良好な音のなかに、観客の興奮と熱気、バンドメンバーの最高の演奏を堪能できることは間違いない。

DISC 1
01 Pretty Sue
02 Lonely Night ~ You Better Find Out
03 A Magic Lady
04 Tabacco Road
05 Secret Power
06 Dark Eyed Lady of the Night
07 MC ~ BLUES
08 Theme for an Imaginary Western

DISC2
01 Nantucket Sleighride
02 Preacher's Daighters
03 Watch'n' Chain
04 MC
05 Dreams I Dream of You
06 Guitar Solo
07 High Heel Sneakers
08 Roll Over Beethoven


 マウンテンの代表曲「Nantucket Sleighride」と「Theme for an Imaginary Western」は嬉しい演奏だし、竹田和夫のギター・プレイがレズリー・ウエストと何ら遜色なく、むしろオリジナリティに溢れた音色だ。ブルース・クリエイションの時代からのレパートリー「Tabacco Road」も素晴らしいが、一番の聴き所はノンタイトルのスローブルース。そして、14 分以上の大作に仕上げた「Watch'n' Chain」。
 ハードで重い演奏ばかりではなく「Dreams I Dream of You」のような美しい曲もあり、「Dark Eyed Lady of the Night」と共に2nd アルバムに収められた名曲のライヴ演奏が聴けることに感謝。
 惜しむらくは、アンコール曲の「She's Got Me」と「Green Rocky Road」も収録して欲しかった。



歌謡曲外伝【東映スケバン編】

 日活ロマンポルノに対して、東映ピンキ-女優たちの独断場となったのが「女番長〈スケバン〉シリーズ」。池玲子と杉本美樹をスターダムにのし上げた『女番長ブルース・牝蜂の逆襲』('71)から始まったシリーズは、高倉健や菅原文太の本編を喰ってしまうほどのパワーを生み出した。
 ここでは、池玲子と杉本美樹ではないスケバン女優のシングルをあげてみた。

    ◇



賀川雪絵◆ 一年は裏切りの季節/新宿の夜は濡れている 1971年

 2007年、収穫の一枚。賀川雪絵のセミヌード・ジャケットのシングル盤だ。
 大映ニューフェイス第四期生としてスタートした賀川雪絵は、大部屋時代には市川雷蔵の『眠狂四郎』や『ガメラ・シリーズ』に出演しており、その後、1968年に東映と専属契約を結び賀川雪絵を名乗り、石井輝男監督の“性愛路線”、また、“怪奇シリーズ”“歌謡シリーズ”の常連として名前を残している。
 最初はテレビの『プレイガール』や『キイハンター』で見かけたと思う。スクリーンで初めて見た『女囚さそり・第41雑居房』('72)では、スリムで長身(168cm)な男っぷりのイイ女と云うのが印象で、後追いで『女番長ブルース・牝蜂の逆襲』('71)や『明治・大正・昭和 猟奇女犯罪史』('69)を見たのだが、特に『明治・大正・昭和 猟奇女犯罪史』での阿部定役では、女の業をしっかりした演技で演じた姿にすっかり見惚れてしまった。
 このレコードは彼女の歌手デビュー作で、「ざんげの値打ちもない」('70)的な傷痕の流浪人生を冷たく唄い放っている。
 女が自らに結論を出し再生の道へ踏み出す阿久悠の詞に比べ、こちらの主人公は道に迷ったまま彷徨い続けるやさぐれ女。しかし、B面「新宿の夜は濡れている」で歌うように、生きていく道はやっぱりスケバンなのだ。

 72年に出した「やさぐれブルース/野良犬」は、CD「やさぐれ歌謡★最前線/みなしごのブルース」に収録されている。こちらも、断然カッコイイ歌いっぷりである。

    ◇



太田美鈴◆ 女番長流れ歌/ひろった夜 1970年

 本物のスケバンだったという売り文句でデビューした太田美鈴。そんな風には見えないジャケットで真意は定かではないのだが、それが功を奏しての不良少女映画7本に出演しており、挿入歌「バカヤローのあいつ」を歌い出演した夏純子主演の『不良少女 魔子』('71)が日活作品で、2本目からはすべて東映作品だった。



太田美鈴◆ 好きではじめた女じゃないが/きまぐれ数え歌 1973年

 杉本美樹を主役にして製作された『女番長 感化院脱走』('73)の挿入歌がこの「好きではじめた女じゃないが」で、出演もしていた。
 浜圭介作曲の怨歌は女番長ゲリラ/やさぐれ歌謡★最前線」に収録された劇中使用曲の方が、ピアノ伴奏だけで歌う迫力満点の歌唱だった。

    ◇



大信田礼子◆ 女の学校/あなたの女 1970年

 人気テレビドラマ『プレイガール』のレギュラーとして、パンチラでお色気を振りまいていた大信田礼子のデビュー曲だ。この番組、70年代ファッションであるパンタロン、ミニスカート、ホットパンツなどでのアクションが目玉で、いたって健康的なお色気が満載だった。(番組は69年からスタート)
 スタイルの良さで人気のあった大信田礼子は、歌手デビューとともに東映で『ずべ公番長』の主役を務める。
 1970年、日活の『野良猫ロック』や大映の『高校生番長』(主演の八並映子がイイし、松坂慶子も出ていた。)に遅れまいと東映も参画してきたこのシリーズは、「夢は夜ひらく」「ざんげの値打ちもない」「東京流れ者」といったサブタイトルを付けた不良少女たちの歌謡映画で、泥臭いテイストがいかにも東映的と云うところだろうか。この『ずべ公番長』シリーズには、全作に賀川雪絵が共演していた。
 
 さて歌手としての大信田礼子だが、『同棲時代』という大ヒット曲があり、また、ジャケットがセクシーな『女はそれをがまんできない』『ノックは無用』もそれなりにヒットしたのだが、このデビュー曲のビート感とチャームさの方が好きだ。
 決して歌唱力があるとは言えない大信田礼子の魅力は、危なかっしく甘えたようにみせる拙さが武器なのだ。なかにし礼の詞には、女が主導権を握る自己のしたたかさがあり、彼女のくぐもった声のなかにそれを感じることができる。

歌謡曲外伝【日活ロマンポルノ編】

 やさぐれ、流浪、セクシー、ビッチ……歌謡曲番外地に倣って、お気に入りのレコードから印象的なジャケットや、歌声に魅了されたものを取り揃えてみよう。

 まずは日活ロマン・ポルノから女優3人。



中川梨絵◆ 踊りましょうよ/さすらいのトランペッター 1976年

 これまで何度も紹介してきた中川梨絵。自ら作詞作曲して歌ったこの歌は、小室等とムーンライダースの編曲により、フォーライフから1976年に発売された。演奏するムーンライダースがデビューする前の録音というのも興味深いものだし、やはり何と云っても中川梨絵の甘い歌声が絡み合うデカダンスな香りが何ともいえない。
 せつなく響くヴァイオリンの音色が、儚夢〈ロマン〉と郷愁〈ノスタルジア〉を誘い、狂おしくスクリーンに花咲いていた彼女ならではの世界観が見事に表現されている。
 CDとしては、『魅惑のムード☆秘宝館』の六之館に収録。

    ◇



小川節子◆ 紅花物語/怨歌情死考 1973年

 1971年ロマンポルノ第1号として、白川和子の『団地妻・昼下がりの情事』と併映された『色暦大奥秘話』で主演デビューした小川節子。
 主演作のほとんどが時代劇だったと云うくらい、スレンダーな躰に色白で、可憐な着物姿がとても似合っていた和風美人でした。現代劇は2本で、このレコードはその内の1本『怨歌情死考・傷だらけの花弁』('73 )の主題歌。フォトグラファー長友健二が映し出す小川節子の表情が、とても情感あふれていて秀逸なジャケットに仕上がっている。
 兄妹の情死道行きを歌ったA面『紅花物語』は採譜ものだが、B面の『怨歌情死考』での怨みのこもった歌声には、聴き惚れるほどの翳りと強さがあり、絶対的名曲。
 シングル盤を見つけることは至難の業だが、CDとして『魅惑のムード☆秘宝館』の壱之館で聴くことができる。

    ◇



潤まり◆ 新小岩から亀戸へ/大人の子守唄 1975年

 潤まりの酒場演歌は、タイトルが示すようにかなり荒んだ流浪歌謡。
 日活時代は潤ますみと名乗り、代表作は曽根中生監督の『現代娼婦考・制服の下のうずき』('74)。これは、荒木一郎の原作コミックを映画化したもので、主題歌『裏町巡礼歌』はやさぐれ歌謡として出色の出来。これも『魅惑のムード☆秘宝館』の六之館に収録されているが、シングル・レコードは残念ながら所有していない。B面の荒木一郎作『泥棒ねこ』を聴きたい。
 彼女のデビューは東映の『女番長ブルース・牝蜂の逆襲』('71)で、たしか歌手の役で出演。当時は潤まり子と名乗っており、たてつづけにスケバンもの2本に出たあと、深作欣二監督の『現代やくざ 人斬り与太』('72)で、菅原文太の情婦となり嫉妬した渚まゆみに顔を斬られるホステス役で好演した。
 日活の『現代娼婦考・制服の下のうずき』以降は、松竹で喜劇に1本出演し、古巣東映で『玉割り人ゆき』('75)で主役を演じ名前を残している。潤まり名義は、この当時、歌手として活動するときに使用していたもので、唯一、潤まり名義で巫女役を演じた長谷部安春監督の『暴行切り裂きジャック』('76)が最後の映画出演だった。
 


Hotwax vol.8



 9月10日発売の『Hotwax vol.8』です。
 書籍『映画監督 田中登の世界』が先行したことで、おくれに遅れての発刊です。

 今回の特集1は「鈴木則文」。東映プログラム・ピクチャアの雄です。
 インタビューを読めば判るように、楽しくない映画なんか撮らない完全娯楽主義の監督です。
 自身の映画は映画館で見るものとし、DVD化などどうでもいいと豪語する御仁です。が、やはりそこはファンの多い監督ですから、9月21日には鈴木則文初DVD化作品5作が発売されます。

 全55作の中でぼくが観ているものは、池玲子・杉本美樹をスターダムにのし上げた『女番長〈スケバン〉ゲリラ』『女番長〈スケバン〉ブルース』、多岐川裕美のデビュー作『聖獣学園』、千葉真一の『少林寺拳法』、水島新司の漫画『ドカベン』、そして唯一にっかつで撮ったロマン・ポルノの傑作で、70年代のピカレスク漫画の金字塔『堕靡泥の星/美少女狩り』とそんなに多くなく、大ヒットした『トラック野郎シリーズ』は映画館では1本も観ていないです。

 興味あるのは、青江三奈と「女の警察」特集。
 彼女が主題歌とともに出演した、小林旭の『女の警察』シリーズは全4作。残念ながら全て未見なのです。原作は梶山季之(作品リスト内の名前に誤字あり)。太田雅子も太田とも子も出演しているので、いつか絶対に見てみたい映画なのですねぇ。

 昭和の伝説のミューズ、フラワー・メグへの最新インタビューもイイですよ。今年になってオフィシャルウェブサイトをオープンしての復活でしょうか。

 クニ河内/ザ・ハプニングス・フォーと舛田利雄の特集も含め、今回もてんこ盛り。おまけCDの「女番長ブルース」「女番長ゲリラ」等の劇伴は、すべて未発表音源です。

 ところで、また作品reviewを書いています。作品名はここに書かないけれど、70年代の暗黒映画です。1976年度のMy Best One 、と云うより、生涯Best 20(笑)で必ず選ぶだろう作品を紹介しました。
 何がいいかって、その暗さ。魑魅魍魎とした時代の空気の中で、ギラギラと牙を剥き出した人間たちの業が、ビシバシ突き刺さってくる映画です。


◆Hotwax vol.8 発行元:ウルトラ・ヴァイヴ 
         発売元:(株)シンコーミュージック
         定価:1990円(税込)