TEA FOR ONE

まぁお茶でも飲みながら気ままに、好きなことを、すこ~しネタバレしながら、のんびりと………。

「美しい夏キリシマ」*黒木和雄監督作品



A Boy's Summer in 1945
監督:黒木和雄
脚本:松田正隆、黒木和雄
出演:柄本佑、小田エリカ、原田芳雄、石田えり、香川照之、左時枝、中島ひろ子、宮下順子、寺島進、牧瀬里穂

☆☆☆☆★ 2002年/日本/118分

    ◇

 日本には風化させてはいけないものとして、語り継がれなくてはならないものとして、8月の夏がある。

 異常だった風景を原体験として持つ黒木和雄監督が、宮崎で過ごした少年時代を自分自身の“戦争”へのレクイエムとして描いたこの映画は、日本映画史に残る名作と云ってもいい。

 1945年8月。九州・宮崎の農村を舞台に、時代に魂昂らせる男たちと日常をやさしく生きる女たち。そんな彼らを見ながら自分の居場所を見つけられない少年の姿。
 日本の敗北が決定的だったあの時期、戦場とは無縁のところにいたひとびとのこころの中には、誰もが簡単には答えられない何かがあったはず。それが正しいとか卑しいとかと判断するのではなく、作品は優しく温かく見守るように丹念に描かれている。

 戦時下とは思えない静かな日常と美しい風景の中だからこそ、戦争の悲惨さが浮き彫りになり、伝えなければならない事がしっかりと写しだされる。
 この映画に、爆撃や戦闘の映像は一切ない。

 そして、その静かな語り口の中で演じられる俳優陣の素晴らしさ。
 石田えりの人間くささ、香川照之の狡猾さ、寺島進の優しさ、中島ひろ子の柔順さ……
 みんな、みんな切なくて素敵だ。

 こころの中にいつまでも残る作品です。

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「アリスの恋」*マーチン・スコセッシ

alice1974.jpg

Alice Doesn't Live Here Anymore
監督:マーチン・スコセッシ
脚本:ロバート・ゲッチェル
主演:エレン・バースティン、アルフレッド・ルッター、
   クリス・クリストファーソン、
   ハーヴェイ・カイテル、ジョディ・フォスター

☆☆☆☆ 1974年/アメリカ/113分

    ◇

 この映画以前に、メロドラマでもなくラヴロマンスでもなく、女性の生き方にスポットを当てた映画を知らない。そして女のロード・ムーヴィーも初めてだと思う。

 主演女優のエレン・バースティンが監督にマーチン・スコセッシを選び、キャスティングにも助言をし、スタッフに多くの女性を参画させて創られた。女性の内面を描きながら、ひとりの女性の新しい人生への旅立ちを日常的にリアルに描いた新しいタイプの映画だった。

 歌手を夢みていたアリスは若くして結婚をして、いまでは12歳の息子がいる35歳の女性。生意気盛りの息子と喧嘩をしながらも仲のいい生活を送る彼女も、夫の顔色をうかがいながらの生活は楽しいはずもない。日本が男尊女卑だったように、ほんの三十数年前のアメリカだって決して女性の地位が高かったわけではない。
 しかしその夫の不慮の事故からアリスの生活が一転し、故郷のモントレーで歌手として人生を取り戻したいと一念発起する。

 前半は、母と息子のロード・ムーヴィー仕立てになっている。
 ピアノの弾き語りの仕事を探すくだりや、母性本能くすぐる年下の男性(ハーヴェイ・カイテル)とのひと悶着など、女性がひとりで生きていくための闘いは容易ではない。

 ハーヴェイ・カイテルは、デ・ニーロと並んでスコセッシ監督の第1作目からの常連になるのだが、この映画の後ニューヨークのアクターズ・スタジオに入学したという。

 後半、アリスは結局夢の仕事とは到底かけ離れた、小さなダイナーでのウェイトレスの仕事をすることになるのだが、店の主人や同僚のウェイトレスらの描き方がいい。いかにもアメリカの田舎町の、ダイナーでの客とのやりとりなんだなぁって思える。ウェイトレスの同僚フローの下品さはいかにもって感じで、アリスとは気が会わないが、思った通り人情には厚い女性だ。
 アリスとフローのこころが通うようになった後、日光浴をするシーンのアップとロングのカットは印象に残る。

 この町で出会うデイヴィット(クリス・クリストファーソン)との恋の行方は、第二の人生を目指すアリスにとって障害になりかけるが、ラストの描き方が女性の自立になるのかどうかは、見る人の受け取り方で違うかもしれない。男に頼らずひとりで生きていくことばかりが女性の自立ではない。
 「男が居ないと生きていけないのよ」と云うアリスでも、自分でしっかりと決めた生き方こそ、自立の一歩だ。だから、以前のアリスとは違う。

  ☆   ☆

 カントリー&ウェスタン歌手のクリス・クリストファーソンに対して、「カントリーミュージックなんてクソだっ」って投げつける台詞や、母子の到達地を連想させるラストカットの画面にはつい顔がほころんでしまう。
 これから観るひとは、ジョディ・フォスターの存在もしっかり見届けて欲しい。この映画のあと、あの『タクシードライバー』で注目されるのだから。
 

8月のWOWOWシネマ

 8月のWOWOWでアメリカン・ニューシネマの何本かが放送されるようです。
 短評です。

◆ラスト・ショー
 1950年代のアメリカの片田舎が舞台。退屈な田舎町で何もなくただ過ごすだけの人々。2人の高校生と閉鎖する映画館主らを、古き良きアメリカの終焉として優しく静かに描く秀作。失うものが多いほど若者は大人になっていく。モノクロ映画。

◆イージーライダー
 アメリカン・ニューシネマの代表格と云われていますが、物語性が希薄だから賛否両論ですね。当時(69年)観た時のショックは大きかったけれど、今、初めて観る人にはどうなんでしょう。絶対に観るべき映画とは云えない。テーマは二の次でカッコ良さを観たいひとには勧めましょう。

◆レイジング・ブル
 これはニューシネマの部類ではないけれど、マーチン・スコセッシとロバート・デ・ニーロの渾身の一作。このモノクロ映像は凄いです。
 主人公ジェイク・ラモッタは、人間はいくら肉体的に強くたって猜疑心の塊になり自分の心に勝てないと、どうしようもない人間だってこと。そんな男の悲劇を描いた人間ドラマです。

◆アリスの恋
 これもスコセッシ監督の作品で、当時日本での初登場作品。それまでには見られなかった女性の自立を描き、このあと続々と女性映画が創られることになる先駆け的作品。
 男運の悪さと、恋に不器用なアリスの奮闘は、女の自立の幕開けです。
 無名時代のジョディ・フォスターやハーベイ・カイテルなど傍役も光り、主演のエレン・バーステインはこれでアカデミー主演女優賞を獲得。

◆グリニッチ・ビレッジの青春
 監督のポール・マザースキーの自伝的作品で、ニューヨークのユダヤ青年を中心に、マーロン・ブランドらに憧れる演劇学校に集う若者たちの青春物語。
 マザースキー監督はこの前に、老人と猫のロードムーヴィーの秀作『ハリーとトント』、そしてこの後には女性映画の傑作『結婚しない女』を撮っている。
 ぼくが大好きなのは、日本では劇場未公開の『ハドソン河のモスコー』。十数年前にビデオ発売されたが今は廃盤で見ることができないが、ロビン・ウィリアムスの芝居が最高。ビデオを持っているので、いつかレヴューをしようか。この監督の作品は優しさに満ちています。


 さて、この他の8月のWOWOWでは………
・美しい夏キリシマ
・珈琲時光
・仁義なき戦い/広島死闘篇
・その後の仁義なき戦い
・スイミングプール
 見逃さないようにしよう。

We Will Rock You

 QUEENの曲をモチーフにしたロック・ミュージカルWe Will Rock Youの東京公演を観て来た。



 このミュージカルがロンドンで初演を迎えたのは2002年。ぼくが初めて観たのは翌2003年の冬で、DOMINION THEATREの最前列で観劇した。ただこのドミニオン劇場は舞台の位置が高く、最前列は最悪席でもあった。いつかもう一度見直したいと思っていたので、この東京公演は大変楽しみだった。

 今回の東京公演はオーストラリア版の上演で、男優も女優もみんなオーストラリア人が演じており、オリジナル版と比べて観てしまうことになったが、セリフや舞台セットが変更されるのは構わないので、これはこれで十分に楽しめた。

 以下は、2003年のオリジナル・ロンドン版のレヴューに加筆修正して記しておきます。

   ☆    ☆    ☆



 ドミニオン劇場は石造りの外観で風格のある古い劇場。写真のように夜のライトアップはなかなか趣がある。ちなみにこの劇場はずっと長いこと『美女と野獣』を公演していて、それを終了してのWe Will Rock Youなのだから、ロンドンでの観客の反応が伺い知れる。

 豪華で派手な舞台装置。ロックコンサートなどで使われるバリライト(コンピュータ作動で縦横無尽に動くライティング)が60基ほど、舞台上には大きなスクリーンと左右に組まれたやぐらには生演奏をするバンドがスタンバイ。スクリーンは何十にも分割されるもので、曲に合わせてアニメーションやCGグラフィックなどが実写映像と共に映し出される。
 ストーリーは実にシンプル。英語が理解出来なくても十分に楽しめる、
 近未来、画一化され管理された社会での独裁者と、愛と自由をシンボルにしたヒッピーたちの戦い。主人公は普通の男の子と女の子。ちょっと冷めてる女の子が、とぼけた男の子にツッコむ掛け合いが面白く大爆笑の連続だ。
 この二人のソロ・ヴォーカルが凄い。特にスカラムーシュ役の女優は小柄なのにもの凄い声量で、SOMEBODY TO LOVEを歌う彼女には鳥肌がたった。
 そしてもっと凄いのがキラークイーン役の黒人女優。その貫禄は、ゴスペル歌唱とともに他を圧倒している。KILLER QUEENをソウルフルに歌い上げる迫力には感動する。

 面白いのが、ボヘミアンたちが隠れている場所がTOTTENHAM COURT ROADという設定だ。そこは、このドミニオン劇場のある場所で、チューブ(地下鉄)のホームが舞台にセットされているときは、ちょうど観客たちの下にレジスタンスたちが隠れているという感じがするのだ。(当然、東京版はセットが違う。まさか大江戸線と言う訳にはいかないな。)
 ボヘミアンたちの名前は、ミック・ジャガー、プリンス、ブルース・スプリグスティーン、ポール・マッカートニーとシャレていて、ブリトニー・スピアーズを名乗るのが“黒人男性”というところは特に大爆笑だった。


 これを観て思ったことは、やはり英国はROCKの国です。ロックナンバーばかりのこのミュージカルに、壮年はもとより老年の夫婦づれまでもが若者以上に多いこと。それもラストナンバーのWe Will Rock Youでは、コブシを振り上げ、手拍子足拍子の大合唱なのだから驚く。縦横無尽に動くライトともどもミュージカルがロックコンサート化します。それが終わったあと、舞台のスクリーンに『Do You Have Bohemian Rhapsody?』と写り大団円を迎えるのだが、このBohemian Rhapsodyは英国人にとってはビートルズ以上に人気のある曲。当然、これが歌われないことには終わらないのだ。

   ☆    ☆    ☆

 さて、今回日本のみの選曲となったI Was Born To Love Youは、本来フレディのソロアルバムの中の1曲。木村拓哉のドラマのおかげで日本の若い世代へのサービ スとなり、オリジナルの舞台より長いエンディングになりました。

 この舞台を観てあらためて感じたことは、ロックの原点は反抗の音楽だったこと。
 これをいつまでも忘れないで欲しい………。

ロッキン・ローラー

 汐留にあるホテルのエレベーターを降り日テレ方面に歩きだすと、前方からサングラスをかけ白髪にツバのある帽子を被り、杖を持ちながら颯爽と老紳士が歩いて来た。
 すれ違うと白髪は背中まであり、サングラスに隠れていない口元は引き締まり、頬から顎にかけての精悍なラインにはキース・リチャーズのような皺の数……。

 一目で内田裕也氏と判りました。

 生の姿は昔ステージでしか見たことがないのだから、突然、誰もいないエレベータホールでお会いしたことに、見事なまでに興奮をしてしまった。これは、大好きな女優・余貴美子さんとお会いした時以上のものだった。
 哀しいかな、ここでミーハーな部分がでてしまい声をかけさせていただいた。

「失礼ですが………、内田、裕也さん、ですか?」 ああ、なんて馬鹿な声の掛け方……。
『ハイ』 独特の低い声が発せられた。
「あ、握手……を」と、云っている間もなく、内田氏はなんの躊躇もなく、右手に持っていた杖を左手に持ち替え、さっと右手を差し出してくれた。
 体躯に見合わず柔らかな掌だった。

 ちょうど昇りのエレベーターが来てしまったので、時間にしてほん少しのこと。
 それでも、その場に発せられたオーラは凄いものを感じましたぞ。
 こころ優しきハードボイルドな内田裕也氏です。



 で、これは1982年に発売された3枚目のオリジナル・アルバム『さらば愛しき女よ/Farewell,My Lovely』。フィリップ・マーロウの世界を歌で挑戦したもので、全曲レイモンド・チャンドラーの小説をイメージして書かれた詩曲だ。
 でもなんで裕也さんがマーロウなの?って感じがしないでもなかった。
 裕也さんの生き方自体がハードボイルドなんですからね。

 作家陣は、宇崎竜童、沢田研二、井上尭之、BORO、井上大輔、大野克夫。
 ラストの『ローリング・オン・ザ・ロード』は名曲です。

「嫌われ松子の一生」山田 宗樹

 中谷美紀の主演で映画化が決まったので文庫本を購入。
 久しぶりに上下巻の本を一気に読み終えた。
 これは波瀾万丈に生きて行く女の一生ではなく、徹底して奈落に堕ちていく女性の話だ。
 しかし、嫌いになるほどのイヤな女がどんなものなのかと思い頁をめくれど、そこには哀しい女の姿しかなかった。

 東京の片隅で松子が殺された。親兄弟から勘当されていた松子に一面識もなかった甥の川尻笙は、嫌々ながらアパートを引き払う手続きを頼まれるのだが、一緒に行った恋人の明日香が妙に関心を持ったこともあり、笙は今までその存在すら知らなかった叔母の松子の過去に興味を持ちはじめる。
 53歳にしてひっそりと殺されなければならなかった松子の一生が、ミステリー仕立てで解き明かされていく。その半端じゃない女の堕落ぶりが安手なドラマ風になっていないのは、現在の笙の視点と過去の松子の視点で語られる構成など、作者の筆の巧さだろう。

★以下、転落内容に触れます。



 厳格な家庭で育ち中学校の教師をしていた美人で才媛な女性・松子が、ある事件をきっかけに転落をしていく。ひとの良さもいい加減にしろよ、って云ってやりたいほど生真面目な松子。自分の不幸に気付かないほどの愚かな女、松子。どんな境遇でも一生懸命に生きていく松子。愛に飢えていただけの女、松子。
 しかしその足跡は、人を信じ、男を愛し、男に裏切られ、友に見限られ、家族に捨てられることのくり返し。恋人に死なれ、トルコ嬢(松子の生きている70年代はこう呼んでいた)になり、シャブを打ち、ヒモを殺し、刑務所に入る……その度に、松子はひとつひとつ自分の人生を捨てていく。

 松子の愚かな行動には「何でそっちの方を選ぶの」って溜息が出てしまうけれど、それならそれでしっかり見届けてやろうじゃないかという気になるのだから、厄介だ。

 そして、松子が最期に掴んだ“幸福”に、泣ける。

 読み終わったあと、中島みゆきの歌を聴きたくなった。
 やさしい女 毒をんな エレーン………どの歌にも松子がいた。
 …………生きていてもいいですか………
 また、泣いた。どうしようもなく泣ける。

 中島哲也監督の映像版を早く観てみたい。
 きっと、もっとリアルな松子に会えるのだろう。
 
嫌われ松子の一生/山田 宗樹
【幻冬舎文庫】
上巻:定価 600円(税込)
下巻:定価 630円(税込)

なんだか今夜は……

 基本的にブログでは、自分が気に入ったものの事しか書いていません。
 映画に関して云えば、面白かったもの、人に薦めたいものだけです。

 当初はいろんな作品を、それこそつまらない映画や腹のたった映画も書き連ねようと思っていたのですが、考えてみれば、そんなつまんない作品のことで時間や労力を使うことのバカらしさ、です。

 ここで紹介した映画は、じつに個人的な趣味に偏っています。コメディもあればヤクザ映画や成人映画まで……幅広過ぎますでしょうね。
 いつだったか友人の女性がこのブログを見て、「赤い教室」を見てみたいと云われ慌ててしまいました(笑)。影響力があることは肝に銘じてますが、そこは自己責任ということで………笑。

 さて、Y'sのプロフィールに『お気に入りの10本の映画』というのがありますが、順次紹介しようと思いながら、実はまだ2本しか紹介していません。
 その中に、何回も何回も観ていると云うのに、語って薦めようと思うと書けない映画があります。いや、語り尽くせないのです。文章って難しいです。「これだけのことを書いたのだが」「いや、こんなもんじゃないよこの映画は」「こんな文章でこの映画は語れないよ」と、ずっとそのままになっている映画です。
 いつ、この映画のことを語るときが来るのか………そんなことを考えていた今夜でした。

天才ギター少年

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 エリック・ステッケル Eric Steckel。若干14歳。
 8歳でギターをはじめて、10歳で初ステージ、11歳でCDデビューをしている彼は、6月に自身のバンドを率いてオランダ&ベルギーツアーを終えたばかりだ。
 去年はブルース・ロックの御大ジョン・メイオールにツアー同行をし、70を過ぎたジョンと孫のようなエリックがステージに立ったのだから驚き。

 ジョン・メイオールのバンド、ブルースブレイカーズは名高いギターリストを輩出していることでも有名で、彼の門下生エリック・クラプトンが在籍したのは17歳。同じ名のステッケルくんはその記録を4歳も塗り替えたのだ。

 ツアー同行ばかりではなく、最近発売されたジョンのアルバムROAD DOGSでは、まるまる一曲リード・ギターを任されている。

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 ステッケルくんのソロアルバムやライヴ映像を見るかぎり、素直な奏法が小気味よく、歌は幼いがテクニックがあるからこれからが大変楽しみな少年だ。
 10年経っても24歳か………。

→<ERICK STECKEL BAND> ☆オフィシャルサイトはこちら☆

 TBSテレビ『さんまのスーパーからくりTV』の竜之介クン(5歳)もガンバレ!。
 チャーの跡を追え………。

パール/JANIS JOPLIN



 少し前に、コロンビアのLEGACY EDITIONシリーズとしてジャニス・ジョプリンの『PEARL』が2枚組で発売された。(国内盤は7月20日発売予定)
 1971年に未完のまま発売されたジャニスの最後のアルバム『PEARL』。
 今回のアルバムは、未発表スタジオテイクを含む1枚と、カナダ“フェスティバル・エクスプレス”の未発表ライヴ演奏が収められている。
 三つ折りジャケットは、アルバムフォトセッションのアウトテイク写真が満載でとても興味深い。

 ジャニスのこのライヴ音源は今までに2枚のアルバムにバラバラに発表されていたが、今回未発表の6曲を加えてひとつのコンサート風に並べられている。

 『フェスティバル・エクスプレス』とは、1970年6月から7月にかけてロックアーティストたちを乗せた列車でカナダを横断。行き先々でコンサートを開いたという列車ツアーのこと。
 筆頭がジャニス・ジョプリンで、他にグレートフル・デッドやバディ・ガイ、ザ・バンドなどが参加している。幻の記録フィルムと云われていたこの映画が近年解禁になり、日本でも今年の春先に公開された。

 ジャニスと新バンド、フル・ティルト・ブギー・バンドのツアーライヴは、「永遠にこのままでいたかった」と願うメンバーの思いをよそに、ジャニスは3ヶ月後の10月、ハリウッドのランドマーク・ホテルで死体で発見された。ドラッグのオーヴァー摂取だ。
 享年27歳。

 『SUMMERTIME』『TRY]』『CRY BABY』『BALL and CHAIN』
 魂のシャウトを聴け……

あまぐも



 このビル・エヴァンスの『ワルツ・フォー・デビー』を模したアルバム・ジャケットは、ちあきなおみです。

 ちあきなおみの長い芸歴の中で一番の異色作が、この『あまぐも』(1978年1月発売)。
 団塊の世代の彼女が、同世代のシンガーソングライターたちのメッセージソングに連帯感を持ったのかどうか、とにかく表現がロックやポップやフォークの範疇を超えた強烈な作品群になっている。

 1977年、シングル『ルージュ』がヒット。
 アルバム『ルージュ』は、書き下ろしを含んだ中島みゆきのカバー作品集の趣きだったが、これが、ちあきなおみが中島みゆきを唄う最初で最後と云うのが、実に残念。みゆきの情念の世界観は、ちあきなおみが一番表現できたように思うのだが。

 さて、有名なのが友川かずき作詞作曲の『夜へ急ぐ人』でしょうか。
 1977年のNHK紅白歌合戦での怪演は、「気味の悪い歌でした」と司会者に云わせたほど……。

 パフォーマンスは別にして、このアルバムのB面すべてがその友川かずきの曲ばかりで、凄い。編曲はミッキー吉野が担当し(全曲ではない)ブレイク前のゴダイゴが演奏をしており、70年代のロック&フォーク色の強い作品。そして唄われる物語がこれまた情念の世界ばかり。浅川マキを彷佛とさせる世界、いや、まったく別のちあきワールドになっています。70年代初めの寺山修司や唐十郎のアングラ芝居の匂いも感じる。

 自分にこどもを生ませた男に恨み言をいうのもあきらめ、泣きやまないこどもが愛おしいが、この子に名前がない そんな自分にあいさつするひとも、どうせ善人面だと醒めた眼で世間に呟く 普通じゃない、普通じゃない、普通じゃない………と唄う『普通じゃない』

 場末で生きる、盛りを過ぎた女のひとりごちは『視角い故里』
 “今夜わたし ゆるいな わたし”の投げやりさが、いいです。

 この頃に歌われていた『朝日のあたる家』のライヴ録音が、2002年に発見されCD化された。
 オリジナルはアニマルズですが、日本語訳で唄い有名なのが浅川マキ。女郎宿の世界が見事に唄われていたこの浅川マキヴァージョンを、ちあきなおみが熱唱をしている。翌年に郷えい治氏(宍戸錠の実弟)と結婚をし芸能活動を休業したが、この当時、ちあきさん普通じゃない(笑)。

 でも、ぼくの好きな世界だったのが、この頃のちあきなおみでした。

「宇宙戦争」



WAR OF THE WORLDS
原作:H.G.ウェルズ
監督:スティーブン・スピルバーグ
脚本:デヴィッド・コープ
音楽:ジョン・ウィリアムズ
出演:トム・クルーズ、ダコタ・ファニング、ティム・ロビンス
   モーガン・フリーマン(Na)

☆☆☆★  2005年/アメリカ/117分

    ◇

 H.G.ウェルズの古典的SF小説で、1953年に映画化されたジーン・バリー主演の『宇宙戦争』(これも古典になっているSF映画)を完全リメイクしている。
 スピルバーグ監督が子供の頃この『宇宙戦争』を見て恐怖を感じたように、今度はスピルバーグが、見事な特殊効果で我々を恐怖に導いてくれる。これを見た子供たちが、恐怖を感じて記憶に残るような映画であってくれるといいのだが……。

 ニューヨークを対岸に望む小さな町で働く港湾労働者レイ(トム・クルーズ)。離婚した妻が実家のボストンへ行く週末だけふたりの子供を預かるところから始まる。息子や娘から完全にダメ親父のレッテルを貼られているレイ。物語の核は、この親子の再生でもある。
 それにしてもこの子供らにはイライラさせられる。逃避行のなか、このふたりの子供と対峙するのは侵略者と同じくらい大変だ(笑)。

 映画が始まって間もなく異変が起き、すぐに侵略が始まる。戦闘マシーンのトライポッドがいきなり姿を現すシーンから殺戮シーンまでのスピーディさには感心。
 トライポッドを見上げ逃げ惑う人間たちの姿が、9.11 を思い起こさせるのは仕方がないか………。

 この映画はパニック映画であり恐怖映画なのだから、理屈はいらない。有無を云わせない不条理に対して、人が出来る事は何か。真っ向立ち向かうのは勇気だけなのかどうか。
 生存者のひとりオグルビー(ティム・ロビンス)のように精神的におかしくなる人間の存在も重要。主人公レイとのバランスもあるが、対極にある人間の姿があの納屋の地下室で描かれる。スピルバーグの演出の冴えが見られる。

 その地下室にエイリアンが現れるシークエンスは、『ジュラシック・パーク』の引用でハラハラドキドキするけれど、ちょっと長いかな……。
 そのあとの赤い植物の正体の方が怖い。スピルバーグの徹底した残酷さを見ることができる。

 さて、この手の映画での問題はラストの落としどころなのだが、どうも賛否両論あるようだ。一緒に行った家人は、何万年も地球の地底にあったトライポッドがなんであれしきで……と、のたもうていたが、云わせておきましょ。
 この映画は最初に書いたように、100年以上も前に書かれた原作を基に、50年以上前の映画のリメイクだということを考えれば、全然オーケイな事柄です。

 それよりもハリウッド的結末の方が問題。これには正直がっかりだった。
 恐怖や残酷さを甘さで包んでしまう方法には反対だな。恐怖の余韻が切れてしまった。ヒチコックの『鳥』のような余韻を求めるのは酷だろうか。

 ただ、あのシーンのおかげでジーン・バリーのカメオ出演があったわけで、それはそれで姿を拝見できて嬉しかった。
 なにせ子供のころ、ジーン・バリー主演のテレビドラマ『バークにまかせろ!』は大好きな番組でしたから…………。