TEA FOR ONE

まぁお茶でも飲みながら気ままに、好きなことを、すこ~しネタバレしながら、のんびりと………。

一週間、お休みします

 ゴールデンウィークが始まった。
 去年に続いてニューヨークへ行ってくるのだが、13時間近い旅の機内での楽しみのひとつが、新作映画を見ることか。ただ、大きなスクリーンが前にあるタイプでは本当はとても見づらい。だから、何年か前まではあまり機内での映画を見ることもなかったのだが、最近ではエコノミークラスの座席でも、各席の背に一台づつディスプレイがあるので、これはとても助かる、なにせ一人ひとり好きな映画を見ることができるし、気に入れば何回でも同じ映画を観ていられる。ロンドンへ行ったときには、中田秀夫監督の「ラストシーン」を4回も見てしまったからなぁ。
 しかし機内上映の映画で観たいものがないときはつらい。去年がそれで、持参した本が東野圭吾の短編集一冊だけだったので、もう寝ているしかなかった。

 さて、機内で読むための本を選ぶにも、これでなかなか難しい。ハードカバーなどは重過ぎて問題外なのだが、文庫本でも長編は敬遠したい。長いながい飛行では、そうそう集中して読んでいることができない。だから、ここはやはり短編かよくて中編といったところが手頃だ。

 で今回は、野沢尚の連作集「殺し屋シュウ」と鷺沢萌の中短編集「さいはての二人」の二冊を持って行くことにした。が、パラパラと鷺沢萌の短編に目を通していたら、一遍だけ読み終えてしまった。
 いやぁ、これが泣ける。「遮断機」には、泣けます。本当に、泣いた。
 ちょうど去年の4月に、35歳で逝ってしまった彼女を思うと、最後の一頁はあまりに切ない。

 さあ、それではこれを持って、も一度機内で読んで、泣いていようか。

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あの朝の出来事

 日を追う毎に心が沈む尼崎の列車脱線事故。100人を超えるであろう犠牲者の数となっては、ただただ言葉を失うばかりです。
 今年だけでも、終点駅に電車が突っ込んだり、踏切りでの人災事故とか、考えられないような事故が起きている。ゴールデンウィーク前の大惨事だが、鉄道会社や航空会社の一番のサービスは「安全」しかない。連休に心弾ませていたであろう犠牲者や、そのご家族のことを考えるとやるせないです。

 犠牲者の皆様のご冥福を心よりお祈りいたします。

「グロリア」*ジョン・カサベテス

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GLORIA
監督:ジョン・カサベテス
脚本:ジョン・カサベテス
撮影:フレッド・シュラー
音楽:ビル・コンティ
出演:ジーナ・ローランズ、バック・ヘンリー、ジュリー・カーメン、ジョン・アダムズ、バジリオ・フランチーナ

◆1980年度ベネチア国際映画祭 金獅子賞&主演女優賞受賞

☆☆☆☆★ 1980年/アメリカ/121分

    ◇

 もの哀しいスパニッシュ・ギターとサックスの音色をバックに、夜から夜明けにかけてのニューヨークの摩天楼を俯瞰カメラが流れるように映し出していく。自由の女神やヤンキーズ・スタジアムのライトアップの美しさに目を奪われていると、次の瞬間、カメラはサウスブロンクスの風景を地上からとらえ、プエルトルコ人一家を殺すために武器を持った男たちがアパートの中に悠々と入ってくるシーンになる。
 この緊迫感あるオープニングは素晴らしい。
 
 ぼろアパートには似つかわしくないほど衣装がいっぱい詰まったクローゼットと、写真や絵に囲まれた部屋に棲む謎の女性がグロリア(ジーナ・ローランズ)。これから襲われようとしている一家の母親の友人でもある彼女が、たまたま6歳の息子を助けることになるのだが、それはニューヨーク中の“組織”から追われることでもあった。
 子供などに興味もなかったグロリアと、自分をいっぱしの男だと主張する少年フィル(ジョン・アダムズ)。このふたりが逃避行するうちに、母親と息子と云うより女と男の絆で結ばれていくことになる。

 逃避行はサウスブロンクスからリバーサイド、タイムズスクェアからピッツバーグへと及ぶが、ただ逃げるだけじゃない。グロリア姐さんの凄いところは、追っ手に対して有無を云わせず反撃する。街中で出会う追っ手たちに何の躊躇もなく拳銃を向けるグロリアの姿は、タフでクールでエキサイティングだ。
 実は彼女、組織のボス・タンジーニ(バジリオ・フランチーナ)の元情婦。彼女も組織の中の人間だったため、組織の恐ろしさは十二分に知り尽くしている。彼女が組織に楯突くことはただ一点。6歳の少年の命まで狙うやり方が許せなかっただけ。

 映画は、グロリアとフィルの関係が変わっていく様も丁寧に追いかける。自分をアバズレと呼ぶグロリアの表情がフィルの笑顔に癒されていくし、グロリアを邪魔者扱いしていたフィルも「あんたはタフだね」とねぎらったりする関係が築かれていく。
 年上の女性に恋する少年と、彼の成熟さに癒されることで自分以外に大切にしたい相手を見つけた中年女の母性は恋愛と同じ。
 だから、ふたりが安らぐ瞬間をスローモーションに込めたラストが心地よい。

 ウンガロのファッションに身を包み、ハイヒール姿でタクシーを口笛ひとつで止めるグロリア。40代半ばのジーナ・ローランズがタフな女性像を創りだしたおかげで、80年代にしてハードボイルド映画の新しい原型が生まれたわけで、1996年の『レオン』は『グロリア』なしでは語れないが、この『グロリア』の設定は日本の『子連れ狼』にインスパイアされたとジョン・カサベテス監督は語っていた。

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4月からの新番組

 ゴールデンウィークが近づき、テレビの新番組も出揃ったところで、ちょっと短評でもしてみますか。

日曜日
◆A
久米宏久々の登場だったが、なんだかなぁ。インターネットを使ってアジアの諸事情を探る番組とのふれこみだが、生放送でなければインターネットテレビを使う意味などないのでは?

月曜日
◆エンジン
リタイアです。クィーンに続いて今度はエアロスミスですか、って感じ?

火曜日
◆離婚弁護士2~ハンサム・ウーマン
天海祐希のはまり役は格好いいし、新メンバーの戸田恵子のハジけっぷりも見るべし。

水曜日
◆鶴の間
笑福亭鶴瓶が、本番までゲストを知らないまま即興で漫才をする深夜ヴァラエティ番組。
鶴瓶の技量なら安心して見ていられるだろうが、まるで中部日本放送の名物番組「スジナシ」的企画なのが何ともねェ。

木曜日
◆恋におちたら~僕の成功の秘密
「ぼく生き」的ドラマかと思いきや、これは「ショムニ」でした。
それもそのはず、演出が鈴木雅之。ツッコミ所が多いドラマだけど、草なぎクンの“いいひとぶり”とこの演出なら見続けても面白い。

金曜日
◆タイガー&ドラゴン
ご存知クドカンワールド満載。毎回、落語の人情噺をネタにストーリーを組み立てるという面白い試みだから、長瀬クンの「池袋WGP」より、岡田クンの「木更津キャッツアイ」よりホームドラマ。伊東美咲のおバカ役は、クドカンのねじれっぷりの証明。

土曜日
◆瑠璃の島
まずは豪華なキャスティングに驚く。沖縄の離島を舞台に、人間がキチンと描かれるだろう予感は、その配役に演技派を揃えたところだけでも判る。美しい海を風景に展開するこのヒューマンドラマは、沖縄方言が出てこない不自然さを差し引いても、見る価値が十分にある。

孤高の情景、石井隆

 2004年にセンセーショナルな話題を振りまいて公開された1本の映画がある。いままでの常識の範疇を超えたこの映画は、主演女優の強い要望によりひとりの監督が指名された。石井隆である。一貫して女と男の官能の世界を独特なこだわりで描いてきた石井隆が到達したのは、徹底したリアリズムな世界だった。
 しかし凄いものを創っちゃいました~、と云うのが正直な感想だ。
 石井隆も主演女優も常に誤解に晒されて生きてきたところがあるが、70年代から石井隆を見続けてきたファンとして、そして“名美と村木の世界”のファンとしては、正当に評価していきたいと思う。

※この文章は、Y's PASSIONに書き上げた文章に加筆・訂正を加えたものです。

「白昼の襲撃」*西村潔監督作品



監督:西村潔
脚本:白坂依志夫
音楽:日野皓正
出演:黒沢年男、高橋紀子、出情児、岸田森、殿山泰司、緑魔子

☆☆☆☆ 1970年/東宝/89分

    ◇

 東宝ニュー・アクション映画の担い手のひとり西村潔監督が、「死ぬにはまだ早い」('69)に続いて黒沢年男と組んで製作したハードボイルド・アクションの代表作。
 
 この映画で、ギラギラと満たされない若者像を奔放に演じている黒沢年男は、現在ヴァラエティ番組などで見せている天然ボケぶりのオヤジからは想像できないほど格好いいです。キャバレーのバンドマンやトラックの運転手などの経験をしてから、東宝のニューフェイスに合格したという叩き上げのハードな男っぷりだった。

 小さな運送屋で働く修(黒沢)と、ゴーゴー・クラブの踊子ユリ子(高橋紀子)と、修の少年院での弟分のオカマの佐知夫(出情児)の三人は、一丁の拳銃を手にいれたことで暴走を繰り返す日々。ある日、大学生とのいざこざで事件を起こし怪我を負った修は、鳴海(岸田森)という男に救われる。鳴海とその妻(緑魔子)の知的な物腰に惹かれた修は彼の部下になり、ボスの佐伯(殿山泰司)の命を狙う裏切り者を消す仕事を命じられる。このインテリやくざ役がぴったりな岸田森の正体も、政治的暗殺集団のテロリストだったことで、佐伯に殺されてしまう。
 佐伯に腕を見込まれた修は、ユリ子とともに外人バーの経営を任されながら、ダークな世界へと身を堕としていくのだが、大学生射殺事件を追う刑事の追求を逃れるために、今の生活に未練を残しているユリ子を尻目に、佐知夫とその友人でヨットをもっているジョニーとともに外国への逃亡計画を準備する。そして、佐伯を殺して金を奪い夜明けの埠頭へ向かう男3人の目の前には、捨てられた思いのユリ子が密告した警察の捜査網だった。
 刹那的に生きる若い野獣たちの生き方を、社会に受け入れられない心情と、彼らの友情と裏切りをハードに描いた傑作だ。

 映画は、クールな映像とともに日野皓正のけだるいトランペットの音色が素晴らしく、「スネイク・ヒップ」はロックのリズムに乗ったダイナミックな曲で、「白昼の襲撃のテーマ」は一音一音から乾いた若者の心情が感じられる。サントラ盤は、曲のラストに劇中ラストの銃声が入っていてとても印象的だ。CDは『GO! CINEMA REEL3 ワイルド・サイケを歩け』(PSCR5899)の中に2曲ともラストの銃声を含めて収められているのだが、ひとつ残念なのは、レコードには収録されている銃声の後の修の叫びがカットされている。権利上の問題だろうが、この叫びは重要です。

 西村潔監督にとって東宝ニューアクションでの黒沢年男とのコンビはこの2作のみだが、この後、加山雄三主演で「豹は走った」(大映から迎えた田宮二朗が黒豹と呼ばれるスナイパー役)「ヘアピンサーカス」を、三浦友和で「薔薇の標的」「黄金のパートナー」(仏映画「冒険者たち」のパクリにしか見えなかった)を撮ったのち、主に舞台をテレビに移し、松田優作の「探偵物語」をはじめ「ハングマン」「西部警察」「あぶない刑事」シリーズなど、長谷部安春や村川透とならび一貫してアクションものを撮っていた。


★モダンジャズとの融合、再び「白昼の襲撃」★

タカダワタル永逝

 フォーク歌手の高田渡さんが16日未明、心不全のため公演先の北海道釧路市の病院で亡くなられました。
 「タカダワタル的」というドキュメンタリーの公開やら、NHKなどテレビにも頻繁に顔を見せていた昨今。風貌のわりにまだまだ若かった(享年56歳)渡氏の死去は残念です。

 昔、ラジオの深夜放送を毎日聴いていたころ、まだ放送禁止になる前に「自衛隊に入ろう」と「三億円強奪事件の唄」という曲をカセットレコーダーに録音していたのを思い出す。
 
 高田さんの唄は民の唄です。不屈の民衆の魂を37年間唄い続けてきた。

『深夜』という唄があります。
「質屋に風呂敷包みをもってきた男。質屋の主人は首を横に振る。
 何とかならないかというと、生き物は預かれぬと首を振る。
 死んでは困るからお願いに来たという男。
 主人は、エサ代がかかるからダメだと首を振る。
 目が覚めた男の部屋の明かりの下には、
 風呂敷包みから出た女房と娘が寝転んでいた。」
と云うような内容の詩。

 愛らしく、それでいてたくましい、市井の人々の唄を唄っていた。
 
 ご冥福をお祈りします。

女刑事 音道貴子

 乃南アサさんの小説にハズレはないが、このシリーズが特に好きだなぁ。
 30代バツイチの独身で、機動捜査隊員の女刑事。直木賞受賞の1作目「凍える牙」以来、警察内部の絶対的な男性社会の中で奮闘する彼女の姿は、ときに凛々しく、ときにか弱く、しかし、しっかりと自分の生き方や人とのつきあい方ができる女性として描かれており、読者はそんな彼女の魅力に元気づけられていると思う。

 長篇は「凍える牙」「鎖」の2作、短編集が「花散る頃の殺人」「未練」「嗤う闇」の3作が刊行されているが、音道貴子を等身大に感じようと思えばやはり短編集だろう。彼女の細かな日常や家族、出会う人々の生活が丹念に描写されていて、現実感を伴うように物語の奥深さを堪能できる。
  貴子が遭遇する事件の多くが悲惨で残虐なものなのだが、事件の解決よりもそれに携わる人間たち(もちろん犯人も含む)のドラマに重みを置いて書かれている。「未練」の中の一編は解決されないまま終わったりするのだが、それに対する貴子の無念さや憤りは、強く読者に伝わってくる。

 何年か前にNHK BS2で「凍える牙」がドラマ化されており、その時の貴子役が天海祐希で滝沢刑事が大地康雄だった。それはそれはふたりともお似合いで、以来、音道貴子シリーズを読むときは必ず天海さんをイメージしている。もちろん滝沢刑事は大地さんで。その後ドラマ化されないのが不思議なぐらいなのだが……。今後、もしドラマ化されるときには、貴子とコンビを組む八十田刑事にはぜひ佐々木蔵之介さんをお願いしたい。「離婚弁護士」や「ラストプレゼント」で天海さんと共演をしているが、音道&八十田コンビもこのふたりしか考えつかないよ。

 以前、某サイトでも乃南アサさんを推奨していたのだが、この音道貴子シリーズを未読の方は、まず短編集「未練」でも読んでいただきたい。絶対に損はさせない。

「狙撃」*堀川弘通監督作品

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監督:堀川弘通
脚本:永原秀一
出演:加山雄三、浅丘ルリ子、森雅之、岸田森、小沢昭一、藤木孝

☆☆☆★ 1968年/東宝/87分

    ◇

 加山雄三が“若大将”のイメージをガラリと変えてクールな殺し屋を演じたハードボイルド・アクションで、共演に日活から浅丘ルリ子を招いての東宝ニュー・アクションの傑作。
 当時、加山雄三の“若大将”映画は見たことがなく、テレビの中でエレキギターを持ったカッコいいお兄さんがいるというイメージしかなかった。だからこの映画を見た時のイメージは、ただただカッコいいアニキがいると映っていた。

 冒頭、ビルの屋上を俯瞰で捉えるカットから始まる。スナイパーの松下(加山雄三)が煙草の煙で風の流れを読み、ビルの谷間を走る新幹線に乗っているターゲットを、スコープ付ライフルで狙撃する。消した煙草はきちんと上着のポケットの中にしまい、悠然とビル下に停めておいたトヨタ2000GTに乗り込み、駅のコインロッカーへ金を取りに行く。次のカットはベットに寝ている女。女が「もっと楽しみましょ」と云う言葉を尻目に、金を女に渡して出て行く松下。ここまでほとんど口をきかない加山と、バックも無音。そしてタイトル。音楽は、ジャジーで物憂い女性のスキャット。どこまでもクールだ。
 組織の依頼を受けるところでは壁を背中にして立つなど、なんだかゴルゴ13みたいと思える箇所があるのだが、実はゴルゴ13の連載はこの年の10月から。永原秀一の脚本は、66年のイタリアン・アクションの傑作「殺しのテクニック」の影響を受けている。この「殺しのテクニック」は他にも多大な影響を与えており、「ダーティハリー」や「レオン」の原点でもある。中学生の時に見たこのロバート・ウェバーのスナイパーが実に格好よくて、この頃、モデルガンを集めだしたりしていたな。

 射撃場で知り合うファッションモデルの彰子(浅丘ルリ子)は蝶の蒐集をしていて、いつかニューギニアの地に幻の蝶を探しに行きたいと夢みている。松下が殺し屋と判ったら「なぜ、人を殺すの?」と問い、彼が「理由なんかない。生きている実感を確かめるために人を撃つ」と答えると、男の胸に飛び込んでいく。なんだかね……(笑)。それにしても浅丘ルリ子の美しいこと。グラマーではないだけに、半裸状態で踊り狂うシーンはかなりエキゾチック。
 
 さて、次に組織から依頼されたのは金塊強奪。密輸の取引現場で相手を皆殺しにして横取りをするのだが、なんとも乱暴な話。案の定、密輸団はプロの殺し屋を日本に送り込んでくる。飛行機のタラップから降りて来たのは、ブロンド女性を連れた壮年の殺し屋・片倉(森雅之)。渋いっ。それでいて腕がたつ。松下はこのベテランスナイパーに追いつめられていく。
 そうそう、松下を援助する銃器のプロ深沢を演じるのが、岸田森! 何に出ても強烈な個性を見せてくれます。43才の死は、あまりに早すぎたよなぁ。
 ラストは男と男、一対一の対決。
 浜辺での一騎討ちは、黒沢明に師事した堀川弘通監督だけに、息のつけない緊張感があった。

 脚本の永原秀一は、この映画の前年には宍戸錠主演の傑作「拳銃は俺のパスポート」を書いていて(映画館で見たのは'84年)、70年代には「野良猫ロックシリーズ」「無頼」「新宿アウトロー・ぶっ飛ばせ!」など日活ニューアクションを。そして、松田優作の「遊戯」シリーズや「蘇る金狼」もこの人。テレビでは「西部警察」が有名だ。

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「天使のはらわた 赤い教室」*曽根中生監督作品



監督:曽根中生
原作:石井隆
脚本:石井隆、曽根中生
音楽:泉つとむ
出演:水原ゆう紀、蟹江敬三、水島美奈子、草薙良一

☆☆☆☆★ 1979年/にっかつ/79分

    ◇

 男の純真さと女の絶望は、男と女の世界の中で永遠にわかりあえないこととして存在する。自虐的にとことん奈落に沈んでいくしか生きていけない女の性は、そんな女に対して一途な恋ごころを抱いてしまう男を笑い飛ばすこともできないほど壮絶だ。奈落の底から見えるものは、男の純情の中のエゴ。それを見抜いているところが、女の恐さでもある。
 この映画は、劇画家石井隆の初のシナリオとして映画化された「天使のはらわたシリーズ」の2作目で、日活ロマンポルノの中でも、激しく切ない秀作だ。

 ブルーフィルムの中の名美(水原ゆう紀)に魅せられたポルノ雑誌社の編集者村木哲郎(蟹江敬三)は、偶然、仕事場に使用するラブホテルの受付で彼女に出会う。見つけ出した彼女の口からでた言葉は「私を抱きたいのでしょ」。フィルムに映っていたレイプは教育実習生だった頃の忌まわしい事実で、心ない噂により教職に就くこともできず、フィルムを見ては脅迫してくる不特定多数の男性から逃げるために身を潜める生活をしていたのだ。そんな境遇から救い出してやるからと彼女を説得し、あらためて再会の約束をする村木。
 しかしその約束の日、村木は猥褻図画販売容疑で逮捕されてしまう。村木の言葉に一縷の望みを賭けていた名美は、指定された公園で降りだしてきた雨のなかを何時間も待ち続けていた。絶望した彼女は、行きずりの男に躰を預けながら奈落の底に堕ちて行くことになる。
 3年後、結婚をして雑誌社も軌道に乗せた村木は、場末のスナックで偶然にも名美と再会をする。そこは絶望と不条理がまかり通っている世界だった。

 これぞ石井隆ワールドといったところか。
 曽根中生監督の演出・映像的実験も見応えがある。
 まず、最初の旅館の長廻しシーン。夕方から夜に変わる照明の中、村木が一生懸命に胸の内を語りながら彼女に優しく接し、「明日、あらためてデートしてくれないか。」と場所と時間を指定して出て行くのだが、その間、名美は裸の背中を画面に向けたままの姿勢でいる。名美の表情を見せないことで、逆に彼女の心が動かされていく経過が伝わってくる。
 再会のシーンも面白い。カメラが厚化粧の名美の姿を追いながら、所々に、高速で左右にぶれる映像カットが何度も挿入される。村木のこころの動揺と、名美のこころの中の不気味さが表れている。

 村木以外に名美のそばにもうひとり男が出てくる。落ちぶれたボクサーくずれの元歌手でヒモのマー坊。自分の思い通りのことが出来ず、アウトローな世界に埋もれてしまった男だ。自分がこんな環境にいることを嘆き、泣きながら名美を抱いている。村木は、名美を救う事で、今いる惨めな環境を輝くものにできるのかもしれないと幻想するわけで、結局いつも名美のまわりの男たちは、彼女の掌で踊っている哀しい存在でしかない。
 夜ごとスナックの2階で白黒ショーを演じながら、男たちに弄ばれる名美の姿を見て、「ひど過ぎる………」と声も出ない村木に対して名美は、棲む世界の違いをまざまざと見せつけるだけだ。

 工事現場の解体跡地でふたりが対峙する引きの画のラスト。あの日のことを詫び「3年間捜し続けてきた」という村木に対して、「私はたったの3時間。たったの……」と応える名美。ふたりの間の時間の深さが、何て切ないことか。「過去なんてどうでもいい!」という村木に、名美が言い放つ言葉は痛烈。「来る?あなたが」。日常生活を捨てられない村木は絶句するだけで、佇みながら「いちゃいけないよ、あんたは。」と言うのが精一杯。
 生きている世界の違いは、ずっと相容れないまま深くて暗い川(ここでは工事現場の水たまり)として、男と女の間にあるだけなのだ。
 水たまりに写る自分を踏み付けるようにして去る名美の姿を、俯瞰カメラが不安定に捉えるラストカットは秀逸。

「殺しの分け前/ポイント・ブランク」ジョン・ブアマン

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POINT BLANK
監督:ジョン・ブアマン
原作:リチャード・スターク
脚本:アレクサンダー・ヤコブス、デビッドニューハウス
出演:リー・マーヴィン、アンジー・ディキンソン、キーナン・ウィン
 
☆☆☆☆ 1967年/アメリカ/92分

    ◇

 リチャード・スターク原作のクライム・ノヴェル(犯罪小説)で、1962年に書かれた「悪党パーカー」シリーズの第1作目「人狩り」の映画化。モノクロ時代のハードボイルド映画を別にして、60年代以降のフィルムノワール作品としてまっ先に挙げたいのがこの映画だ。パルプ・マガジン的なB級映画の趣きだが、機会があれば見ていただきたい。(とは云っても、ビデオは廃盤でDVD化もないが) ちなみに、版権の関係で主人公の名前はパーカーからウォーカーに変わっている。

 ストーリーは単純。旧友リース(ジョン・ヴァーノン)に誘われアルカトラス島での強盗を働いた一匹狼ウォーカー(リー・マーヴィン)は、犯行直後にリースの裏切りで至近距離〈ポイントブランク〉から撃たれ、金と自分の妻を奪われる。復讐の鬼となったウォーカーは、謎の男(キーナン・ウィン)と妻の妹クリス(アンジー・ディキンソン)の協力で、自分の分け前を取り戻すべく、組織に挑んでいく……。

 主役のリー・マーヴィンは当時無骨な男の代表格であり、渋い低音の声も魅力で、アンチヒーローを多く演じてきた俳優。戦争映画のイメージも強く、この時期、「特攻大作戦」(ロバート・アルドリッチ監督)というむちゃくちゃ面白い映画もあるし、晩年に撮られた「最前線物語」('80)では、戦場で生き抜いていくことの意味をベテラン軍曹と若い4人の兵士との話で綴った秀作もある。

 さて映画は、冷酷無比な主人公を演じるクールなリー・マーヴィンと、登場人物の渇いた台詞がいかにもハードボイルドな世界を構築する。アンジー・ディキンソンが、リーの胸板を延々と叩きつづけるシーン。ここは、男は黙って立っているだけの、中々感じる場面になっている。
 映像的には、フラッシュバック処理が多用され進んでいく。ただ、当時のサイケデリックブームを反映してか、幻想的なシーンも見られ、いま見ると何かカッタるいかもしれない。
 
 復讐の相手リースは簡単に殺してしまい、そのあと、組織の幹部たちをひとりづつ追い詰めていくのだが、余計な説明は一切省き、ウォーカーの行動だけに重点をおいた演出。時代性かもしれないが、今のアメリカ映画のように派手なアクションシーンはない。しかし、派手さだけに目がいくアクション映画なんかより、余程このクールさの方がカッコいい映画だ。

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 アンジー・ディキンソンは、いわゆるB級ものにはなくてはならないベテラン女優で、後年、ブライアン・デ・パルマ監督(今では大物ですが、彼の本質はB級スリラー映画監督だと思う)の「殺しのドレス」('80)での官能人妻は印象深い。バート・バカラックの奥方でもあったけれど、この「殺しのドレス」のあと離婚した。

 さてこのパーカーシリーズ、翌年には7作目の「汚れた7人」が映画化されている。このときのパーカー役は、リー・マーヴィンと一緒に「特攻大作戦」に出演していたジム・ブラウンという黒人俳優が演じていた。怪優ドナルド・サザーランドやジーン・ハックマンも出ていて、これもなかなか面白い映画だった記憶がある。
 1999年には、「L.A.コンフィデンシャル」の脚本家ブライアン・ヘルゲランドが監督でメル・ギブソン主演で、この「人狩り」を「ペイバック」としてリメイクしているが、見ていません。なんでも、ヘルゲランドが監督を途中降板していたらしく、メルの実質監督作品みたいなものだったとか。ヘルゲランド版は、ダークな話で組織のボスの役にアンジー・ディキンソンを起用(声のみ)予定だったらしい。これなら見たいっ。

「キッドナップ・ブルース」*浅井慎平監督作品




脚本・監督・撮影・照明:浅井慎平
音楽:山下洋輔
挿入歌:「狂い咲きのフライデイ・ナイト」
    作詞・作曲/桑田佳祐  歌/タモリ
出演:タモリ一義、大和舞、伊丹十三、竹下景子、川谷拓三、吉行和子、根津甚八、桃井かおり、内藤陳、宮本信子、小松方正、所ジョージ、室田日出男、岡本喜八、淀川長治、小倉エージ、おすぎ、ピーコ、佐藤B作、藤田弓子

☆☆☆ 1982年/ATG/92分

    ◇

 映画から物語性を排除したらどうなるか。この映画はその答えのひとつになっているかもしれない。
  
 自転車に乗った中年の男(タモリ)が、地下駐車場で幼い少女に声をかける。「海が見たい」という少女を自転車に乗せて、男と少女とぬいぐるみのゴリラが共に旅をすることになる。田舎道、海岸、夜道、旅館、農家、居酒屋、小学校、バー、床屋と、いろんな所でいろいろな人間たちと出会う。
 ふたりが出会う人間は多い。農家で『恋愛論』を語る男(川谷拓三)、風呂屋で話し掛けてくる男(内藤陳)、『心理学』と『応援歌』をがなる男(伊丹十三)、おでんやと云われて怒り出す屋台の主人(渡辺文雄)、ピアニスト(山下洋輔)、酔っぱらい(根津甚八)、小学校の女教師 (竹下景子)、バーのマダム(吉行和子)etc...

 写真家・浅井慎平の初監督作品は、ストーリーを書いても何の意味も持たない。映っているのは被写体として、人工的な物(空 き缶、電話ボックス、カメラ、ラジオなど)と、自然の美しい景色(海岸、一本道など)が人間と同列に並べられているだけだ。その中には俳優森田一義はいない。ましてや、芸人やミュージシャンとしてのタモリがいるわけでもない。曖昧な存在として浮遊する男がいるだけだ。
 写真集のような“風景”の中を、男と少女が“風”となって通り過ぎて行く。自由に語る人たちに紛れて存在するだけのふたりには、人と人とのコミュニケーションは稀薄だ。しかし、語る人々の体温は伝わる。温もりがあるからふたりは自由に旅ができる。
 夏から冬にかけて続けられた旅は、雪山にいる男の前に突然鉄格子が立てられ、終わる。
 しかし物語のリアリズムがないから、そのオリのうしろには囲いも何もない。ただ雪景色が広がるだけ……。

この映画は、好きか嫌いかがはっきりと分かれるだろうが、浅井慎平の写真集ならぬ映像集として、気に入った。

球春来る

 プロ野球セリーグが開幕されました。根っからのドラゴンズファンとしては、今夜のサヨナラ満塁ホームランには痺れたね。エース同士の投手戦も見応えあるが、やっぱりサヨナラは気持ちいいっスよ。去年の4番が6 番を打つ効果、今年のドラゴンズを象徴するような試合だった。
 で、気持ちいい時間を過ごしたあと、今夜アップしようとしたレヴューを消してしまいました。月初めに何てことを……。
 明日から仕切り直しです。