TEA FOR ONE

まぁお茶でも飲みながら気ままに、好きなことを、すこ~しネタバレしながら、のんびりと………。

「オッド・トーマスの予知夢」ディーン・クーンツ



 死者の霊を見ることができる青年オッド・トーマスの青春成長記シリーズの4作目となる本作は、現在のところこれ以降の物語が書かれていないので、まずは、第1部の完結編となる。

 海辺の町マジック・ビーチに引き寄せられやって来たオッド・トーマス。そこで暮らし始めて1ヶ月以上経つ彼は、海が真っ赤に染まり幻想的に海面がうねる悪夢を夜中に二度見るようになる。
 ある日、桟橋でアンナマリアという謎めいた女性に会う。彼女はなぜかオッドのことを知っており、怪しげな男たちに狙われていた。この町で何かが起きようとしていることを調べはじめたオッドは、やがて恐ろしい陰謀を知ることになる……。

    ◇

 今回、ボダッハと呼ばれる人の死を嗅ぎ付けて現われる悪霊は登場せず、アルマゲドンとなる大量の死の予感は、オッドと陰謀を企む人間との間で共有するビジョンに現われる。
 何かしらの使命を得ているアンナマリアと一緒にいるときに感じる奇跡の体験で、オッドはひとりで陰謀と闘うことを決心するのだが、それはオッドの“正義”に基ずく自らのアイデンティティを認識することに繋がっている。
 だから、何の迷いもなくジェームズ・ボンドのようなアクションを繰り広げる事になる。
 今回はハードボイルドだ。

 これまでの3作とは決定的に違うオッドの姿は「えっ?こんなことアリ?」って展開で、これまで読んできた我々ファンには大きな違和感がつきまとうのだが、しかし、それでも、詩的な描写と映画的アクション、アクションの間に放たれるオッドのユーモアは文句なく面白い。

 相変わらず、オッドを取り巻く人間たちは個性豊かで魅力がいっぱいである。
 流れ着いたオッドを料理人として雇う家の住人は、御年八十八になる元映画俳優のハッチ。映画的にものを考え、ファンタジーのなかで生きている。
 この町で出来た友人ブロッサムは、幼少時に酔っぱらった父親に燃え盛る灯油缶に放り込まれ、形成外科の手術跡が生々しい姿となり“陽気なモンスター”と呼ばれている。「悔恨は必ず贖罪につながる」と信じていて、自分を殺しかけた父親を老人ホームに入居させて面倒をみている。
 ワンシーンだけ登場する元ごみ収集会社を経営していたバーディは、1959年型のキャディラックに乗った老婦人で、オッドの大きな後ろ盾になる。
 そして、前作でプレスリーの霊と入れ替わり登場してきたシナトラの霊は、今回大活躍する。オッドとシナトラとのやりとり(オッドには霊が見えても霊と会話をすることはできないのだが)は読み応えあり。

 「人生ってつらい。でもそればかりじゃないわ」

 正体がわからないままのアンナマリアと一緒に旅をつづけるオッドには、生きているレトリヴァーと幽霊犬ブーとシナトラの霊が。そして、“陽気なモンスター”もつづく予感。
 彼らの旅の先、第2部が待ち遠しい。

    ◇

オッド・トーマスの 予知夢/ディーン・クーンツ
訳:中原裕子
【ハヤカワ文庫】
定価 1,029円(税込)

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「ヴェロシティ」ディーン・クーンツ



 本国アメリカでは2005年に発表されたクーンツの日本最新刊(10月発刊)で、クーンツらしい不条理サスペンスの傑作だ。

 カリフォルニアのナパ・ヴァレー。
 主人公ビリー・ワイルズは、少年期に両親との間に起きた出来事をトラウマを克服しながら小説家として歩み始めたが、その矢先に、恋人のバーバラが事故により昏睡状態となってしまった。以来、ビリーは小説家の道を閉ざし、人とのコミュニケーションを極力避け、バーバラを見守りながらバーテンとしてひっそりと暮らしていた。
 静かに日常を過ごしていたある日、一通の不審なメモからビリーの生活は一変した。それは殺人予告。
 「おまえがこのメモを警察に届けないと、金髪美人の教師が死ぬ。おまえがこのメモを警察に届けたら、慈善活動に勤しんでいるばあさんを殺す。6時間以内に決断しろ。どちらを選ぶかは、おまえ次第だ」
 否応なく犠牲者を選ばせる脅迫状だった。そして正体不明の犯人の予告通りに、事件の容疑者をビリーに仕立て上げるような痕跡を残しながら連続殺人がはじまる……。

 自分が狙われるのではなく、自分の行動で必ず誰かが死ぬのだから、そこに生まれるのはビリーの良心の呵責。
 この正体不明で異常な殺人者に、絶体絶命のビリーはどう立ち向かうのか。

 また、4年もの軽い昏睡状態にある恋人が、時々口走る不可解な単語は何を意味するのか。
 不利な状況が速度〈ヴェロシティ〉を増し続ける恐怖に立ち向かうのも、逃げ場のない状態での孤軍奮闘も、この眠れる恋人の存在がある。
 主人公の行動は、進むか否かで悩むより、正義のために自分の存在理由を定め突き進む。
 後半、性急過ぎる終わりを迎えるが、ラストの数行はいいぞ。

    ◇

ヴェロシティ(上)(下)/ディーン・クーンツ
訳:田中一江
【講談社文庫】
定価 各838円(税別)

「オッド・トーマスの救済」ディーン・クーンツ



 〈オッド・トーマス・シリーズ〉第3弾。

 シェラネヴァダ山脈の奥深くに建つ修道院で、心の平静を求め滞在するオッド青年は、12月の深夜、ボダッハ(悪霊)を見る。ボダッハの出現は大惨事の前触れだ。
 その日、修道士のひとりが忽然と消え、猛吹雪の中、修道院の施設にいる子供たちを守るために闘うオッドの前には、顔のない修道士と想像を絶する怪物が姿を見せるのだった……。
 
    ◇

 かつてのモダンホラーに登場したような怪物が出現し、サスペンスとサプライズも充分に面白く、シリーズ最高傑作と謳われてはいるのだが、今回はいままでよりも回りくどい展開で、少々イライラしながら読んでいたので読み切るのに少し時間がかかってしまった。
 また、雪に閉ざされた修道院と子供たちのいる施設との位置関係がよく分からないため、救出に行き来する時間的状況に混乱する羽目にも……。

 事件は、クーンツならではの大風呂敷を広げたハッタリ話で集結するパターンである。

 ただ、死者との繋がりに苦悩と愛を捧げつづける心優しいオッド青年のガンバリには、人生には美しき奇跡があるのだと示される。

 事件が終わり、最後のページには、今作までオッド青年と行動を共にしていたエルビスの霊と入れ違いに、偉大なる某シンガーの霊が新たに登場し、犬のBoo(正体がクーンツらしい)と共に次なる旅が始まる。

 一人称のオッド青年の語りは、実は何らかの仕掛けになっているのかもしれない。最終作で明かされるだろう展開が、楽しみである。


    ◇

オッド・トーマスの救済/ディーン・クーンツ
訳:中原裕子
【ハヤカワ文庫】
定価 1,050円(税込)

「一年でいちばん暗い夕暮れに」ディーン・クーンツ



 クーンツらしからぬ詩的なタイトルで目を惹く新刊は、“オッド・トーマス・シリーズ”の間にリリースされた“犬”への愛に満ちたサスペンス・ストーリー。

 ドッグ・レスキューとして虐げられた犬の保護施設を運営するエイミーが、ある日、恋人の建築家ブライアンとともに不思議なゴールデン・レトリーバーを助ける。自ら2頭のゴールデン・レトリーバーを飼っているエイミーは、ニッキーと名付けられたその犬も仲間に加えた。
 その夜帰宅したブライアンは、突然ニッキーの肖像画を描く衝動に駆られ、一昼夜にも及びデッサンする手が止まらなくなるという奇妙な体験をする。
 同じ頃、邪悪な男女一組がある計画を実行に移そうとしていた。
 そして、孤児だったエイミーの隠された過去を掘り起こそうとする二人の探偵や、謎の殺し屋らが現れるのだが…………。

    ◇

 ストーリーはダークな人物設定満載のチェイス物として楽しめるのだが、ラスト数頁は驚異の展開。読んだものたちの読後感を混乱させる強者クーンツの面目躍如というか、とにかく、凄いと云う言葉しか形容できない。クーンツ節を堪能できる快作である!

 エイミーとブライアンと犬のニッキーら善に対し、彼らに絡んでくる悪党たちのキャラクターが相変わらずイカレていて面白い。
 恐ろしくヴァイオレンスなムーンガールとハロー。ヴァーチャル世界に嵌る探偵ヴァーノン・レスリーと若い相棒ボビー。徹底した非情ぶりを見せる殺し屋ビリー・ピルグリムと葬儀屋ジュリエットとの短いエピソードなど、ここ10数年のクーンツらしい比喩的表現が盛り込まれた無意味な会話の数々が冴えている。

 バラバラと思われる登場人物が終盤につれてひとつの環となるのだが、ただ、収拾のつかないエピソードが放りっぱなしの山となるところはご愛嬌。ご都合主義なところがクーンツらしいのだからここは目をつぶるとして、一気呵成ノンストップで突っ走るクーンツのストーリーテリングは、やはり凄いのだ。
 クライマックスは、サム・ペキンパーの映画のスローモーションを思い浮かべるシーン描写で、迫力と、哀切と、そして……………混乱。
 常にクーンツらしさを忘れない最終章まで、心して読め。と云ったところだろう。

    ◇

一年でいちばん暗い夕暮れに/ディーン・クーンツ
訳:松本依子、佐藤由樹子
【ハヤカワ文庫】
定価 1,029円(税込)


「オッド・トーマスの受難」ディーン・クーンツ



 クーンツの最新刊は、前作「オッド・トーマスの霊感」につづく〈オッド・トーマス・シリーズ〉第2弾。

 死者の霊を見ることができる青年オッド・トーマスの前に、知り合いのドクター・ジェサップの霊が現れた。霊に導かれて行った彼の家には、殺されたドクターの死体があり、オッドの親友で骨形成不全症を患っている養子のダニーが誘拐されていた。
 ダニーの行方を追うオッドは、彼の霊能力を狙う邪悪な犯人と対決することになる……。

    ◇

 1作目ほどのインパクトはないが、狂人である悪女らと地下水道や廃虚で死闘を繰り広げるアクションは多い。ただ、このシリーズはアクションは二の次である。

 ピュアな聖人オッド・トーマスという青年の静寂な生き方に触れ、オッドの周りにいる登場人物らとの深みのある会話に癒され、生きている意味を考え、生きていく希望を得る。読後の余韻は相当なる快感である。
 これは、人生の指南書であり、エンタテインメントな宗教書とも云える。

 ぜひ、1作目から順繰りに読んでほしい。

    ◇

オッド・トーマスの受難/ディーン・クーンツ
訳:中原裕子
【ハヤカワ文庫】
定価 1,029円(税込)

「オッド・トーマスの霊感」ディーン・クーンツ

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 クーンツの翻訳としては最新刊となるノンストップ・サスペンスは、ホラー、SF、ミステリ、ロマンス、すべての要素を兼ね備えた大作〈オッド・トーマス〉シリーズの第1作目となる傑作、いや、大傑作である。

 ダイナーのコックで20歳のオッド・トーマスは、死者の霊を見ることができ、霊の伝えたいことを理解できると同時に、人の死に寄り付くボダッハと呼ばれる悪霊も見える青年。
 ある日、彼が勤めるグリルに来た初めての客に、数匹のボダッハが取り憑いているのを見て不吉な予感を感じたオッドは、男の住む家を調べ侵入するが、そこに見たものは猟奇的な殺人者を崇拝する男の正体であり、更に、翌日の8月15日に恐ろしい事が起きるのを感じた。災いをなんとか食い止めようとするオッドだが………。

    ◇

 “霊を見る男”からして映画『シックス・センス』のような大ハッタリを連想し、「主人公がアレで、コレが伏線で、こう展開するのだな」と予想して読み始めたのだが、こりゃぁ、想像を覆す内容だった。
 さすがクーンツ! 一筋縄ではいかないゾ。
 『シックス・センス』なんて足元にも及ばない展開と、登場人物の魅力で文庫550頁の長篇を、一気に読み終えた。
 
 クーンツにしては珍しい一人称語りの文章は、プロローグでいきなりある作品の引用を明かして始まるのだが、いったいこの作品に何が仕掛けられているのか。
 仕掛けがあると、ここまでは書いてもいいだろうと判断したが、どこまで書けばいいかは難しいところなので、これ以上ストーリーに関しては書かないことにする。この手法が見事に成功していることを、読んで実感して欲しい。

 その一人称の文章は、個性豊かな登場人物たちとのウィットある会話に余韻が持たれる。幼い頃両親を亡くした恋人のストーミーは常にポジティヴ精神の持ち主、ダイナーの経営者でエルヴィス・プレスリーに取りつかれているテリ・スタンボー、町の警察署長のワイアット・ポータと妻のカーラも、オッドの経験を手記にするよう勧め息子のように慕うミステリ作家のリトル・オジーも、みんなオッドの秘密を知る友人たち。そのひとり一人との関係や人物像が、実に風変わりで魅力的に描かれている。
 あ、もうひとり、エルヴィス・プレスリーの幽霊も大事な登場者だ。涙を流すプレスリーにも訳があるのだから……。

 もちろん、主人公オッドが恐怖を抱きながら運命に立ち向かう姿勢は、世界を救うための自己犠牲的精神で、その善良な心の持ち主に胸打たれるところであり、こころ温まる物語となっている要因でもある。
 クーンツ・ファンには過去の作品の集大成であり、初めての読者にはエンターテインメント小説を堪能して欲しいおススメ作品である。

 この作品の本国アメリカでの上梓は2003年で、シリーズはこのあと2008年の第4作目まで発刊されている。クーンツの構想では6~7作のシリーズを考えているようだが、まずは“シリーズ2”の翻訳が待ち遠しい。

    ◇

オッド・トーマスの霊感/ディーン・クーンツ
訳:中原裕子
【ハヤカワ文庫】
定価 1,050円(税込)

「善良な男」ディーン・クーンツ



 本国アメリカで2007年に刊行され2008年に翻訳されたこの作品は、クーンツお得意の“ジェットコースター・サスペンス”である。

 大男で物静かなレンガ職人ティムは、友人夫婦が経営する馴染みの酒場で、いつも決まった奥の席に座り一杯飲むのを日常にしている。
 ある日、ティムの隣に座った男に殺し屋と間違われ、ある女性の殺人計画を知ることになる。ティムは殺される標的の女性リンダのもとに危険を知らせに行くが、すでに、本物の殺し屋の追跡が始まっていた……。 

 「男は、正義のために女を守り抜く」

 ヒチコック映画を想起する“巻き込まれ型”の典型で、とにかくシンプルに、わずか2日間の追いつ追われつの追跡劇が展開される。
 初期の傑作『戦慄のシャドウファイア』('87)や『ファントム』('83)でファンになった者には堪えられないほどうれしく、昔ながらのスタイルを貫き通しているクーンツの妙技に酔うことができる。
 そのうえ、3部構成(それぞれのタイトルが面白い)の中を細かくチャプター分けして場面転換が図られているので、映画を見ているような感覚で、緊迫感だけで一気に読める作品となっている。

 興味深いのはここ何年間のクーンツが書く文体、会話の面白さだ。ハラハラドキドキ感だけで物語を進行させるのではなく、主人公らの会話の妙を楽しめるのもクーンツ作品ということになる。
 冒頭、友人でバーテンダーのリーアムとの会話や殺し屋と依頼人との会話はハードボイルド小説だし、リンダとの逃避行中の会話はウイットとユーモアにあふれている。

 主人公らがいくら逃げてもあっという間に追い付いてくる殺し屋クライトのキャラクターは、かなりのアブノーマルでパラノイアな人間。ヴードゥー教の悪魔の人形(『チックタック』)や、超自然現象から現れた怪物(『ファントム』)や、科学実験から生まれた化け物(『戦慄のシャドウファイア』)などのようなスーパーナチュラルではなく、存在だけでサスペンスの効果を上げる魅力ある敵役となっている。
 ふたりを追う過程で訪れる家の住人らと交わす会話は、どれも不気味でゾクゾクさせられる。

 さて、途中ティムの友人で刑事のピ-トの協力を得ながら、殺しの背景に警察や政府機関をも動かせる大きな組織の存在がわかるのだが、この顛末がクーンツらしい大風呂敷の広げ方。
 ワンパターンと云われようが、楽しんで読むのが一番なのだ。

    ◇

善良な男/ディーン・クーンツ
訳:中原裕子
【ハヤカワ文庫】
定価 940円(税別)