TEA FOR ONE

まぁお茶でも飲みながら気ままに、好きなことを、すこ~しネタバレしながら、のんびりと………。

「父が来た道」*出目昌伸テレビドラマ作品

本文は、閉鎖中の余貴美子非公式応援サイト「Y's Passion」に綴ってきた余貴美子出演作品レヴューを再録・加筆修正したものです。敬称略。


監督:出目昌伸
原作:高村薫『地を這う虫』より
脚本:鎌田敏夫
出演:阿部寛、渡辺えり子、余貴美子、神山繁、、富士真奈美、前田吟、内藤武敏、立川三貴

初回放映:2005年11月28日 TBS「月曜ミステリー劇場」


 高村薫の短編集『地を這う虫』に収められた一編を、原作にはない代議士の女性秘書の献身的関係を追加し、主人公と彼に寄り添う年上の情婦との関係を描きながら、ドラマは政界の闇に迫るサスペンスというよりストイックな男の生きざまと「父親が生きて来た道」から逃れることのできないふたりの人間にスポットが当てられた。

 戸田慎一郎(阿部寛)は、政府与党の代議士・佐多 (神山繁)の運転手をしている。慎一郎と佐多の間には深い因縁があった。 慎一郎の父・信雄(内藤武敏)はかつて、佐多の選挙区で中堅の建設会社を営んでいた。信雄は後援会長として佐多に尽くしたが、選挙違反の罪を一身に背負って獄につながれ、すべてを失った。慎一郎も勤めていた警視庁をやめざるを得なかった。
 佐多は慎一郎にとって、親子二代の人生を台無しにした男だ。その佐多からの運転手にならないかという誘いを、慎一郎はなぜ受け入れたのか周囲の誰もが疑問に思っていた。しかし、慎一郎は何も語らず、日々の仕事を黙々とこなしていた。
 ある日、公安の刑事・久瀬(立川三貴)が接触し、佐多の政治生命を断つための情報提供を求めてきた。一方で佐多は、行方不明になった裏金の回収を慎一郎に依頼する。
 二重スパイ的行為から自分に有利なカードを手にする慎一郎だが、個人の意思 が何ともし難い世界のなかでは、自分が存在していること自体が無意味に思えてくることの非情さと虚しさを感じることになる。

 口数の少ない慎一郎とは逆に、佐多の第一秘書の服部千秋(渡辺えり子)はよく喋 る。
 しかし彼女も慎一郎と同じような孤独を抱えている。佐多に対して献身的な仕事を終えた彼女が、慎一郎の運転する車の後部座席で『津軽海峡冬景色』を熱唱し、そしてひとり高層マンションの部屋に帰ってくる姿には、美貌とは無縁の中年女性の悲哀と孤独感しかない。
 ドラマ後半、実は千秋が佐多の娘だと明かされ、それまでの千秋の佐多への献身が男女の危うい恋愛感情ではなく、父娘の恋慕だったと理解できる。非嫡出子で産まれた千秋の唯一の父親との思い出は、幼い頃に津軽で繋いだ手の温もり。
 この少女じみた慕情を渡辺えり子が演じると一層に哀しい。渡辺えり子の、笑っているようで笑えない微妙な表情の芝居が凄い。

 不器用で醒めた生き方しかできない孤独な慎一郎を、優しく包み込む年増女の清子(余貴美子)の存在は大事だ。その浮遊感が、慎一郎の「父が来た道」からの脱却に大きな影響を与えることになる。
 浮き草のような人生を体現している中年女性に余貴美子は見事に息を吹き込んでいる。男なら誰でも包まれたい思いにかられるひとつの女性像のあり方だろう。

 演出の出目昌伸は、映画『天国の駅』('84)において吉永小百合を汚れ役とし て起用し、女の情念を見事に描いて見せた監督。 阿部寛と余貴美子の40代の男女の恋愛表現は、今どきのテレビドラマの範疇ではギリギリと思えるほど息を飲む。
 土砂降りの公衆電話ボックスの中での抱擁は濃密で、冷たい夜気に曇る個室のなかの息づかいが艶かしくエロティックであり、大人の愛の表現がキスや愛撫とい った直接的表現だけではないことを魅せてくれる。余貴美子の目の配りかたや身のこなし方ひとつに艶のある演技が見られるのである。
 情事のあと慎一郎が清子の背中の汗を拭くシーンや、後ろから抱きすくめられたときの上気 した中年女性の愛らしさは、阿部寛くらいの恵まれた体躯が相手となると女性の姿が生々しさより可愛らしさに見えてくるようだ。

 佐多が死に、行き場を無くした裏金を千秋から受け取り母親に渡す慎一郎。認知症で老人ホームで過ごしている父親にかかる費用は、慎一郎が一番恨めしく思っていた佐多の金になる。それでもいい。復讐を果たす事なく「父が歩んだ道」から逃れ「愛する女と歩む道」を選んだ慎一郎には、微かな光しか灯っていなくても未来を拓いた。
 千秋は「孤独な道」のつづきと分かっていても「父が来た道」を守ることしかできない。佐多が病床の最期に、彼女の掌に書いた海という指文字の温もりを思い出として生きていくしかない哀しい女性だ。

 温もりを望む男・慎一郎と、温もりを与える女・清子。そして、温もりを守る女・千秋。三者の生き方に胸震える秀作ドラマだった。


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コメディエンヌ余貴美子の七変化「実演販売人 轟安二郎」

本文は、閉鎖中の余貴美子非公式応援サイト「Y's Passion」に綴ってきた余貴美子出演作品レヴューを再録・加筆修正したものです。敬称略。


演出:猪崎宣昭
脚本:西岡 琢也
出演:内藤剛志、余貴美子、石倉三郎、徳井優、山口もえ、香坂みゆき、鷲尾真知子、佐々木すみ江、左とん平

放送:2000年6月5日/TBS「月曜ドラマスペシャル」


 余貴美子ファンとしては天性のコメディエンヌぶりを紹介しておきたいドラマ。余貴美子の女結婚詐欺師七変化ぶりは秀逸。どこかで再放送があれば是非見て欲しい。

 登場するやいなやオーヴァーアクションで笑いを誘う余貴美子の、美しさからくるギャップの可笑しさは決してイヤミになるのではなく、むしろ愛らしさを感じるのは、サブキャラクターとしての立ち位置に合わせた軽妙さを難なく演じ分けられる彼女ならではの品格であろう。

 主人公の轟・通称ヤス(内藤剛志)は2年前に借金を抱え、金融会社の社長・宇賀神(石倉三郎)と社員の犬山(徳井優)に追われている。母と娘を伊豆の伊東の実家に残し偽名を名乗りながら、自分から4,000万円の金を騙し取った美加(余貴美子)を探すために、実演販売をしながら東京の各地を廻っていた。
 あるデパートで美加を見付けた轟は、金を返して貰うため 美加と一緒に美加の愛人で金貸しの高倉を訪ねる。 ところがそこで高倉の遺体を見つけ、 逃げ出した美加の後を追うようにして轟も高倉の部屋を飛び出すが、逃げる姿を隣室の貞子(鷲尾真知子)に目撃されるなどで事件に関わることになってしまう……。

 真相究明をヤスと美加が協力しながら犯人を探すことになるのかと思いきや、安易にふたりの探偵ごっこにはならない。美加のキャラクターは、あの手この手と甘い言葉を使いながらヤスから逃げ回る道化に徹している。
 シリアスな殺人事件と平行して描かれるヤスと美加のエピソードは、石倉三郎&徳井優コンビをブルースブラザースに見立ててのドタバタ劇。

 余貴美子の七変化は………まずは真っ赤なショートのウィッグを付けて登場。チリチリヘアーになったり真っ白なウィッグを付けたり、タイトスカート姿で男たちを手玉にとる。
 甘い言葉のあ とに「チョロイ、チョロイ」と舌を出し、指をくわえる仕草と、風呂上がりの素肌に男もののシャツを羽織る40代のカマトトぶりはキュート以外に何ものでもない。
  ボブヘアーに水玉模様のワンピース姿はバービー人形さながらのスタイリッシュさで、『テルマ&ルイーズ』の如く砂塵の彼方に消えていく。
 事件解決後のエピローグは、粋な和服姿で石倉三郎や内藤剛志を煙に巻いてトンズラする。シリーズ化されなかったのが残念なほど、このチームのコンビネーションは抜群だった。


「女の中の二つの顔」*中原俊テレビドラマ作品

本文は、閉鎖中の余貴美子非公式応援サイト「Y's Passion」に綴ってきた余貴美子出演作品レヴューを再録・加筆修正したものです。敬称略。

監督:中原 俊
原作:エドワード・アタイヤ「細い線」
脚本:西岡琢也
出演:余貴美子、村上弘明、本田博太郎、岸田今日子、洞口依子、杉本彩、甲本雅裕、でんでん

初回放映:2004年8月25日 テレビ東京「女と愛とミステリー」


 友人の妻と不倫をし誤ってその女性を死なせてしまった男の苦悩と、妻としての女性の業を描いたドラマで、原作はエドワード・アタイヤのミステリー「細い線」。
 この原作は、1966年成瀬巳喜男監督晩年の作品として、新珠三千代と小林桂樹主演で『女の中にいる他人』というタイトルで映画化されたものが有名だ。


「姉さん、アヤノが変なこと言い出すんだ。どうしても姉さんに会いたいって……」

 6年前、滝川絵美子(余貴美子)の弟・孝介は、不可解な言葉を残したまま車の転落事故で死亡。その時の同乗者で、当時孝介の婚約者だった佐島彩乃(杉本彩)だけが生き残った。
 絵美子の頭から、事故直前の孝介の言葉が今も離れないでいる。

 それから6年。絵美子が手伝う姑・富美(岸田今日子)の江戸組紐教室に、地元でも有名な資産家の娘である彩乃が今でも出入りしている。
 自由奔放に暮らしている彩乃は、絵美子の子供たちが通う小学校で教師をしている雅夫(村上弘明)を婿養子にしていたが、最近ふたりの仲は不穏な空気になっていた。

 その雅夫は、絵美子に青山の雑貨卸の店を紹介したり、絵美子のふたりの子どもたちに慕われたりと親密な付き合いをしている。

 ある朝、南青山のマンションで彩乃の絞殺死体が発見された。
 「南青山……」その言葉を聞いて急に不安になる絵美子。実は、彩乃が殺害された時刻と同じ頃、彩乃のマンション近くで夫の誠一郎(本田博太郎)を見かけたからだ。

 「あなたは佐島彩乃さんを恨んでいましたね」
 彩乃の葬儀の帰り、絵美子は雑誌記者に問われる。弟の七回忌の席で、絵美子と彩乃が言い争っていたことを、なぜか記者が知っていた。
 さらに、彩乃殺害現場に絵美子が編んだ組紐が落ちていたことが判明する。その頃から、絵美子にとって、分の悪い話ばかりが出回り始める。

 ある日の夜、絵美子は誠一郎から、自分が彩乃を殺したと打ち明けられる。
 彩乃とは秘められた関係で結ばれていて、首を絞める行為と締められることによって官能を得る一種SM的倒錯を楽しんでいた中での突然死だった。その事実を聞いた絵美子は愕然とするが、警察に自首するという誠一郎を、自分や子どもたちのために必死に止め、真相を闇に葬ることにする。

 一方、彩乃が殺された日に誠一郎が南青山にいたという情報が何者かに警察に流される。一気に誠一郎へ疑いが向けられる中、日々の重責に耐えられず、精神的に衰弱していく誠一郎。
 姑から、夫と彩乃との関係は結婚前から周知の事だったと知らされる絵美子。また、ある女からは誠一郎が愛人から借金をしていると聞かされる。

 とうとう誠一郎が重圧に耐えられず警察に自首をする決心をしたある晩、最期に乾杯したワインで服毒死をした。

 実は、それまでに起きたいろいろな事柄は雅夫が仕組んだことだった。
 子供たちが懐き、家族ぐるみで親交のあった雅夫がなぜ?
 絵美子は孝介の遺品から、ある重大な事実を発見した。
 雅夫の旧姓は早野雅夫。幼かった頃の孝介の同級生で、6年前の電話での「アヤノ」は「ハヤノ」だったのだ。両親のいなかった雅夫と、幸福な家庭で育った絵美子と孝介の姉弟。この事件の核は何だったのか………。

    ◇

 人間の欲望は、自分自身の防衛と相手への攻撃に支配される。

 どんな人間にも二つの顔があり、意識的に押さえ付けている片方もあれば、無意識に隠されている顔もあり、どちらの場合も些細なきっかけで簡単に表の顔と入れ替 わってしまう。
 自由奔放な一人の女性の死によって、三人の登場人物の隠された別の顔は連鎖しながらエゴが表出する。
 誠一郎の姿は自己に目覚め贖罪を求める人間の苦悩であり、絵美子は家庭を守るために夫が犯した罪の重さを共用しようとする貞淑な妻の姿。一見夫婦愛に満ちたふたりだが、実はお互いに自己中心的な欲望をはらんでいるのだ。

 殺人を告白された絵美子が平凡な日常から逸脱する道を選び、自己犠牲という手段で家庭を守ろうと覚悟をしたのに対し、誠一郎は贖罪という自由をひとりだけで得ようとする。
 誠一郎は愛人との性行為でサディズムをみせていたが、殺人を告白するという行為でマゾヒズムに転換している。

 家庭劇の終幕という幕引きは、絵美子の心中に大きな変化を植え付ける。
 家庭を守るという建て前で夫に毒を盛り、女であり続けることと、妻のプライドを守る絵美子の決意は女のエゴであり、サディズムだ。

 柔らかく穏やかな表情の余貴美子の瞳が、次第に苦悩の色から人生を見据えた覚悟の眼差しに変わっていく様は、見ている者まで重苦しく悩める気持ちにさせられる。

 30数年前の絵美子姉弟への憧れと恋慕が奇妙にねじ曲がった末での雅夫の復讐は、誠一郎を精神的に追い詰め、絵美子をも疑惑の存在に貶めることだったのだが、少し説得力に欠けるところがある。彼に操られる絵美子と誠一郎ふたりの哀れさが見事なだけに、惜しい。

 誠一郎を殺すことで夫の罪と同一化した絵美子は、それまで以上に強い女になって雅夫と対決する。

 刑事「ご主人、自殺ですって? おかしいなぁ。彩乃殺しのこと、何か聞いてません?」
 絵美子「いいえ。私が死んだら天国で主人に聞いてまいります」  
 刑事「地獄でしょ?」
 絵美子「(地獄って)わたしも?」  
 刑事「さ、どうだか」

 誠一郎の墓参りの帰り道、執拗に追う刑事(でんでん)と絵美子との対峙は緊張感ある会話が絶妙で、終幕のこのシーンから村上弘明との対決まで、悪女の香りを漂わせる余貴美子の妖艶さは素晴らしい。
 深紅のドレスに黒いロングコート姿で凛と立つ余貴美子の貫禄。
 氷の微笑をたたえるファムファタールそのものである。

 オープンカーのブレーキに細工をする絵美子。最期を迎える雅夫に自嘲気味な笑みが浮かぶ。それは、恋慕する絵美子の手にかかるマゾヒズムの思いだろうか。

 男たちから開放された絵美子に穏やかな日々が訪れるエンディングのあと、刑事たちの姿で終わる。


 この原作のTVドラマ化は他にもあり、1972年の三田佳子主演『ホーム・スイート・ホーム』、1981年には大原麗子主演『女の中にいる他人』が製作されている。

 ドラマ演出した中原俊監督は、『櫻の園』や三谷幸喜脚本『12人の優しい日本人』が有名だが、日活ロマン・ポルノ当時の、淫夢な世界を彷徨う男の哀しさを描いた石井隆原作・脚本の『縄姉妹・奇妙な果実』('84)も傑作だった。

「黒い画集・紐」

本文は、閉鎖中の余貴美子非公式応援サイト「Y's Passion」に綴ってきた余貴美子出演作品レヴューを再録・加筆修正したものです。敬称略。

原作:松本清張
脚本:田中晶子
監督:松原信吾
出演:余貴美子、真野響子、内藤剛志、大地康雄、石橋蓮司、萩原流行、小沢真珠、根岸季衣、山田純大

初回放映:2005年1月12日 テレビ東京「女と愛とミステリー」


 原作は1959年に出版された中短編集『黒い画集』の中の一編。
 アリバイトリックをめぐる本格推理劇だが、同時に、松本清張の世界に流れる細かな心理描写を丹念に描いた人間ドラマとして見応えのある作品に仕上っている。

 佐渡島の古い神社を親の代から継いだ神主の梅田安太郎(内藤剛志)は、妻の静代(余貴美子)の反対を受けながらも、学生時代の友人難波(萩原流行)の誘いで中国に不動産会社を設立し事業経営をする計画に熱を上げていた。神社を担保に入れ、さらに金策に走る安太郎は、東京に住む実姉の繁子(真野響子)からも夫(石橋蓮司)に内緒で500万円を出資させていた。

 一週間後、「すぐに法人登録する必要がある」と難波からあと2000万円を要求された安太郎は、かつて神社を無理矢理に継がせた負い目のある繁子に、自宅を担保にさせて借金するように頼み込む。
 しかしその半月後、東京の難波の事務所が空になっているのを目に、唖然とする安太郎の姿があった。難波が初めから騙していたことに気づいた安太郎は、繁子に「難波を見つけるまでは家に戻らない」と連絡をし,その日から姿を消してしまった。

 10日後、東京多摩川辺りの河原に安太郎の絞殺死体が発見される。死体は両手両足をビニール紐で縛られ、うつ伏せに倒れていたが、詳しく調べてみると死体は死後2~3時間は仰向けにされた状態で、後にうつ伏せにされたことが判明した。誰が、何のために?

 警視庁捜査一課の田村警部補(大地康雄)は難波以外に身内の犯行の可能性もあるとして、静代と繁子らのアリバイ捜査を始めるが、彼らには鉄壁なアリバイが成立していた。
 そんな折、手配中の難波の身柄が拘束されほぼ犯人と断定される。しかし田村警部補は、首に残った3本の紐の跡と解かれた紐に違和感を覚え、執拗に静代と繁子のアリバイを洗い直す………。

    ◇


 ドラマで重要なアリバイトリックは、舞台を現代に置き換えるために、携帯電話や動機解明に使われるミートハンマーなど数々のアレンジが施されている。

 午前10時、東京の繁子の家を出て銀座で買い物をする静代。午後3時頃には渋谷へ。雑貨店で購入したミートハンマーを宅配便で佐渡島の自宅に送り、その伝票の控えがある。夕刻は新宿のイタリアンレストランで食事をし、そこでワインをこぼす。夜の7時半から9時過ぎまでは映画館で『君に読む物語』を鑑賞。そこでは、映画のクライマックスに携帯電話を鳴らす女性がいたと話す。レシートや映画館の半券という物証、レストランや映画館での目撃者の証言が厚いアリバイとなる。

 このトリック崩しがひとつの見どころだが、もっとも重要なのは登場人物たちの心理描写である。原作『黒い画集』はトリックをメインに置いてはいるが、描かれているのは男女の情念で「情欲」「物欲」「愛憎」「嫉妬」など一種罪悪感の世界だ。
 松本清張は「小説の映像化は、脚色家が自己の独創を原作の余白に振るうことができる短編ほど成功する。」と自作のあとがきで語っているが、まさにこの作品は脚本家田中晶子の鋭い人物描写に尽きると思う。

 また、舞台を原作の岡山から北陸に替えたことでドラマに厚みが加わった。
 内藤剛志と余貴美子の人物像を決定づけるための、閉塞され抑圧された土着性は日本海の風景のほうが似合っているからだ。
 余貴美子と大地康雄が迎える最初のクライマックスでも、閑散とした日本海に面した漁場を背景にすることで静代のこころの中の不透明さが強調され、刑事が立ち去ったあとベンチに佇む静代の姿も、閉ざされた島の空気の中で孤立と不安の様として余計に哀しく映る。
 孤独を滲ます余貴美子の姿が印象深いこのシーンは秀逸。北陸を舞台にした映画「約束」のラストシーンの岸 惠子の姿をダブらせてしまう。

 追いつめられた安太郎が繁子と静代に或る計画を打ち明ける重苦しさと、自分の手を汚さない繁子と見て見ぬふりをする繁子の夫の態度に、静代のこころは打ち拉がれ声にならない悲鳴をあげる。
 事件の真相として、人間の奥深いところに潜む暗黒と愚かな人間の哀しい性が浮き彫りになる。

 動機重視で書かれる松本清張の小説は人間が罪を犯してしまう過程を執拗に描くものが多く、それをドラマにおいて丁寧に演じられるのはやはり演技巧者な俳優陣だ。
 夫の首を絞めたあと、その紐をほどき「ゴメンネ、ゴメンネ」と何度も何度も囁く静代は、余貴美子ならではのリアルに体現する“おんな”の姿として、観る者の魂が揺さぶられる。
 地道に執拗に犯人を追い詰める刑事を大地康雄も好演。ささやかな市井(しせい)のひとを演じる石橋蓮司や、若手刑事役の山田純大の静かな演技も目を惹く。

 石橋蓮司が大地康雄に吐露する言葉は、こころの闇からくる贖罪。誰も彼を責めることはできない。
 内藤剛志と余貴美子のふたりが最後に歩む道行きは、この夫婦がいままでに肩を並べて歩いたことなどないだろうと想像させる切ないシーンだ。
 しかし、ドラマの本当の結末(原作の結末二行の意外性も充分に生かされている)に潜む、夫婦のこころの闇は判らないまま終わる。

 「人のこころは判らない。自分のこころの中はもっと判らない」

 「さよなら」の言葉とともに、繋がれた手首を隠すハンカチが日本海の風に流されるラストシーンは、罪悪感で押し潰されそうになっていた静代のこころが解放された瞬間なのだろう。

「橘京子の調査報告書」

本文は、閉鎖中の余貴美子非公式応援サイト「Y's Passion」に綴ってきた余貴美子出演作品レヴューを再録・加筆修正したものです。敬称略。

~盗聴撃退!完全マニュアル~
脚本:高橋 美幸
監督:猪崎 宣昭
出演:余貴美子、石橋蓮司、岸田今日子、本田博太郎、小倉一郎、川越美和、長谷川朝晴、岸本裕二、平淑恵、十軒寺梅軒、大西麻恵

初回放映:2005年10月15日 テレビ朝日「土曜ワイド劇場」


 情報社会に埋もれている我々は、知りたいことは何でも手に入れることができるのと同じだけ、自分たちのプライバシーをいとも簡単に手放している。
 ドラマの中でラブホテルの盗聴・盗撮のことが描かれていたが、これらは昔から裏の世界のプロの仕業だった。しかし今では、個人がその世界を自由に行き来できる時代のようだ。ここ10年ぐらいの間に盗聴器に類する機器の販売台数が大幅に増えており、素人でも簡単にこの卑劣な盗聴・盗撮行為が出来る社会になっている。そこで現れたのが盗聴駆除(盗聴バスター)といった仕事。大きな探偵社では盗聴駆除専門の部署もあるし、それ専門の会社も多数出来ている。このドラマで行われていることが、単に絵空事ではない現実がある。

    ◇

 橘京子(余貴美子)は元演歌歌手で盗聴駆除会社「サイレンス&ピース」の代表者。チームは探偵の久保田(有福正志)の依頼で岩蔵建設の創立50周年記念パーティー会場に仕かけられた盗聴器を駆除する。するとその夜、岩蔵建設の社長が殺され、さらに京子と妹で弁護士の加奈子(川越美和)と共同で仕事をしている事務所が荒らされ盗聴器まで見つかった。そして、依頼者の久保田までが死体で発見される。

 京子は高校の同級生の園子(平淑恵)と再会。娘の亜紀(大西麻恵)と市の職員との結婚が間近な彼女だが、市役所の建設課課長だった夫の勇次(十軒寺梅軒)が一年前に自殺しており、今でも夫の死を乗り越えることができず、霊媒師・山崎法天(本田博太郎)に夫の霊を降臨してもらい話をしている。心配する亜紀の依頼で、京子は園子に付き添い法天のもとを訪れるが、そこでは奇声を上げる法天が「私にはやり残したことがある……」と勇次の言葉を京子らに授けるのだった。勇次の自殺には市庁舎の耐震工事の不正落札が絡んでいると噂されていたが、勇次と同期の木島(小倉一郎)はそれを否定していた。
 京子と仲間の鯨岡(石橋蓮司)らは、法天の透視力のトリックを信者らの家に仕掛けた盗聴器だと見抜き、園子の家からもいくつかの盗聴器を発見する。園子は夫の死の真相を探るために、保険外交員として岩蔵建設に入り込んでいて、岩蔵建設の創立50周年記念パーティー会場に盗聴器を仕掛けたのは園子だった。勇次の遺品からはマイクロテープが見つかり、やがて、岩蔵と久保田の殺人事件と一年前の勇次の自殺との関わりが浮かんでくる………。

    ◇

 余貴美子を筆頭に、元音効マンの石橋蓮司、元自衛隊通信部で盗聴探知のエキスパートの岸本祐二、そして元盗聴マニアのオタク長谷川朝晴の3人の仲間を有したこのチーム構成が巧く出来上がっている。そのため、京子の妹の女弁護士や故・岸田今日子演じる母親との描き方も含め、探偵とは違う技術のプロフェッショナルとして、各人の個性をもっと膨らませることで十分にシリーズ化も出来ただろうが、残念ながらこの作品のみで終わってしまった。

 ドラマに流れるテイストは、同じく余貴美子主演ドラマ『女タクシードライバー・シリーズ』と同じくハードボイルド。当然、春成衿子とは違ったアプローチで、都会に住む人間の闇と孤独をクールなタッチで描いている。

 「人に頼ることも、ひとつの勇気よ」

 春成衿子がたったひとりの都会の傍観者であるのとは違って、橘京子には仲間と家族がいる。見つめる先が人間の闇であっても、彼女の人への優しさで光明が見い出されるのは、頼れる仲間たちの心強さがあるからだ。

 「アンタたちさぁ~、なにヌルいこと云ってるの。売られたケンカは買うのよ!」

 スタイリッシュでハードボイルドな余貴美子はカッコいい。
 今回は短かめな髪に、衿が大きく開いたブラウスに濃い色のジャケットとデニムパンツ姿。要所要所でアップになる眼光の鋭さに魅力が集約し、クールである。

 強面の人物像からコメディタッチの軽さまで持ち備えた石橋蓮司と、同じように演技の幅が広い余貴美子とのコンビネーションが見どころである。
 石橋蓮司扮するクジさんが演歌歌手時代からの橘京子の大ファンで、彼女を仄かに慕っている様が何とも可愛いらしく、中でも、夕刻の桟橋を歩くシーンの京子とクジさんのシルエットは情感があっていい。
 オレンジ色のトーンに逆光線の中、クールな話しぶりのあとに「お守り頂いていますから…」と表情を崩してステップを踏む石橋蓮司の姿と、それに応える余貴美子の照れた仕草が何とも可愛いふたりなのだ。
 ドラマ内で余貴美子の衣装チェンジが多い本作では、小道具として出てくる京子の演歌歌手時代のポスターやカセットのジャケット写真がご愛嬌だ。

 インチキ霊媒師の法天役の本田博太郎の怪演ぶりも楽しい。
 オーヴァーアクションの祈祷には大笑いさせられるし、そのあと、インチキを見破られ京子とクジさんに問いつめられるシーンでの小悪党ぶりも見ものだ。

「女タクシードライバーの事件日誌 3」

本文は、閉鎖中の余貴美子非公式応援サイト「Y's Passion」に綴ってきた余貴美子出演作品レヴューを再録・加筆修正したものです。敬称略。

~届かなかった手紙~
脚本:瀧本智行
演出:水谷俊之
出演:余貴美子、大杉蓮、篠原ともえ、葛山信吾、平泉成、田島令子、北村総一郎、斉藤洋介、佐藤二朗、山田辰夫、村田雄浩、田中健

初回放映:2005年2月28日 TBS「月曜ミステリー劇場」


 ここに登場する被害者の家族と加害者の家族に過酷な生き方が敷かれたとはいえ、それぞれ重い鎖を引きずりながらも信義を貫き、自分の掟を破らずに生きてきた。そして、生きて行こうとする人たちばかりだからこそ、切ない 。
 ドラマは篠原ともえの好演と、大杉漣、平泉成 、田島令子ら実力派俳優の深みのある演技が支えている。

 タクシードライバーの春成衿子(余貴美子)は、大都会で生きる様々な客を乗 せながら日常を送っている。ある夜、営業所長の大城(北村総一朗)が居酒屋 で他の客と口論になり、衿子はその客・仁科(大杉漣)を送っていくことにな る。行き先を指定するわけでもなくただ黙り込む仁科。実は彼は、その夜ある工務店で強盗殺人を犯していた。車中にはラジオの声が流れているだけ……。
 ディスクジョッキーが読みあげる一通のハガキには、タクシードライバーと結婚することになったという女性の生い立ちが綴られていた。リクエストは母が好きだった山口百恵の【秋桜】。そのイントロが流れた瞬間、衿子のタクシーの中で慟哭する仁科の姿には、犯罪を犯した以上に哀しい人間の姿が感じられる。タクシーを降りる男の 後ろ姿は、旨味ある大杉漣ならではの哀切感がにじみ出ている。
 同じ頃、衿子の同僚・近藤(佐藤二朗)の行きつけのラーメン屋では、看板娘 の多恵(篠原ともえ)とタクシードライバーの大田(葛山信吾)と、ふたりの 結婚話に喜ぶ養母・悦子(田島令子)と養父・辰夫(平泉成)がラジオを聴いていた 。このハガキは多恵がリクエストしたものだった。
 そして、その仁科の死体が発見される。
 刑事の訪問で衿子はあの夜乗せた客が仁科だったと知り、ラジオ番組に異常なまでに反応した仁科と、近藤から聞いた多恵の話を考え合わせ、仁科は多恵の父親ではないかと思う……。
 捜査で現場近くにオレンジ色のタクシーが止まっていたことが判明。そのタクシーは大田のものだった。そして刑事から聞かさせた話は、大田は仁科が十数年前に犯した殺人の被害者の息子だった。


 大都会の片隅で起きたどうってことない事件は、その後、もうひとつの顔を忍ばせながら思わぬ展開に傾き、夫の謎の死で心に傷を負いながらひっそりと生きている衿子をも巻き込んでいく。
 事件の周りにいるのは、心の闇をそっと抱えながら必死 に耐えて生きている人々。その闇は、同じように孤独の中で生きているもの同 士しか判らない。

 手放した娘の結婚を知り、悪徳な工務店から金を盗み出すが誤って殺人を犯してしまった父親と、その男の娘を養女として育てた義母が娘のために誤って犯す殺人。
 事件解決後、衿子は仁科が娘に宛てた “届かなかった手紙”をラジオ番組に投稿する。仁科が抱えた罪を少しだけ解き放してやったのだ。
 ふたたび【秋桜】が流れるこのシーンは、 被害者の息子と加害者の娘の苦い旅立ちが映し出されるが、それにしても山口百恵の【秋桜】は反則技の選曲。泣けるよ。

 ラストの5分余り、タクシー車中の余貴美子の表情がとてもいい。
 今回の刑事役は山田辰夫。渋いねぇ。

    ◇

★女タクシードライバーの事件日誌1/殺意の交差点★
★女タクシードライバーの事件日誌2/作られた目撃者★
★女タクシードライバーの事件日誌4/殺意を運ぶ紙ヒコーキ★




「女タクシードライバーの事件日誌 2」

本文は、閉鎖中の余貴美子非公式応援サイト「Y's Passion」に綴ってきた余貴美子出演作品レヴューを再録・加筆修正したものです。敬称略。

~作られた目撃者~
脚本:瀧本智行
演出:猪崎宣昭
出演:余貴美子、美保純、大地康雄、北村総一郎、斉藤洋介、佐藤二朗、鶴田忍、中村育二、池内万作、村田雄浩、田中健

初回放映:2004年7月26日 TBS「月曜ミステリー劇場」


 タクシーは様々な客を乗せる。自分の身の上を話す者、ドライバーに八つ当たりする者、上司の悪口を言う者…………。女性タクシードライバーの春成衿子(余貴美子)は、今日もそんな客たちを乗せタクシーを走らせていた。
 深夜、衿子が車中で休憩をしていたとき、傍らを歩いていった男・遠藤(大地康雄)が交差点で車に撥ねられ、衿子は救急車とともに遠藤を近くの相川病院に運んだ。遠藤が検査と手当を受けている間に、衿子は覚えていた車のナンバーを警察官に伝えた。遠藤は息子の健太と二人暮らしで、幸い骨折のみで命に別状はないものの暫く入院しなければならず、成り行きのまま衿子は、健太の世話をすることになった。
 翌日衿子が相川病院を訪れると、遠藤が大騒動を起こしていた。自分の娘がこの病院の医療ミスで殺されたというのだ。しかし病院の相川院長(鶴田忍)は、既に和解しているのだからと取り合わない。別の病院に移った遠藤は、衿子に自分の家族のことを話し始めた。
 健太の生みの母は健太が3歳の時に亡くなり、遠藤は2年前に佳恵(美保純)と再婚したものの彼女とも1年で別れてしまったという。遠藤が「相川病院の医療ミスで殺された」という娘は佳恵の連れ子だった。40度近い熱を出した娘を相川病院に連れていったところ、さんざん待たされた挙げ句、簡単な診察をして座薬を投じただけで入院の必要はないと言われた。しかし娘の熱は下がらず再度病院へ運んだ時にはもう手後れだったという。売れない手品師だった遠藤は裁判を起こしたが、結局は僅かな和解金を手にしただけで仕事もなくなり、それがもとで佳恵とも別れてしまった……。
 一方、遠藤の事故当日に車の炎上事件が起きており、黒こげの焼死体が遠藤から医療ミスで訴えられた若い医師・熊井(池内万作)だっと判明。さらに、その車が遠藤を撥ねた車だったことから事態は急転、思いもかけない展開を見せていく…。

    ◇

 今回は、シリーズ1作目では語られなかった衿子の過去が明らかになる。
 疑獄事件の参考人だった夫(田中健)が赤城山山中で死体となって発見され、事件は自殺として片付けられたという過去を持つ衿子なのだが、ドラマとして、夫の後輩で当時社会部記者だった宮本(村田雄)とともに過去の事件の真相を少しづつ掘り起こしていくのかと思いきや、主人公のバックボーンのひとつとして描かれるのみで、このスタンスはシリーズ4作目まで貫かれ、今後も事件が明らかにはされないだろうと思われる。
 亡き夫との幸せだった日々の追想しか残されていない現実を受け入れた衿子の孤独は、彼女と関わる人間の業に悩み、哀しみや憤りをともに感じ、そして、一縷の希望と温もりを与え、自身に授かる喜びを丁寧に描いていく。その良質さで人気があるシリーズなのである。

 今回も、前作同様に決して幸せな結末は得られない。どちらかと言うと暗く重い終わり方だ。

 医療ミスによる子供の死によって、歯車が狂いだした夫婦の葛藤と悲劇。自分の子供を死なし憤りを夫の連れ子にあたる美保純の悔いが「一からやり直したい」という想いに詰められても、自らが犯罪に手を染めてしまうことで子供への贖罪を叶えることができなくなる。そんな元妻の想いを知る大地康雄もまた、息子をひとりぼっちにしてしまう。 
 遠くの親戚のもとに旅立つ健太の背中を押すものは、ひとりぼっち同志の衿子が授けた孤独を背負うことへの覚悟とやさしさ。
 坂本九の【上を向いて歩こう】が効果的に使用され、涙をこらえる衿子の眼差しでドラマは終わる。

 このシリーズに登場する刑事は、大声をあげたりがなり立てもせず地味に描かれるのだが、それでいてみんな印象に残っている。今回の刑事役は中村育二。

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★女タクシードライバーの事件日誌1/殺意の交差点★
★女タクシードライバーの事件日誌3/届かなかった手紙★
★女タクシードライバーの事件日誌4/殺意を運ぶ紙ヒコーキ★