TEA FOR ONE

まぁお茶でも飲みながら気ままに、好きなことを、すこ~しネタバレしながら、のんびりと………。

「しとやかな獣」*川島雄三監督作品

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The Graceful Brute
監督:川島雄三
脚本:新藤兼人
撮影:宗川信夫
音楽:池野成
出演:若尾文子、伊藤雄之助、山岡久乃、浜田ゆう子、高松英郎、川畑愛光、小沢昭一、山茶花究、ミヤコ蝶々、船越英二

☆☆☆★ 1962年/大映/96分

    ◇

 〝ひと皮むけば男も女もこんなもの! 
       私はそこをうまく利用したまでよ!〟

 45歳の若さで急逝した川島雄三。死の前年、大映での若尾文子との最後の作品となった本作は、ブラックユーモアを交えたピカレスクな人間悲喜劇。


 都市郊外の団地の4階に住む前田家。主人の時造(伊藤雄之助)と女房のよしの(山岡久乃)が来客のために部屋の模様替えをしている。金目のものを隠し、貧乏暮らしを装っている。
 やって来たのは、息子の実(川畑愛光)が勤める芸能プロダクションの社長香取(高松英郎)とジャズ・シンガーのピノサク(小沢昭一)、経理担当の三谷幸枝(若尾文子)の3人。愛想よく迎える前田夫妻だが、社長の香取は実がお抱えタレントのギャラなど100万円近くの金を使い込んでいると捲し立てる。
 とぼける時造と泣き落としに出るよしのに呆れ、「出るところに出る」と文句を並べたてて帰っていく3人だった。
 彼らと行き違いに帰宅した実を、平然とした顔で迎える時造とよしの。そこに、バー勤めから小説家・吉沢駿太郎(山茶花究)のお妾さんになっている娘の友子(浜田ゆう子)まで帰ってきた。

 かつては栄光に輝く元海軍中佐だった時造は、戦後、山っ気な商売に手を出すもすべてに散財し、極貧生活を強いられたことからふたりの子供たちには社会の道徳を一切無視した生き方を指導していた。
 息子の使い込みにも「大きなことをやったら、努力を尽くして後始末をしなくちゃいけない。締めくくりが肝心。逃げ回るより、とぼけて堂々と顔を出した方がいいんだ」と教え、友子を囲う吉沢からは「女衒の親父」と蔑まれようが「人間は立場が違えばいろいろ言うもんだ」と意に介さない。
 何事にも達観した母親のよしのは「お父様はいまに成功なさいます」と夫をたて、息子や娘の言葉遣いにも注意を促す上品な専業主婦。

 夕方、時造が散歩に出かけ、よしのが買い物で留守にしているとき、先ほど訪れた三谷幸枝が戻ってきた。
 じつは実が使い込んでいた金は300万円で、その大半は幸枝が旅館を経営するための資金に貢いでいたものだった。念願の旅館が開業するいま、自分たちの身体の関係を清算したいのだと云いに来たのであった。
 お淑やかで真面目な女性と見られていた幸枝は、実際はしたたかで頭のいい女。子供を抱え夫に死なれた彼女にとって、唯一の道は思いきり体を使って生きるほかなかった。実との取引は既に終わっていると臆面もなく云い放つ幸枝。
 心底惚れこんでいた実は逆上し幸枝に詰め寄り、それを隣の部屋から覗き見する友子。買い物から帰ったよしのもソッと部屋に入り込み、二人の痴話喧嘩に聞き耳をたてている。

 幸枝に貢いでいたのは実だけではなく、社長の香取も幸枝のために脱税をしており、また、もうひとり愛人関係にあった税務署の真面目な役人神谷(船越英二)が汚職の罪で警察に呼ばれることになるが、幸枝はいたって冷静。
 神谷が自殺さえしなければ香取の失脚だけで済み、幸枝と実には累は及ばないとうそぶくのだった。

 神谷が幸枝を探しに前田家を訪れるが、傷心のまま空しく帰ってゆく。
 友子が吉沢先生に追い出されて再び帰ってきた。家族4人の団らん。突然の夕立。遠くからパトカーのサイレンが聞こえてくる。ベランダに出て外を眺めるよしの。その表情が家族の行く末を語っていた。
 
    ◇

 エレベーターのない(これがある意味重要)団地の4階、二部屋だけの限られた空間を舞台にした密室劇スタイルで、小悪党な家族を中心に欲をぶつけ合う人間ばかりが登場する新藤兼人の見事な脚本は言うに及ばず、若尾文子の悪女ぶりに見惚れるばかりの大傑作。

 伊藤雄之助をはじめ、小沢昭一、山茶花究と一癖も二癖もある個性派たる演技者たちの台詞の応酬に圧倒され、画面構図のカメラワークや能楽の囃子を取り入れた音楽の妙に酔うこと必至。
 精密なセットで建てられた団地の部屋は、壁も天井も床も襖も棚も自由自在に取り外せるように工夫され、あらゆるところからカメラが恥知らずな人間たちを撮らえる。複数の人間の行き来が足元だけのアングルだったり、シーン転換の突飛さもあり、なんて映画的センスにあふれていることか。

 幸枝に貢いだ男たちは振られ、破滅し、自殺するような脆弱な姿を露呈し、セクシーな友子を囲う小説家は別れ際のケチぶりを女たちから辛辣な陰口で叩かれる。
 それに反して、女たちはしたたかで逞しい。
 ヴァンプな魅力全開の浜田ゆう子とドライで妖艶な若尾文子が女の魅力で物語の道筋を突っ走れば、最後に、しとやかな山岡久乃が映画にとどめを刺す。これがまた、凄いのである。

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「いそぎんちゃく」*弓削太郎監督作品

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監督:弓削太郎
脚本:石松愛弘
撮影:渡辺公夫
音楽:池野成
出演:渥美マリ、平泉征(現・平泉成)、高原駿雄、加藤嘉、大辻司郎、しめぎしがこ、中条静雄、牟田悌三

☆☆☆★ 1969年/大映/83分/BW

    ◇

 1969年8月に公開された渥美マリの第1回主演映画〝軟体動物シリーズ〈全6作〉〟の第1作。
 己の軀ひとつで、男を利用してのし上がっていく逞しい女のハードボイルドなサクセス・ストーリーは、魔性の女に絡み取られていく男の性がいかにも滑稽な姿で描かれてゆく。


 貧乏を嫌い山形の田舎から出てきた石田浜子(渥美マリ)は、川合クリーニング店に住み込みで働いているがお客への愛想がなく、女将からは小言をもらうが無視をするといった、どこか開き直った態度の19歳。
 ある日、銀座のホステスが持ち込んだ舶来のパンティがなくなるという騒ぎが起る。
 後日、婦人会の寄り合いで女将が留守の日、主人の健三(高原駿雄)とラーメンをすする浜子に「どこか遊びに行きなさい」と促されても「どこも行かない」と素っ気ない返事。浜子は自室でひとり、貯めた給金を数えるのが楽しいのだ。今日は、あのホステスのパンティを履きながら姿見に裸身を映している。
 その様子を2階の物干し場から見た健三は浜子を注意するが、何の悪びれる様子も見せないその態度と裸身の浜子を見ているうちに欲情し、浜子に抱きつくのだった。
 翌日の夜中、健三は大胆にも浜子の部屋で彼女を抱くが、その現場を妻に見られ大騒ぎになる。動じることのない浜子は、数日後、根負けした女将から手切れ金10万円をもらって店を辞めていく。

 次に浜子は割烹料理屋に勤める。店の常連のご隠居柏木(加藤嘉)に気に入られ、お妾さんとして新築アパートを与えられて面倒を見てもらうことになった。しかしある夜、柏木が脳溢血で倒れ死んでしまう。
 ご隠居の息子貞吉(大辻司郎)に言い寄られるも軽くあしらい、手切れ金200万と今住んでいるアパートをもらうが、浜子は高価なアパートや家財道具一切を売り払い安いアパートに引越し、仕事もピンク・サロンに変えた。

 ネグリジェ姿で男の酒の相手をする浜子は、TV担当宣伝マン岡崎(牟田悌三)を馴染み客にして、店のバンドマンのトランペッター室井(平泉征)と同棲生活を始めるが、室井の目的が浜子の金だったことを知ると、室井に復讐をしてやろうと目をギラつかせる。
 浜子は夜毎日ごと執拗に室井に迫り精力を搾り取り、枕話で以前老人が腹上死したことを室井に話すと、ついに彼は逃げ出していった。

 岡崎が浜子のためにマンションを購入。
 ある日、店に岡崎の女房(しめぎしがこ)が乗り込んで来て夫と別れなさいと迫るが、浜子は子どもが出来たと伝える。
 子どものいない岡崎は喜び、妻は実家に帰り離婚の手続きが進んでいると浜子に話すが、そんなこと知っちゃいないと無関心な浜子。子どものことは嘘で「わたし、ひとの亭主を横取りする気なんて全然ないわよ。売られたケンカを買っただけよ」と、ひとり呟くのだった。

 その後、岡崎が会社の金を横領していたことが上役に知れる。
 穴埋めのために金を貸して欲しいと懇願する岡崎を、冷たく拒絶する浜子。腹をたてた岡崎が果物ナイフを手に取るが、揉み合っているうちに浜子が岡崎の腹を刺してしまう。

 裁判では、法廷で浜子は金に執着するのは田舎で屑拾いをしながら極貧暮らしをする母親のためだと切々と述べ、結果、正当防衛が認められ無事釈放される。
 そして、事件をきっかけに銀座の一流クラブからスカウトされた浜子は、夜の銀座の街を颯爽と歩くのであった。

    ◇

 映画の前半、ほぼノーメイクで垢抜けない渥美マリの顔が、男を替えてゆくほどに都会的な美貌を輝かせながら妖艶になっていく様にはゾクゾクするだろう。
 モノクロ画面に映る女の変貌は、渥美マリのエロティックな顔に尽きるのである。

 街なかの学校に通学していた頃、通学路にダイニチ映給の映画館があり、関根恵子の『おさな妻』や八並映子の『高校生番長』とか、一連の渥美マリの作品など刺激的なポスターや立て看板を目にしていたが、一般映画とはいえさすがに学生にはそれらの作品を観ることは出来なかったが、渥美マリのフェロモンいっぱいの顔が脳裏に焼き付いたことは確か。
 正面から堂々と裸身を曝け出すのではなく、佇まいだけでエロスを漂わせる渥美マリは、その後足繁く通うことになる日活ロマン・ポルノや東映ピンキー映画の池玲子や杉本美樹らに見る挑発的肉体女優以上の存在感を残していってくれたのである。

 弓削太郎監督は渥美の拙い演技に対して極力台詞を抑えたのだろうが、かえってその無表情の様子が素晴らしく、以後の渥美マリの雛形となっている。
 魅力でもあるぽっちゃりした唇で食するシーンが幾度となく映されるのが象徴的で、ヒロインがラーメンをズズっとすする画はシリーズにおいて定番のように登場するし、本作では寿司や天麩羅など高価な食事を動物のように口に運ぶ様が、ヒロインの貧困への怒りに激っている。


★続・いそぎんちゃく★

「女体」*増村保造監督作品



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監督:増村保造
脚本:増村保造、池田一朗
撮影:小林節雄
音楽:林光
出演:浅丘ルリ子、岡田英次、岸田今日子、梓英子、伊藤孝雄、川津祐介、小沢栄太郎

☆☆☆★ 1969年/大映/95分

    ◇

 浅丘ルリ子の才能に惚れ込んだ増村保造が、彼女のためにシナリオを書いた愛欲ドラマ。
 日活退社後、一時期石原プロに所属していた浅丘ルリ子の大映初出演作となる。

 あばずれだが魅力的な女……浜ミチ(浅丘ルリ子)。
 私立大学の理事長小村(小沢栄太郎)の秘書を務める石堂(岡田英次)は、ある日、小村の息子にレイプされたと訴えてきたミチの応対をする。小村と彼の妹で石堂に嫁いでいる晶江(岸田今日子)らは100万円の慰謝料を決めるが、ミチの自分に正直な態度が気に入った石堂はミチの言い値の200万円で話をつける。
 しかし翌日からミチは石堂に付きまとうようになり、困惑する石堂もいつしかミチの魅力に取り憑かれ、高級ホテルの一室で激しく愛しあうのだった。
 ミチは慰謝料でマンションを購入。その部屋に石堂は出入りするようになるが、晶江の侮辱的な態度に激しい敵意を持っていたミキは、石堂のマンションに押し掛け晶江に情事を告げて彼女を辱めた。
 ミキと別れるつもりでミキのマンションを訪ねた石堂は、そこにミチの元情夫で売れない画家の五郎(川津祐介)が入り浸っているのを知り嫉妬を覚え、ミキを棄てることができない。慰謝料目当ての五郎に、石堂は学園長から管理を任されていた裏口入学金から500万円の手切れ金を捻出する。しかし、五郎はミチと別れないばかりか、金の出所を追求すると嘯きミチのマンションに居座り、ミチを巡ってもみ合う石堂は、誤って五郎を殺してしまった。
 自首した石堂は、仮釈放後、妻を捨て、職を辞してミチとの生活を始める。そして、裏口入学金のプール口座の金を使ってミチと小さなバーを経営し始めるが、自由奔放なミチにバーのママが務まるはずもなく、店は赤字続き。
 石堂にはたった一人の身内となる妹の雪子(梓英子)がおり、雪子は兄を心配して婚約者の秋月(伊藤孝雄)と共に店を訪ねてきた。ミチは、真面目なコンピュータ技師で大学時代にラグビーをしていたというスポーツマンの秋月に心を惹かれ、その日からミチは秋月に付きまとうようになる。
 石堂はミチをとがめるが、束縛を嫌い奔放な性格のミチの行動を止めることはできない。
 ある晩、ミチは秋月を深夜ドライヴに誘い、車を暴走させて無理心中を図る。重傷を負った秋月は病院に運び込まれ、駆け付けた石堂はミチをマンションに連れ帰り、秋月を諦めるようミチに迫るが、頑なミチは逆に石堂を責め続ける。
 逆上した石堂は包丁を持ち出しミキを殺めようとするが、その姿に自らを絶望しマンションを飛び出す。
 ひとり部屋に取り残され、泥酔するミチ。
 「また素敵な男を見つければいいわ」
 よろけた足で風呂のガスホースを引っ掛け、ガス管からガスが漏出していることに気づかないまま、湯船に身を浸すミチだった………。

    ◇

  女体の激しさ! 女体の美しさ! 女体の狂おしさ! 
  浅丘ルリ子が初めて見せる愛の十二態! 

 なんともピンク映画のようなポスター惹句は、思春期だった当時のぼくには刺激的だった記憶………増村保造監督を巨匠という認識でTV放映の『兵隊やくざ』や『黒の試走車』を観ていても、『卍』や『痴人の愛』の看板に出くわしたらドキドキしていた当時。1960年代後半から大映倒産の70年代前半まで、大映はお色気映画がひしめいていた。『でんきくらげ』とか『高校生番長』とか『十代の性典』とか、通学途中にあった大映系劇場(日活ロマンポルノ専門館になってから通った劇場)の看板やポスター。
 本作で云えば「女体」の文字を「にょたい」と読んでいたから官能させられていたが、ルビ表記は「じょたい」だった。英語表記は「VIXEN」……牝ギツネ。そんな映画なのである。

 そう遠くない昔の日本の女性から新しい価値観を持った女性が生まれた時代の、鬱屈した女の孤独と、生きてゆくことへのエネルギーと破滅が描かれ、刹那に生きる女の輝きに満ちている。
 古い日本の常識や道徳をはみ出し、建前で生きている人間を吹き飛ばし、生身の人間としてありのままに生きるヴァイタリティある女を眺めることが、増村映画の愉しみであろう。

 「私は女よ。愛すること以外にやることがあって?」

 しかし現実には、こんなに身勝手で独りよがりで激しい女は男にはたまったものではないのだが、こんな女だからこそ、その魅力に嵌ると男はいつでもダメになってもいいと思う哀しい性。いや、女も男と同じか。

 「男はいいのに、女がやるとなぜいけないの?」
 男の間を浮遊するミチを咎める石堂に、ミチが声を荒げる。それはそうだ、男が許されて女が許されない道理はない。

 「おれは何もかも棄ててオスになったんだ」
 終始無表情を貫くクールな岡田英次。親友の北村和夫に吐露すると 
 「これからは増えるぞ。大都会での独り暮らし、家庭にも道徳にも縛られないミチのような女が……」
 と返す北村和夫。現代を予見する増村監督であったろうか。


 冒頭、モダンな色柄の超ミニスカートのワンピースで下着も露に、苛立ち、疼き、身もだえながら踊る浅丘ルリ子であり、テーブルをかじり出すに至っては、その凄い演出に目を奪われる。(劇中で艶かしく踊る振付けは2013年12月に亡くなったダンサーで演出家の竹巴類)
 当時の浅丘ルリ子は29歳。オープニングからラストまで、とにかくハイテンションで突っ走る。
 その姿はとても美しく、ファッショナブル。
 本作後に公開された『華やかな女豹』(’69)でのモダニズムなファッションも華やかだったが、ここでの浅丘ルリ子は、登場する全シーンにおいてコスチュームを替え、色とりどりの下着も惜しげもなく何度となく曝してくれる。(下着にシャツだけの姿を含めると15回の衣装替えである)

 1969年はTV「プレイガール」の放送が始まった年。ミニスカートでのアクションから見えるパンチラ・シーンが世の男性たちを虜にした時代。女優がパンティ丸見えも厭わないのが時勢だった。
 浅丘ルリ子の、あばらが見えるガリなスタイルがエロティックさに欠けるとも云えるが、超がつく程のミニスカートからのパンチラや、シースルーなパンタロン姿など、美しい肢体をさらす大胆さが潔く見惚れてしまう。

    ◇

 石原裕次郎や小林旭の映画世代ではないので、日活アクションでのヒロインはTVで見たものしか知らなかったが、女優浅丘ルリ子を意識して観た最初の映画は、加山雄三のハードボイルドアクション『狙撃』(’68)だったと思う。ここでも、浅丘ルリ子は半裸姿で情熱的なダンスを披露していたっけ。

 1968年から1971年辺りが、いちばん浅丘ルリ子に夢中になっていたかもしれない。
 TVドラマ『流れる雲』を見ていた。内容は覚えていないが主題歌はよく覚えており、これと前後してのドラマ『水色の季節』の主題歌も美しい歌声に魅了されていた。大ヒットした『愛の化石』もこの頃。
 「平凡パンチ」をスクラップし、シングル・レコードを買った。横尾忠則がジャケットデザインした、浅丘ルリ子芸能生活15周年記念アルバム[浅丘ルリ子のすべて 心の裏窓]はマイ・フェイバリットの1枚だ。

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★浅丘ルリ子のすべて 心の裏窓★
★狙撃*堀川弘通監督作品★


「サラリーマン悪党術」*須川栄三監督作品


監督:須川栄三
脚本:松木ひろし、須川栄三
音楽:山本直純
撮影:逢沢譲
出演:小沢昭一、団令子、弓惠子、長谷川照子、黒沢年男、田中邦衛、藤岡琢也、砂塚秀夫、石丸謙二郎、加藤武、天本英世、アイ高野、春川ますみ

☆☆☆ 1968年/東宝/91分

    ◇

 東宝には伝統的なサラリーマン映画があるのだが、本作は少し毛色がちがう。
 監督第2作の『野獣死すべし』で乾いたハードボイルド作風を見せつけた須川栄三監督が描くサリーマンは、所謂これも、一種のピカレスク・ロマン。シニカルなサラリーマン艶笑コメディの傑作であろう。


 広告代理店に勤める伊達秋男(小沢昭一)は、エリートコースを外れたサラリーマン。そんな彼の楽しみは女遊びで、コピーライターで才色兼備の妻・友子(団玲子)がいるにもかかわらず、大坂支社の19歳の里美(長谷川照子)を愛人にしている。大坂への出張費を浮かしたりして資金を調達する伊達だったが、会社に新しく導入された電子計算機のおかげで大坂へ行くのにも難儀する毎日。斯くなるうえは会社で競馬のノミ屋を開業して、その金で大坂の里美を東京に呼ぶことにした。
 そんななか伊達は、得意先の製薬会社の仕事を得るために社長の妾で芸妓の小まり(弓惠子)と関係を持ったために、小まりに惚れられてしまう。
 果たして、伊達は3人の女性との間で忙しくなる。小まりを満足させたあと、里美のアパートに寄り、明け方帰ってくれば妻の友子が迫ってくるのである。
 いくらなんでもこれでは身体が持たぬと、伊達は狭心症と偽った診断書をつくり、妻には夫婦生活禁止を宣言。そして、伊達の友人でCMディレクターの酒井(田中邦衛)は友子にご執心だ。
 ひょんな事から里美が酒井のカメラテスト受け、現場にいた友子と仲良くなった里子は伊達のアパートの隣に引っ越して来ることに。当然の如く友子に里美の存在を知られ、小まりとの関係も知られるはめになる。
 然して、小まりと別れると友子に誓う伊達。そして里美も、伊達の後輩で元全学連の野尻(黒沢年男)と結婚することになる……。

    ◇

 スケベで軽薄なキャラクターには絶妙な味を出す小沢昭一とクールな団令子の、少し不釣り合いな二人だが、どうしてこんなに綺麗な女房がいるのに他に女をつくるかね、と言っても男は真面目に生きるだけが人生じゃないって思っているからね。若い愛人も、色っぽい妾も、そりゃ欲しいでしょうよ。

 最後は愛人ふたりと別れ、美しい妻にはなんとか許してもらえるも、入院先の看護婦(春川ますみ)といい仲になる結末。オチは判っていても、スケベな小沢昭一と春川ますみのエロは見事な終息である。

 業界人ぶりがキマる田中邦衛や、真面目で堅物な黒ブチ眼鏡の黒沢年男や、普通のサラリーマン役の天本英世など、脇の出演者にも見どころあり。

 コンピュータではなく電子計算機であり、真っ赤なミニスカートにゴーゴー喫茶……
 オープニングタイトルは前年にヒットしたフォーク・クルセダーズの「帰って来たヨッパライ」風テーマ曲と、当時流行のサイケデリック紋様。
 昭和元禄花盛りなのである。

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銀幕に吠えた、田宮二郎「犬」シリーズ

 大映の大ヒット映画『悪名』で人気スターになった田宮二郎を単独主役として〈悪名〉シリーズと並行して製作された〈犬〉シリーズ。シリーズは1964年から1967年までに全部で9本製作され、脚本は全作とも藤本義一のオリジナル。第1作の監督は『悪名』の田中徳三が手掛けている。
 〈犬〉シリーズ以前には〈黒〉シリーズが製作されているが〈黒〉シリーズ・全11作はタイトルの総称であり主人公は異なっていたので、本格的シリーズの主役はこの鴨井大介が最初で最後。かの映画界追放さえなければもっと量産されたであろう。

 主人公の鴨井大介は、住所不定で無職ながら女にはモテモテの伊達男。
 だけど女好き以上に拳銃を愛するガンマニア。1作目こそ人を殺めてしまい刑務所送りとなるが(シリーズ化を想定していなかったのであろう)、以後は「人の体を傷つけるようなハジキは発射せんのや」(第3作「ごろつき犬」)を信条に、刀の峰打ちよろしくアクロバティックなガンプレイで相手を倒してみせるのである。

 後年、陰気くさくなる(クールも度が過ぎてゆく)田宮だが、『悪名』の清二と同じように河内弁をまくしたて、底抜けに明るいキャラクターこそ田宮二郎の持ち味であろう。気障なクールガイながら、口八丁手八丁のトッポイ色男の可笑しさがカッコいいのである。
 そしてガンさばき。第1作こそぎこちないがシリーズを重ねる毎に抜き撃ちの早さは増し、第5作『鉄砲犬』においては0.5秒を切っているとか……魅せる田宮二郎である。

 シリーズとして、“クールガイ”田宮二郎にしつこくつきまとう相手役となるのが“ニヒル”を代表する天知茂なのだが、本シリーズでの天知茂は無精髭にヨレヨレのコートを着た風采の上がらない役。
 「アイツの給料、上げたらなアカン」と鴨井に云わしめる木村刑事としてシリーズ6作に登場するが、田宮の河内弁に対して大阪弁で対抗する天知茂(天知茂は名古屋出身。高校の大先輩である)とのコンビネーションが見ものである。

 もう一人、全作通して出演している常連組がラテン・シンガーの坂本スミ子。ここではコメディエンヌぶり全開である。
 この〈犬〉シリーズが最初の映画出演で、全作役柄は違えど、いつも鴨井にメロメロになるポッチャリ玉子のグラマラスキャラで、とにかくよく喋る。立て板に水の如くペラペラ喋る田宮との掛け合いは漫才。この面白さもシリーズの見どころとなっている。

 田宮二郎のガンスピンを満喫できるコミカル・アクションの傑作シリーズは、アキラやジョーの無国籍アクション映画と違って、大坂一色の人と街を見事に取り入れた痛快娯楽映画なのである。

 さて今回は、第1作から第5作目までを一気に。

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宿無し犬
監督:田中徳三
脚本:藤本義一
音楽:塚原哲夫
出演:田宮二郎、天知茂、江波杏子、坂本スミ子、水島道太郎、須賀不二男、成田三樹夫
☆☆☆ 1964年/大映京都/91分/BW

 シリーズ第1作。
 鴨井が人目惚れするヒロインには江波杏子。

 母の墓参りで高松を訪れた鴨井大介(田宮二郎)は、神戸の大興組に墓地を潰されゴルフ場にされていることに憤慨していた。
 大阪に戻った鴨井は、大興組と対立する沼野観光の社長に雇われラブホテルの副支配人に納まり、従業員の柳子(坂本スミ子)とイチャつきながら暮らすのだが、この頃から、ショボクレた風采の上がらない小男(天知茂)に付きまとわれる。
 ある日、保険金目当てにホテルが全焼し、支配人の青井(水島道太郎)が保険金を持って神戸の大興組に逃げ込んでしまう。
 鴨井は、高知の金比羅参りで出会い人目惚れした麻子(江波杏子)を追って神戸に向うが……。

 江波杏子の素晴らしさ……モノクロの陰影のなかに浮かぶ彼女は、ヨーロッパ映画のヒロインのような美しさで輝いている。

 成田三樹夫は本作がデビュー2作目。当然出番は少ないが、存在感はピカいち。以後もシリーズの半分には登場してくる。

    ◇

喧嘩犬
監督:村山三男
脚本:藤本義一
音楽:土橋啓二
出演:田宮二郎、浜田ゆう子、坂本スミ子、山下洵一郎、成田三樹夫、遠藤辰雄、玉川良一、海野かつを
☆☆★ 1964年/大映京都/90分/BW

 シリーズ第2作。
 ヒロインはヴァンプな魅力の浜田ゆう子。

 『宿無し犬』の続編として、刑務所に収監された鴨井のムショ暮らしから映画ははじまる。
 刑務所のなかでも自由奔放な鴨井は、刑務所で顔を効かせているヤクザのボス小森(スキンヘッドの遠藤辰雄)にまで反抗。やがて出所した鴨井は、その度胸を買われ組が仕切る工事現場の現場監督に雇われる。しかし、飯場はタコ部屋状態で労務者からはピン撥ねを常習しており、ある日、刑務所で弟分として面倒をみていた小吉(海野かつを)が、組の幹部の蒲生(成田三樹夫)に殺されたことで鴨井は立ち上がる……。

 天知茂が出ていない分やはり喰い足りない感が大きいが、お綺麗な浜田ゆう子がいるからいいでしょ。
 夫を殺されたことも知らずに帰りを待つ小吉の女房・町子役の坂本スミ子が、♪チンタレーラリルーナと「月影のナポリ」を口ずさむシーンは哀愁いっぱいである。

    ◇

ごろつき犬
監督:村野鐵太郎
脚本:藤本義一
音楽:山内正
出演:田宮二郎、天知茂、江波杏子、水谷良重、坂本スミ子、山下洵一郎、根上淳、成田三樹夫、宮口精二、中田ダイマル・ラケット
☆☆☆ 1965年/大映東京/90分

 シリーズ第3作。
 水谷良重が謎の未亡人役で、江波杏子は濃いメーキャップで再び登場。

 オートバイの事故で出会ったスポーツカーの女・葉子(水谷良重)に誘われ、南紀白浜の温泉地に来た鴨井大介。宿の女中(仲居とは少し違う感じ)の玉子(坂本スミ子)相手に時間を持て余している鴨井は、葉子から夫の仇である3人の男(根上淳、山下洵一郎、成田三樹夫)を討ってくれと頼まれるが、気乗りがしないまま大坂へ戻った。大坂には鴨井に組を潰された残党が鴨井を狙っていたが、木村刑事(天知茂)から残党の件は処理をするから同僚の刑事殺しの事件の協力を頼まれる。
 木村が目星を付けた犯人は、葉子から聞いた男の名前だったが………。

 本作からカラー作品になった。それに伴いタイトルバックは、当時新進イラストレーターとして注目され、1964年の「平凡パンチ」創刊号より表紙を担当していた大橋歩のモダンなイラストが使われている(クレジットはない)。

 天知茂が登場すれば田宮二郎の気障っぷりも益々快調だし、江波杏子を田宮と張り合う成田三樹夫もいいポジショニングである。
 そして本作以降、坂本スミ子の役名は玉子で統一された。(『鉄砲犬』を除く)

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暴れ犬
監督:森一生
脚本:藤本義一
音楽:古谷充、大塚善章
出演:田宮二郎、草笛光子、金井克子、坂本スミ子、ミヤコ蝶々、大坂志郎、須賀不二男、芦屋小雁
☆☆ 1965年/大映京都/92分

 シリーズ第4作。
 謎めいた美女には、東宝から招かれた草笛光子。

 大坂西成界隈に戻ってきた鴨井大介は、木賃宿で知り合った男から一丁の拳銃を古物商に売ってきて欲しいと頼まれたが、鴨井が留守の間にその男が殺され、鴨井もまた得体の知れない男たちからその銃の行方を追及されるが自前のハジキで撃退する。鴨井は男の恋人で踊り子のミユキ(金井克子)の世話を焼くようになり、ミユキの勤めるナイトクラブのママ弘子(草笛光子)からは用心棒を頼まれる。
 このクラブは宍戸組という拳銃密売組織から狙われており、弘子は弟を殺した宍戸組相手に復讐を狙っていた………。

 ミヤコ蝶々や芦屋小雁との掛け合いは実に愉しいのだが、敵役に成田三樹夫のような執拗さもなく、草笛光子の雰囲気もここでは浮いた感じとなり、キャスティングに難ありといった感じ。ましてや、天知茂がいないのが致命的だ。

    ◇

鉄砲犬
監督:村野鐵太郎
脚本:藤本義一
音楽:菊池俊輔
出演:田宮二郎、天知茂、姿三千子、山下洵一郎、坂本スミ子、小沢昭一、安部徹、北林谷栄
☆☆☆ 1965年/大映東京/85分

 シリーズ第5作。
 本作も大橋歩のイラストをタイトルバックに使い、劇伴は大家菊池俊輔の粋なジャズテイストでモダンに幕を開ける。

 〈犬も歩けば落とし穴! よしゃ、新手でかましたれ!〉

 九州・博多の賭場で一文無しになった鴨井大介(田宮二郎)は、そこで知り合った小玉(山下洵一郎)という男から故郷の大坂にいる母親(北林谷栄)に送る金を託される。
 大坂に戻った鴨井は、食堂で置き引きに遭い愛用の自家製リヴォルバーを盗まれてしまう。
 小玉は大坂の暴力団一六組のボス塚本(安部徹)の手先として、以前、競輪選手の早川(小沢昭一)に罠を嵌め八百長試合をしていた。早川は身を持ち崩しアル中になっていたが、小玉の顔を見知っていたため、小玉は九州に飛ばされていたのだ。
しかし、小玉が母親と妹(姿三千子)恋しさに大阪に舞い戻ってきたことで、組は口封じのために小玉を消しにかかっていた。
 一方、盗まれた鴨井のリヴォルバーは巡り巡って塚本の手に渡り、その銃で証人となる早川に重傷を負わせ、小玉をも殺害してしまう。
 殺人の嫌疑をかけられた鴨井は、木村刑事(天知茂)の忠告を無視して塚本のもとへ…。

 田宮二郎の本格的なガンスタント(一部トリックはあるのだが)を見ることができる傑作。

 今回、小沢昭一が初登場し、終盤いい味を醸し出している。鴨井と意気投合し、トルコ風呂を去るシーンで女の子の胸を触っていくところなんかはアドリブだろうな。
ラスト、葉山のヨットハーバーでの銃撃戦後、鴨井大介の信条を評して小沢昭一が言う。
「はぁ~、あいつらみんなカスリ傷や。深手を負うたもんひとりもおらん。いっぺん、ゼロまるセヴンと対決させたいわぁ」
 殺す殺されの血なまぐさいストーリーが、カラっとしているのはこんなとこなんだなぁ。




「危いことなら銭になる」*中平康監督作品

DANGER PAWS_ps

DANGER PAWS
監督:中平康
原作:都筑道夫 「都筑道夫」
脚本: 池田一朗、山崎忠昭
撮影: 姫田真佐久
音楽: 伊部晴美
主題歌:「危いことなら銭になる」三宅光子
出演: 宍戸錠、浅丘ルリ子、長門裕之、草薙幸二郎、左卜全、武智豊子、野呂圭介、榎木兵衛、郷鍈治、平田大三郎、藤村有弘

☆☆☆ 1962年/日活/82分

    ◇

 “ヤバいことならゼニになる”

 モダニスト中平康が監督したクライム・コメディで、軽快でポップな色合いが実に愉しい。


 紙幣印刷用のスカシ入り和紙10億8000万円相当が、ギャングたちに強奪された。
 臨時ニュースを聞いてニヤリと笑ったのは、拳銃無敵の腕前ながらガラスを擦る音には全く弱い事件屋の“ガラスのジョー”こと近藤錠次(宍戸錠)、三流雑誌「週刊犯罪」の編集長で“計算尺の哲”と呼ばれる沖田哲三(長門裕之)、格闘技が得意の“ダンプの健”こと芹沢健(草薙幸二郎)の3人。彼らの目的はお互いを出し抜き、紙を盗んだ連中に贋幣の名人坂本老人(左卜全)をギャングに高く売りこむことだった。
 ところが肝心の名人をさらったのは、強奪犯の一味のビッグの修(郷鍈治)とポーカーフェイスの秀(平田大三郎)。ジョーと哲と健の3人は、それぞれにあの手この手を使って名人を奪還しようと悪戦苦闘する。

 ジョーが目をつけた共栄商会に乗りこんでみると、そこには秋山とも子(浅丘ルリ子)という若い美人が一人いるだけ。パリの柔道教師を夢みるとも子は大学に通うかたわら、このトンネル会社の電話番のアルバイトをしていたのだった。ひょんな拍子でジョーと行動をともにすることになるとも子だったが、ある日、ギャング仲間の管理人のあとをつけ、盗まれた和紙を積んだワゴン車を盗み出す事に成功。ギャングに一泡吹かせたと思いきや…………。


    ◇

 都筑道夫原作の作品は、東宝映画『100発100中』シリーズや小林旭の『俺にさわると危ないぜ』のように、エンターテインメントの愉しさとあか抜けたカッコ良さだろう。

 犯罪アクションコメディなので、ストーリーの無茶なところは俳優陣の会話と演技で目くらまし、4人がギャングたちと闘うクライマックスにエレベーターの高低を斬新に使ったり、ラストの偽札交換シーンの引きの画とか、画面転換もスピーディで、とにかくテンポがいい中平康監督のセンス!

 敵対しながらも友情をみせる3人の男と美女ひとりのパターンは、モンキーパンチの劇画「ルパン三世」連載前の映画ながら、池田一朗との共同脚本の山崎忠昭がアニメ『ルパン三世』第一話に携わったことに無関係ではないかも?

 “エースのジョー”ならぬ“ガラスのジョー”でセルフパロディに興じ、自らが所持する赤いメッサーシュミットを颯爽と駆る宍戸錠は粋でダンディ。
 長門裕之の気障ったらしや、左卜全のお惚けと武智豊子のガンマニアぶりなど、ナンセンスな笑いにもあふれるが、しかしこの映画の見ものは、おきゃんで愛らしい22歳の浅丘ルリ子のコメディエンヌとしての魅力である。
 ぽんぽんぽんと早口で捲し立てる威勢のよさと、柔道二段、合気道三段のキャラクターでダンプのあんちやん相手にアクションを見せたり、パンツ丸見えでひっくり返るお色気もあったりと、そりゃもう可愛いいったらありゃしない。ぞっこんになること間違いない。

 誰があなたを殺すのかしら 
 にぎやかなその街角で 冷たいナイフのひと突きで
 ある晴れた秋の朝 誰があなたを殺すのかしら

 谷川俊太郎作詞の主題歌を歌っているのは、当時は大橋巨泉夫人であったジャズ・ヴォーカリストのマーサ三宅である。


★俺にさわると危ないぜ★
★100発100中★

◆「人類学入門 「エロ事師たち」より」*今村昌平監督作品

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監督:今村昌平
原作」野坂昭如
脚本:今村昌平、沼田幸二
撮影:姫田真佐久
美術:高田一郎
音楽:黛敏郎
出演:小沢昭一、坂本スミ子、近藤正臣、佐川啓子、田中春男、中野伸逸、菅井一郎、園佳也子、菅井きん、北村和夫、浜村純、二代目中村鴈治郎、殿山泰司、ミヤコ蝶々、西村晃、佐藤蛾次郎、加藤武、榎木兵衛

☆☆☆★ 1966年/日活/128分/B&W

    ◇

 原作は野坂昭如の小説デビュー作『エロ事師たち』。
 〈エロ道〉の追求と〈エロ事〉への執念を燃やす男の生き様と、人間たちの本能である「性」への感情を、ブラックユーモアを交えて描いた人間喜劇の傑作。

 エロに耽溺する人間たちの切なさと滑稽な姿こそ「生」へのエネルギーだと言わんばかりに、徹底的に人間観察を施した演出で日本人の「性」に関する後ろめたさとか暗さを遠慮なく曝け出してゆく。


 8ミリカメラを数台持って、今日もスブやん(小沢昭一)は仲間たちとブルーフィルムの撮影に勤しんでいる。相棒の伴的(田中春男)が編集をし、エロ写真の合成は色男のカポ一(中野伸逸)の仕事。
 カラカラと映写機の音が響くなか、フィルムのチェック。8ミリのスクリーンが映し出されて、本編のクレジットになる。そのまま画面は、スブやんが住んでいる部屋にズームして物語がはじまる。

 エロ事師の仕事は、8ミリのブルーフィルム、エロ写真、エロ(官能)小説、エロテープの製作販売のほかにも、売春斡旋、乱交パーティの主催など幅広い。顧客は大手会社の重役筋。非合法な裏世界に住まい、俗世間の「欲」に応えるべく、採算度外視で仕事に励む職人気質のスブやんは、エロ稼業に誇りと自信を持っている。
 
 スブやんは、下宿先だった戦争未亡人で理髪店を営む松田春(坂本スミ子)と内縁関係にあり、春には浪人生の息子・幸一(近藤正臣)と15歳の娘・恵子(佐川啓子)がいる。
 幸一は極度のマザコンで、恵子は幼い頃、スブやんが原因で交通事故に遭い太ももに痛々しい傷跡が残っている。ふたりはスブやんの商売を知ってから、幸一は金の無心、恵子は嫌悪感を露にしながら不良中学生のように過ごしている。
 スブやんは、そんなふたりの面倒も嫌がらず、春のためにも懸命に、ヤクザに邪魔をされようが働き稼いでいる。

 そんなある日、春が病で倒れた。商売にも障害が起こりイライラするスブやんは、つい恵子と情交を結んでしまう。それを知った春は、スブやんに恵子と結婚してくれと言い出す。
 伴的は商売をもっと頑強にするために、自前の現像所を作ろうと提案し金の工面をするが、その金を幸一が持ち逃げしてしまう。それでも、幸一を案ずるスブやんである。

 精神不安定で個室で療養するようになった春のところに、嫁をもらったと幸一が尋ねてくる。スブやんもひさしぶりに病室で春とセックスをするが、翌日、春は突如として狂いだし、亡くなってしまう。
 エロ事に生き甲斐をなくしインポテンツになったスブやんは、人間への性的快楽を機械に求めるようになり、完璧なるダッチワイフの製作にとりかかる。エロ事師一世一代の大仕事である。

 5年後。実家を美容院にして開店させた恵子は、不良仲間だった客と「十(とう)でズベ公、十五(じゅうご)でアネゴ、二十歳(はたち)過ぎたらただの人や」と笑い飛ばすほど一人前の美容師になっていた。
 店の裏の運河の川縁には、停泊する屋形船のなかで春に似せたダッチワイフの研究に余念のないスブやんが生活している。ダッチワイフを南極観測船に提供しようと、商売っ気たっぷりの幸一の話を一蹴するスブやんは、まるで達観した仙人のような姿だ。
 恵子からもらう髪の毛を、一本一本陰毛部分の植毛に没頭するスブやん。
 その夜、停泊用のロープがほどけ、スブやんの船はゆっくり大阪湾から大海に流れていく。

 冒頭の8ミリ画面に変わり、漂っていく船とともに8ミリ映画は終わる。

 スブやん「わかるなぁ。この男の気持ち」
 伴的「わいには わからんなぁ」
 カポ一「死んでまうんやろか」
 スブやん「さ、次やろ!」

 …………暗転………

    ◇

 初の主演映画である名ヴァイプレイヤー小沢昭一(1967年の『痴人の愛』でも主役だった)は、巧みに大阪弁を操りエロ道まっしぐらの主人公の哀れさと滑稽な姿を、見事なほどの存在感で見せつけ、ひたすら裏世界に生きる男の純情さと人に対する温かさが微笑ましい。
 大阪弁に関しては、自然体の坂本スミ子に比べ小沢昭一はいかにもわざとらしさがあるのだが、それが逆に生臭さを消す作用になり、俗世間を漂う如何わしさを醸し出していて面白い。

 今村昌平好みのぽっちゃりした坂本スミ子は、その体躯から発散する妖艶さが素晴らしい。決して美人ではないのだが、菩薩のような優しさがとても美しい。
 セット撮影がほとんどなくロケーションだらけの本作で、3階の病室のベランダから叫び歌う坂本スミ子の鬼気迫る狂人演技は他を圧倒する。浴衣の前がはだけた半裸姿で、病室の鉄格子の出窓から手足をばたつかせ、大声で春歌を歌う坂本スミ子を大通りから群衆が見上げているのだが、その驚きようは決してエキストラとは思えない。今村昌平のリアルな演出の一端であろうか。理髪店となる河川沿いの住居も、実際に人が住んでいる家を借り受けて改装したらしい。
 
 そんな今村昌平の演出に伴う姫田真佐久のカメラワークも、人間を冷徹に見据えているかのように相変わらず凄い。
 スブやんの商談を隣のビルからロングショットで撮らえるカメラをはじめ、天井から覗いたり、窓越し、襖越し、ガラス越し、水槽を挟んだり、登場する人物はほとんどのシーンでカメラと相対することなく、子どもが蟻の巣を虫眼鏡で観察するかのように、カメラのレンズが人間を観察する眼となり、観客はこっそりと市井の生活を覗き見をしている錯覚に陥る仕組みだ。
 果ては、恵子の高校入学式では床においたカメラで女子生徒の沢山の脚だけしか映さない奇抜さとか、幸一の嫁が病院の廊下を歩いてくるシーンではただならぬ空気がカメラから立ちのぼっている。

 子持ちの娼婦を処女に仕立てる置屋のミヤコ蝶々の図太さとか、処女を欲しがる中村鴈治郎のエロ爺ぶりや、知恵遅れの自分の娘をブルーフィルムの相手役にする男優の殿山泰司の畜生ぶりなど、名優のリアリティによっても人間の「欲」のどうしようもなさが暴かれている。

 嗚呼、人間なんて節操もない愚かな動物。みんな同じ穴の狢ってことだろ。