TEA FOR ONE

まぁお茶でも飲みながら気ままに、好きなことを、すこ~しネタバレしながら、のんびりと………。

「さらば映画の友よ~インディアン サマー」*原田真人監督作品


監督:原田真人
脚本:原田真人
音楽:宇崎竜童
出演:川谷拓三、重田尚彦、浅野温子、鈴木ヒロミツ、石橋蓮司、山口美也子、トビー門口、室田日出男、原田芳雄(特別出演)

☆☆☆★  1979年/日本ヘラルド/111分

 初見1979年6月。

 スクリーンと現実を同時に生きているような奇妙なあいつ………
 ダンさんと呼ばれた映画狂が、冬のある日、ギンギンに燃えながらスクリーンの中へ消えちまった……
 映画の魅力に取り憑かれた男のおかしくも哀しい物語……


 1968年秋。沼津に住む大学浪人中の19歳シューマ(重田尚彦)は、毎日を映画館に通う事と童貞を捨てることに心をくだいている。
 ある日、新宿まで遠出をした映画館で、お喋りをする女子学生に「お嬢ちゃん、ひとから愛されるように映画を観る気ない?」と注意する中年男と出会う。席を立つ女子学生は彼を痴漢扱いするのだったが、シューマが男を救った。
 ダンさん(川谷拓三)と称する彼は元大部屋俳優で「オレの人生の目的は、1年間に365本の映画を観ること。それを20年続けること」とうそぶく奇妙な中年男だったが、ダンさんの映画狂ぶりはケタはずれで、ふたりの映画話は尽きることがなく、映画狂同士の友情がはじまった。

 シューマの実家はおカマ言葉の父親(室田日出男)が営む〝ロード・ハウス〟という喫茶店で、キャバレー歌手のコチ(トビー門口)、OLのテンコ(山口美也子)、サラーリーマンのダメハツ(鈴木ヒロミツ)ら常連客が集っている。
 沼津に住みつくダンさんとシューマの前に、17歳の不良少女ミナミ(浅野温子)が現れた頃から、ふたりの関係が変わってきた。
 ミナミに惚れたシューマを心配するダンさんは、ミナミがホステスをしていることを教えるのだが、シューマはダンさんと絶好をする。そしてミナミは姿を消した。

 TVで東大安田講堂の学生と機動隊との攻防が映し出される1969年。ミナミと再会したシューマはふたりでモーテルに入るが、ミナミの身体には刺青があり、やくざの二代目・本間(石橋蓮司)の情婦だったことにショックを受ける。
 「本間を殺してやりたい」と口走る息子を心配した父親は、シューマを台湾旅行に送り出す。
 
 旅行から帰り、すっかりミナミのことを忘れたシューマの前にダンさんが現れた。
 大切な友達を思うダンさんは、敵討ちの計画をしていた。絵空事を夢見るダンさんに腹を立てたシューマは、ダンさんを激しく罵り、ダンさんは悔しさに立ち尽くすのだが、ダンさんは本気だった。

 穏やかで暖かくインディアン・サマー(小春日和)のような日、ダンさんはコルトを片手に本間の家に殴り込んだ。
 そして本間に止めを刺すが、ライフルを構えたミナミが現れ轟音とともにダンさんは吹き飛んだ。
 ダンさんが死んだ。現場に駆けつけたシューマの前にはパトカーに乗るミナミがいた。 

 映画館に入るシューマ。スクリーンに映る『新・網走番外地』。
 シューマには、健さんの姿がダンさんにダブってゆく。
 後部座席で騒ぐやくざに「お兄さんたち、ひとから愛されるように映画を観ませんか?」とシューマの声……。

    ◇

 本作のタイトルが名作映画からなぞらえたように、この映画のなかには名画のエッセンスが散りばめられている。
 原田真人29歳、川谷拓三37歳の出会い……
 原田真人監督のデビュー作であり自伝的な作品は、川谷拓三の主演映画として最高の演技で泣ける映画となっている。

 長らくアメリカに滞在し、ハリウッドの映画情報を「キネマ旬報」や「宝島」に寄稿していた原田真人が、敬愛するハワード・ホークス監督が亡くなった翌日から、彼に捧げる映画としてシナリオを執筆。主人公は、川谷拓三のキャラクターを念頭にアテ書きし、愛すべき映画狂を創造したという。
 病的で狂気にもなる映画ファンの振る舞いが、まさに川谷拓三の実像のように迫ってくるのも道理である。

 物語の舞台は1968年から1969年にかけて。〝3億円事件〟〝東大闘争〟〝川端康成ノーベル賞受賞〟〝永山則夫連続射殺事件〟などのニュースが駆け抜けた時代だ。
 それら背景とともに時代を彩るのが、宇崎竜童選曲の60年代日本のポップス。
 「廃墟の鳩」「愛する君に」「あの時君は若かった」「ブルーライト・ヨコハマ」「恋の季節」などのヒット曲が流れ、まさにジャパニーズ・グラフィティの様相である。
 

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「待ち伏せ」*稲垣浩監督作品


監督:稲垣浩
脚本:藤木弓、小国英雄、高岩肇、宮川一郎
製作:三船敏郎
撮影:山田一夫
音楽:佐藤勝
出演:三船敏郎、勝新太郎、石原裕次郎、浅丘ルリ子、中村錦之助、有島一郎、北川美佳

☆☆☆ 1970年/三船プロダクション・東宝/117分

    ◇

 初見1970年3月。
 この年、三船敏郎は勝プロの『座頭市と用心棒』(正月公開)と中村プロの『幕末』(2月公開)に客演。石原裕次郎とは1968年に『黒部の太陽』で共演しているが、こうしてそれぞれスター・プロダクションの代表として4人が一堂に会した映画は初めて。
 それだけに、銀幕の大スター競演ということでワクワクして劇場へ行った映画だ。


 幕府の陰謀・策略が日夜企てられていた天保の時代。
 人里離れた三州峠に、申し合わせたかのように人が集まってきた。

 浪人・鎬(しのぎ)刀三郎(三船敏郎)は、“鴉”と呼ばれる謎の武士に金で雇われ「峠で待て」の密命を受け、峠のふもとにある一軒の茶屋で暇をつぶす。途中、夫の暴力に悩まされていた女おくに(浅丘ルリ子)を助け、同行していた。
 茶屋は、老主人の徳兵衛(有島一郎)と村を出たがっている孫娘のお雪(北川美佳)で切り盛りしていた。裏の離れの小屋には、ご禁制の薬で一儲けしようと企む医者くずれの玄哲(勝新太郎)が住んでいる。
 そこに、処払いが明けた渡世人の弥太郎(石原裕次郎)が立ち寄り、さらには血だらけの男が二人、役人の伊吹兵馬(中村錦之助)が盗人を捕らえて現れた。

 しばらくすると、盗人の仲間二人が役人に化けて茶屋にやってくるが、偽物と見破った刀三郎は一人を切り捨てるが、もうひとりに逃げられてしまう。
 新手の敵が来ることを予想した刀三郎は見晴らしのよい場所へと姿を移し、弥太郎も茶屋を後にする。
 やがて数人の盗人仲間たちが押し入り、兵馬やおくにら四人を人質にした。この盗賊の首領は何と玄哲であった。そして、刀三郎も捕えられ茶屋に戻ってきたが、持っていた密書を見た玄哲は仲間だと言う。刀三郎が受けた用心棒の仕事は、水野越前守の命で玄哲らとともに三州峠を通る御用金を掠奪し、松本藩をつぶすことだった。
 玄哲はかつて江戸城のお抱え医で、水野越前守の疑獄の身代わりで追放されたあと、水野越前守から裏の汚い仕事を任されるようになっていた。

 ところが、その命を下した“鴉”から「玄哲を斬れ」という密書が刀三郎に届いた。
 実は、御用金などというのは真赤な嘘で、水野越前守の弱みを握る玄哲を抹殺するという“鴉”の大芝居だったのだ。“鴉”が差し向けた囮の行列が近づいてきた。
 そこに弥太郎が率いる陣屋の捕手も駆けつけるが、玄哲は刀三郎の制止を振り切り行列の中へ斬り込んでいった………。

    ◇

 そのほとんどが茶屋を中心にした密室劇に近く、4大スターが居ながらダイナミックな殺陣シーンは最後に少しだけという、ワクワク感が萎んだ感はあるけれど、まぁそれなりに楽しめた作品ではあった。
 
 やはり三船敏郎には良くも悪くも素浪人がお似合いだし、勝新太郎は(座頭市もそうなのだが)ワルっぽさが嵌る。
 ただスター4人の見せ場が充分だったかというとそうでもなく、石原裕次郎と中村錦之助は損な役回り。時代劇では大根ぶりを露呈する石原裕次郎がウロチョロするだけで出番も少ないのは良しとして、吃音で性悪な正義感を振りかざす中村錦之助に至っては、骨折している状態にして芝居の動きを制限してしまっている。だから見せ場がない。
 これはどう見ても、三船敏郎と勝新太郎に華を持たせたことなのだろうが、その勝新太郎にしても、玄哲という屈折した人物像がしっかりと描き切れていないので、最後の鎬刀三郎との心の通じ合いがイマイチ感じられないのが残念。

 浅丘ルリ子は時代劇向きのお顔ではないけれど、綺麗だから言うことなし。女の情念を感じさせ、素浪人の心を掴むところなんぞいい女ぶり。

 スキャンダルなことを少し書き添えておけば、計算高いお雪役の北川美佳は三船美佳の実母。実生活でこの時期、本妻との別居生活に入った三船敏郎の心を掴んだ北川美佳ということになるのだが、結果、ここから三船プロの凋落まで10年もない。

★座頭市と用心棒★

「復讐するは我にあり」*今村昌平監督作品

 以下作品は、映画前売券のコレクションとしての記録です。

1979_復讐するは我にあり
監督:今村昌平
原作:佐木隆三
脚本:馬場当、池端俊策、今村昌平
撮影/姫田真佐久
音楽:池部晋一郎
出演:緒形拳、三國連太郎、小川真由美、倍賞美津子、ミヤコ蝶々、清川虹子、殿山泰司、白川和子、絵沢萠子、河原崎長一郎、フランキー堺、北村和夫

☆☆☆☆ 1979年/日本・松竹/140分

 初見1979年4月。

 5人もの人間を殺した冷酷殺人犯を題材にした佐木隆三の直木賞受賞作品を、深作欣二、黒木和雄、藤田敏八らと競い今村昌平が映画化にこぎつけたことは有名な話だが、アクション主体で構想した深作版、原田芳雄の主役が想定された黒木版、郷愁豊かになったろう藤田版などを想像するも、やはり、今村昌平監督の気迫を込めた(10年ぶりの劇映画だった)人間ドラマの凄みは有無を言わせない。
 
 殺人犯の顔に成りきった緒形拳をはじめ、小川真由美、清川虹子、倍賞美津子の3女優の存在感に圧倒される作品でもある。

「ずべ公番長 ざんげの値打ちもない」*山口和彦監督作品



監督:山口和彦
脚本:宮下教雄、山口和彦
撮影/仲沢半次郎
音楽:津島利章
主題歌:「ざんげの値打ちもない」北原ミレイ
挿入歌:「棄てるものがあるうちはいい」北原ミレイ
出演:大信田礼子、賀川雪絵、橘ますみ、集三枝子、市地洋子、片山由美子、伴淳三郎、左とん平、南利明、笠置シヅ子、金子信雄、中谷一郎、渡瀬恒彦、北原ミレイ

☆☆☆ 1971年/東映/86分

    ◇

 大信田礼子の当たり役〝ずべ公番長〟シリーズ第4作にして最終作。


 不良少女たちの更生施設「赤城女子学園」に四度入所中の〝はまぐれおリカ〟こと影山リカ(大信田礼子)は、背中に紅薔薇の刺青をしたみどり(片山由美子)と出会う。

 一年後。出所して新宿に戻ったリカは、みどりを訪ねて父親の鉄五郎(伴淳三郎)が営む自動車整備工場に顔を出し、そこで住み込みで働かせてもらうことなった。
 その工場は、みどりと同棲している不良学生の浜田の借金のために、新宿一帯を取り仕切る大矢組から脅迫を受けていた。大矢組は土地乗っ取りのためにイカサマ賭博を仕掛けていたのだった。

 リカはかつての仲間たちに再会。朋友のヤオチョウこと八尾長子(橘ますみ)、センミツこと千本ミツ子(集三枝子)はキャバレーのホステスに……おゆき(市地洋子)は実家のラーメン屋で働いていた。そして、冬木マリ(賀川雪絵)は、内縁の夫で病床に伏せるヤクザの荒井(中谷一郎)を看病するためにヌード・スタジオのモデルをしていた。
 ひょんなことからトラック運転手の竜二(渡瀬恒彦)に出会うリカ。竜二は荒井の弟で、兄の身を案じ堅気になるように進言するが、頑な兄に心を痛めていた。

 工場の件で大矢組の組長(金子信雄)に頭を下げに行ったリカとみどりが捕まり、助けに来た鉄五郎の過去が明かされる。
 マリの妊娠で足を洗う決意をした荒井に大矢は鉄五郎の殺しを条件に出すが、不意打ちを喰らいふたりとも殺害されてしまう。
 喪章を付けた深紅のマキシコート(特攻服)に身を包んだ5人の女衆(真面目になったおゆきに代わってみどりが仇討ちメンバーになる)は大矢組に殴り込み、さらしとホットパンツ姿になり復讐の刃で鮮血を流すのだった……。

    ◇

 〝ずべ公番長〟シリーズは、以後、東映の看板となる池玲子と杉本美樹の〝スケバン〟シリーズへと発展してゆくのだが、まだこの頃のずべ公たちにはエロやヴァイオレンスは少なく、どちらかと言うと歌謡映画の人情ドラマとして成立している。
 陰鬱で情念の池玲子や杉本美樹たちと違って、天真爛漫な大信田礼子の、情に厚く無鉄砲だが威勢のいい明るいキャラクターが魅力になっている快作である。

 ストーリーは全4作とも同じようなパターンで、お約束通りの展開はマンネリズムの開き直りでもあるが、コメデイ・リリーフとしての左とん平や南利明、笠置シヅ子、シリアスな伴淳三郎の芝居や金子信雄のおカマの役づくりなど、脇の固まったプログラム・ピクチャーに怖いものはないのだ。

 お気に入りは賀川雪絵。彼女が最初に登場するシーンでは荒んだメイクに少し引いてしまうが、長身を持て余す健気な女の子ぶりにはドキドキしてしまう。

 北原ミレイが「棄てるものがあるうちはいい」をGO GO クラブでたっぷり歌ってくれるのも嬉しいシーンだったが、タイトルバックに流れる主題歌「ざんげの値打ちもない」はレコードとは違う別ヴァージョンだった。〝鉄の格子の空を見て〜〟と映画にはピッタリの歌詞でありながら、レコーディングは劇伴用だけのものしか存在しておらず、北原ミレイのレコードでは一切使用されずにいた。
 そして、長いこと封印されていたこの幻の四番の歌詞のことが明かされたのは、阿久悠没後1年に放送されたNHKの生放送においてだった。それ以前には、山崎ハコが阿久悠トリビュート盤でカヴァーをしていたが、オリジナルの北原ミレイが38年ぶりに初めて歌ったことは感動ものであった。

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左から、集三枝子、賀川雪絵、大信田礼子、橘ますみ、片山由美子

★ざんげの値打ちもない 幻の歌詞のこと★
★ハコが唄う ざんげの値打ちもない★


「しびれくらげ」*増村保造監督作品

1970_しびれくらげ
The Hot Little Girl
監督:増村保造
脚本:石松愛弘、増村保造
撮影:小林節雄
音楽:山内正
出演:渥美マリ、田村亮、川津祐介、玉川良一、草野大悟、近江輝子、笠原玲子、根岸明美、内田朝雄、平泉征(現・平泉成)

☆☆☆ 1970年/大映/92分

    ◇

 1970年10月に公開された〝軟体動物シリーズ〟第6作。
 このシリーズはこれで打ち止めだが、渥美マリ主演の映画はこのあと、11月公開の『裸でだっこ』と12月公開の『可愛い悪魔 いいものあげる』が公開されている。
 1970年はじつに7本の主演作があったことになる(出演作品は計8本)。


 ファッションモデルのみどり(渥美マリ)は、ウェイトレスだったのを大繊維メーカーの大東繊維の宣伝部員山崎(川津祐介)に拾われ、グラビアに載るほどのモデルとなり、いまでは大東繊維のファッション・ショーの仕事を独占していた。これは山崎がみどりの恋人であったためだ。
 ある日みどりは突然山崎から、ニューヨークに本店をもつ大百貨店の仕入担当重役ヘンダーソンと寝てくれと頼まれる。みどりの意見を無視した強引さと、二人の将来という甘い言葉に説得され、みどりは黙ってうなずくしかなかった。数日後、サインを取りかわした山崎の評価は一躍上がった。

 みどりには、ストリップ劇場の楽屋番をしている父親(玉川良一)がいた。女ぐせが悪く、酒に溺れ、みどりに金をせびる厄介者な上に、暗い過去をもつ男の常として無気力で、終日グチるしか能のない男であった。
 父親はかねてより目をつけていたバーのママ(根岸明美)を口説くために、芸能人だとふれこみ、みどりの載った週刊プレイボーイのグラビアをちらつかせて旅館に連れ込むが、亭主であるやくざの山野(草野大悟)に踏み込まれ、おとしまえとして100万円を要求される。
 娘のみどりは一切金を出そうとしないので、こともあろうに山崎に金の無心をしてしまう父親。
 山野の使いでやって来た健次(田村亮)に100万円を渡し解決したかにみえたが、金の出所が山崎からと知ったみどりは、許しを乞うために山崎のマンションに出向く。
 会社での自分の安全と将来しか気づかわない山崎は、みどりにろくでなしの父親を棄てろと迫るが「親だから、殺すことはできても棄てることはできないわ」と云うみどりに、山崎は「あの100万円はヘンダーソンと寝た謝礼だ」と告げて別れを切り出すのだった。
 そして、一連の出来事がモデルクラブに広がり、みどりはクビになってしまう。

 その夜、山野の子分サブ(平泉征)たちが飲んだくれていた父親を監禁し、みどりを呼び出した。山野の狙いは見事な肢体を持ったみどりをコールガールにすることだった。
 窮地に追いこまれたみどりを救ったのは、みどりと同じような父親をもった健次だった。この事件以来、みどりは健次に親近感を覚えるようになった。

 みどりを助けたことで山根から痛い目にあった健次は「やくざから足を洗って東京を出て行く」とみどりに告げる。それを聞いたみどりは、最後にもう一度助けて欲しいと頼むのだった。
 それは山崎に美人局を仕掛け、ヘンダーソンの件で大東繊維の重役(内田朝雄)を脅し1,000万円を手に入れることだった。

 新宿西口の建築中の京王プラザホテル前の陸橋でみどりは健次に小切手を渡し、お互いに今の環境から抜けだしたときに再会すること約束し、それぞれの道に別れてゆくのだった……。

    ◇

 本作はこれまでのように男を踏み台にして自立してゆく女の物語ではなく、父と娘、男と女の話になり、ふたたび増村保造が監督を受け持った。

 俳優たちの台詞まわしは、リアリズムよりキャラクター重視の増村イズムの大芝居で『でんきくらげ』を軽く上回っている。
 川津祐介の一本調子の芝居は増村演出たるものだろうから、面白さは断然こちらの方がおもしろい。
 ねっとりと陰鬱な展開にあって、コメディリリーフ的な玉川良一の腹が立つほどのろくでなしぶりも適役。渥美マリが玉川を容赦なく蹴りまくるシーンは、切るに切れない親子関係の哀しさが滲んでいるのだが、その徹底ぶりには苦笑さえしてしまう。

 渥美マリの演技は巧い下手の問題ではなく、全編ぶっきらぼうにドスを効かせる発声が圧巻であり、ハードボイルドな渥美マリはクセになる。男らしい女っぷりに平伏すばかりである。

★いそぎんちゃく★
★続・いそぎんちゃく★
★でんきくらげ★
★でんきくらげ・可愛い悪魔★

「でんきくらげ・可愛い悪魔」*臼坂礼次郎監督作品

70_でんきくらげ可愛い悪魔
The Good Little Bad Girl
監督:臼坂礼次郎
脚本:白坂依志夫、安本莞二
撮影:上原明
音楽:八木正生
主題歌:「可愛い悪魔」渥美マリ
出演:渥美マリ、笠原玲子、草野大悟、松川勉、近江輝子、川崎陽子、猪俣光世、金子研三、甲斐弘子、平泉征(現・平泉成)、森矢雄二、岩崎信忠

☆☆☆ 1970年/大映/83分

    ◇

 1970年8月に公開された〝軟体動物シリーズ〟第5作は、本年(2015年)早々に訃報が届いた名シナリオライター白坂依志夫(享年82)の作品。
 氏が「三日か四日で書いてくれ、と依頼された」と述懐していた本作は、フレンチ・スタイルのポップな仕上がりで、シリーズ中一番明るく、70年代はじめの風俗も楽しめる。


 雑誌社に勤める姉の伸子(笠原玲子)を頼って上京した自由奔放な妹ゆみ(渥美マリ)は、街で見かけたミュージカル新人募集のポスターに惹かれオーディションを受けるが、素人のゆみはあえなく落ちてしまう。うさ晴らしに会場で知りあったフォトモデルの久子(甲斐弘子)と、アングラ芝居の俳優の五郎(金子研三)の三人でゴーゴークラブに遊びにいく。踊りまくるゆみの躍動する美しい肢体に目をつけた久子は、キャメラマンの小泉(草野大悟)をゆみに紹介するが鼻にもかけない。

 ある日、姉の恋人谷沢(森矢雄二)が伸子の留守中にアパートに来て、退屈しているゆみを海に誘う。谷沢は浜辺でビキニ姿になったゆみの豊満でみずみずしい肉体に魅せられ、太陽と海にかこまれて開放的な気分になったゆみはあっさりと全てを許すが、これを伸子に知られてアパートを追い出されてしまう。
 久子の元を訪ねたゆみは、フォトモデルとして一緒にやろうと誘われるが、久子と全裸で絡むレスビアン写真やサド・マゾ的な写真ばかり撮られ、それがいかがわしい目的に使われているのを知って激怒、久子のもとを飛び出し五郎のアングラ劇団に身を寄せた。しかし、訳の判らないテント芝居とドラッグ・パーティーに呆れたゆみは、またもひとり街に飛び出すのだった。
 
 金もなく、頼る人もないゆみを救ってくれたのは気の良いマッサージ嬢の利恵(猪俣光世)だった。利恵の紹介でマッサージ嬢になったゆみは、その抜群の肢体と男好きする顔立ちでたちまち売れっ子になるが、利恵の恋人で歌手の謙二(平泉征)に誘惑される。
 ゆみはこれを拒絶するが、根に持った謙二は利恵に中傷を吹き込み、それがもとで大喧嘩になり、マッサージ業をやめる羽目になってしまった。
 
 何をやってもうまくいかないゆみは、マッサージで稼いだ金で豪華なホテル住まいを始めるが、所持金を全部盗まれ、ふたたび窮地に追い込まれる。
 その苦境を救ってくれたのは、兵藤興業グループの女社長貴子(近江輝子)だった。かねてよりゆみの美貌と素晴らしい肉体に目をつけていた貴子は、交換条件として貴子の一人息子正男(松川勉)の極度の女性恐怖症を治してくれるよう依頼する。
 やがて、ゆみの全ての魅力を結集した献身的な奉仕が効を奏し、正男は一人前の男性としてゆみを愛することができるようになった。

 役目を果たしたゆみは兵藤邸を去り、以前知り合ったコマーシャル・カメラマン津川(岩崎信忠)の元に行き、一流化粧品会社“サン”の専属モデルとして一躍売り出された。
 しかし、有名になったゆみのもとには姉の恋人がたかりに来たり、津川の広告制作会社にはエロ雑誌に掲載した昔の写真を持って小泉が恐喝に来るようになる。
 津川とディレクターの神山は、マスコミを利用して成り上がってきたゆみの私生活を逆手にとろうと提案するが、ゆみは首を横に振り「そんな事までして有名になっても楽しくない」と言って去ってゆく。

 マスコミに追われ帰宅したゆみは、とうとう独りぼっちになってしまったが、悲壮感はない。
 「こんなことでは負けない。若いうちって起きたり転んだり、ごちゃごちゃするから面白いんだわ」
 水着姿が多い渥美マリが唯一、後ろ姿だが綺麗なオールヌードを見せてくれたところで映画は終わる。

    ◇

 前作『夜のいそぎんちゃく』から1ヶ月あまりで公開された本作は、ここまでの4作に共通した〝男を誘惑し、破滅させる〟小悪魔的ヒロイン像ではない。
 肉体に群がる男たちはいても、男に媚びない。掴みどころのないヒロインは男を利用するのではなく、あくまで自分が楽しいことだけを信じて生きている。好きなことをスキといい、嫌いなことはキライという、男っぷりのある生き方だ。

 渥美マリの芝居も、代表作と言われる『でんきくらげ』ような大芝居の台詞まわしではなく、自然な口調になり、何よりもサバサバした気っぷの良さが気持ちよく、好感持てるヒロインを作り上げている。

 アングラ、ヒッピー、サイケといった言葉が蔓延していた1970年代。
 オープニング・タイトルからフレッシュな色彩に溢れた70年代ファッションが楽しめ、終盤の渥美マリがモデルをするファッション・フォトの数々には、60年代後半から流行し出したモッズやミニスカート、ヒッピー・スタイルなどのストリート・ファッションあり、70年代になって流行るパンタロン・スタイルがウーマン・リヴの機運を高めた、そんな時代の空気を感じることができるのである。

 八木正生の劇伴も軽快に弾む。
 タイトルバック及び全体に流れる〝ダバダ~ダバダバダ、ダバダ~〟のスキャットが、1960年代のポップなフランス映画の雰囲気を醸し出している。

 そして、和製ブリジット・バルドーとして本家BBの映画『可愛い悪魔』(’58)から頂いたタイトルらしく、渥美マリのキューティー・ポップなデビュー曲「可愛い悪魔」を歌うシーンが本編に設けられている。
 なんとも麗しき彼女の表情が、素晴らしくステキなのである。
 
★いそぎんちゃく★
★続・いそぎんちゃく★
★でんきくらげ★

「でんきくらげ」*増村保造監督作品

1970_でんきくらげ
Play It Cool
監督:増村保造
原作:遠山雅之「悪女の手口」
脚本:石松愛弘、増村保造
撮影:小林節雄
音楽:林光
出演:渥美マリ、川津祐介、永井智雄、玉川良一、西村晃、中原早苗、真山知子、八代順子、根岸明美、平泉征(現・平泉成)

☆☆☆ 1970年/大映/92分

    ◇

 1970年5月公開の〝軟体動物シリーズ〟第3作。
 己の軀ひとつで、男を利用してのし上がっていく逞しい女のサクセス・ストーリーを、今回は巨匠増村保造が監督した。

 洋裁学校に通っている19歳の由美(渥美マリ)は、バーに勤める母親(根岸明美)と二人暮らしだったが、長年水商売を渡り歩いてきた母親に男っ気が途絶えることがなく、最近、保険外交員の吉村という男(玉川良一)と同居をしている。
 酒と博打に溺れる吉村は、由美の見事な軀に興味を示し、ある晩彼女のヴァージンを奪ってしまう。激怒した母親は吉村を刺殺。

 刑務所に入った母親を献身的に励ます由美は、生活のために母親が勤めていた場末のバー「タッチ」のマダム(中原早苗)に誘われ夜の世界に入った。母親は自分と同じ道を辿ることを案じるが、由美の決心は固く、店でもすぐに人気者になった。
 そんな由美に目をつけてきたヤクザがいたが、弁護士くずれで高級クラブのマネージャー野沢(川津祐介)に救われ、由美は野沢の愛人で銀座のクラブのママ依子(真山知子)の世話になる。
 銀座に出た由美は水を得た魚のように、着実に得意客を増やしていった。しかし由美は、母親の惨めな生活を見てきただけに自分の肉体を安売りすることだけはしたくなかったし、それは野沢に惹かれていることもあった。

 やがて由美を手に入れようと何人もの男たちが現れ、由美は得意のポーカーで自分が負けたら言いなりになると持ちかけ、玄人はだしに腕前で男たちから金を吸い上げるのだった。しかし他のホステスからのやっかみもあり、警察の取り調べを受ける羽目になる。

 そんなとき由美は、野沢からクラブのオーナー加田(西村晃)を紹介される。加田は由美のようにはっきりと自己主張する女性をひと目で気に入り、自分の財産を浅ましい親族に渡すくらいならお前に金をつぎ込みたいと、妾の話を持ちかける。
 相談した野沢の言葉は哀しかったが、母親のために何かを吹っ切たように決意する。
 莫大な手当とオーナーとの爛れた生活だったが、ある日、加田が風呂場で倒れ死んでしまう。野沢から、妾には金は一銭も渡らないが子どもがいれば別だと聞いた由美は「オーナーの悪口をいう親族たちは大嫌い」「今夜、子どもをつくって」と野沢に迫るのだった。
 後日、懐妊証明書を楯に2億5000万円を手にした由美は、子どもを堕ろし、結婚を申し込む野沢には「あなたから妾になれと云われたときに、わたしは死んだの」と冷たく彼を突き放し、母親と一緒に暮らすためひとり去ってゆくのだった……。

    ◇

 身も蓋もなく暗く気が滅入る話だが、何があろうが男たちに堂々と立ち向かい、自分の力で生きてゆくヒロインの姿は渥美マリの肉体なくしてはありえない。
 そんな渥美マリの肉体的存在意義を、強烈な自我を持った女性を描きつづけてきた増村監督がどのように突き詰めるか興味あるところだったが、前2作では極力台詞を少なくしていたであろう渥美マリに、増村監督はあえて棒読み台詞の演出で直線的な芝居をさせている。
 エキセントリックなところがあっても、自分を卑下せず、心根が実はピュアだったり、自ら堕ちていかない生真面目さは、ある意味清々しいヒロインなのである。

 即物的な台詞と人物描写、メリハリを効かせた大芝居といった大映イズムに嵌った渥美マリの凄みはなかなか面白い。

★いそぎんちゃく★
★続・いそぎんちゃく★