TEA FOR ONE

まぁお茶でも飲みながら気ままに、好きなことを、すこ~しネタバレしながら、のんびりと………。

「役者は下手なほうがいい」竹中直人



一生、ベテランなんて言われたくない──

野心もなかった 自信もなかった
それでもつかんだ 圧倒的人生論!!

一生、ベテランなんて言われたくない──。脚本は読まず、役づくりもせず、型にはめられることを何より嫌ってきた竹中直人。コンプレックスの塊で、自信がなかったという彼が、加山雄三への憧れ、森崎東、五社英雄ら名監督の忘れられない言葉、初監督作~最新作の現場裏話、今だから語れる出世作『秀吉』の「珍」事件といった豊富なエピソードをもとにマイナスをプラスに転換する、自らの「逆転」の生き方の核心を初めて明かす。

    ◇

 加山雄三に憧れ、ジェームズ・ボンド映画や東宝アクション映画で育った少年期からはじまる、鬼才竹中直人の映画人生が語られるのだが、特に興味を覚えたのが石井隆映画との関わりを語る数ページ…

 竹中の事務所のごみ箱に捨てられていた「ヌードの夜」と題された台本の話は有名だが、まさに、竹中が拾い上げたこの1冊から、石井隆の映画監督人生、そして一般映画「GONIN」へとつづく道が開けたと言っても過言ではないだろう…
 
 石井隆映画の裏話としては、「天使のはらわた 赤い眩暈」の現場に鈴木則文監督が現れた話は興味深く、この何年か前に、石井隆の劇画「黒の天使」を鈴木監督が映画化する企画が持ち上がり、そして頓挫したこともあり、だからこの繋がりを考えると実に面白い…
 あと相米監督のこと…

 ただしおかしな記述もある…石井隆の漫画(原文通り)を見たのが中学生の頃だったなんて記憶違いも甚だしい…少年期に廃屋や原っぱで成人雑誌を拾い読みした想い出は男の子なら誰にでもある記憶の一片だが、竹中のいう「漫画エロトピア」は1973年の創刊だし、ましてや竹中が中学生のころは、まだ、独特のタッチが確立された石井隆名義の劇画は描かれていないはず…
 きっと、「漫画アクション」とか「ヤングコミック」、劇画家なら笠間しろうなどを垣間見た記憶とすり替わっているのだろうな…
 
 まぁ、そういったことも含め、ほかにも森崎東監督の言葉や、五社英雄監督との想い出、役者の仕事と監督の仕事などてんこ盛りに詰まっている面白い読みもの…

    ◇

役者は下手なほうがいい/竹中直人
【NHK出版新書504】
定価 799円+税

スポンサーサイト

「映画の荒野を走れ プロデューサー始末半世紀」伊地智啓

book_映画の荒野を走れ
 〝 ロマンポルノから相米慎二へ 日本映画の転換期を語る 〟

 本書は、1936年生まれの映画プロデューサー伊地智啓(いじち けい)氏へのインタビューをまとめたもの。
 伊地智氏は助監督として日活に入社し、その後、ロマンポルノを経て70年代末よりフリーの映画プロデューサーとして活躍。特に80年代、薬師丸ひろ子のアイドル映画で監督デビューさせた相米慎二とのタッグが有名。
 もし伊地智氏がプロデューサーに転じず、助監督から監督へと進んでいたら、相米慎二のキャリアがまた違ったものになっていたかもしれない。 
 製作総指揮した『太陽を盗んだ男』(’79:長谷川和彦)の混乱を極めた現場エピソードが読み手としてとてもスリリングなもので、そこに登場する相米慎二との初体面が、その後の伊地智氏と相米慎二との関係に、深く、奇妙に、繋がってゆく。

 「そこにドブネズミがいた」と漏らす伊地智氏。

 稀代の傑作『ションベン・ライダー』(’83)の話では、オールラッシュ時には4時間半もあったことや、オープニングの長回しへの恨み言をくり返すところにプロデューサーと監督との関係性を見ることができるが、氏ならではの辛辣な言葉の数々は、その端々に相米慎二への敬愛と、戦士であり同志を失った哀しみを存分に読み取ることができる。

 本のタイトルは、伊地智氏が関わったロマンポルノ『濡れた荒野を走れ』(’74:澤田幸弘)から持ち入れられている。
 そのロマンポルノの話は[第2章]で語られ、監督たちの個性や、現場の試行錯誤から女優を作り出してゆく苦労や、会社側と製作側の思惑が対立する現場の秘話など、とても興味深い話が詰まっている。
 とっておきは『濡れた荒野を走れ』で地井武男が演じた悪徳刑事役を、クランクイン3日前までは藤竜也が演じるはずだったとか。

 日活退社後は、セントラル・アーツやキティ・フィルムの設立に立ち会う伊地智氏。松田優作の話はもとより、村上龍の監督デビュー(『限りなく透明に近いブルー』)と長谷川和彦のデビュー作(『青春の殺人者』(’76))に関する裏話は面白く、この話は『69 Sixty Nine』(’04:宮藤官九郎)と『太陽を盗んだ男』の恨み言に及んでゆく。

 薬師丸ひろ子を担ぎ出した『翔んだカップル』(’80)『セーラー服と機関銃』(’81)の製作秘話もとても面白いし、ボツになった企画も聴き逃せない話だ。

 巻末には伊地智啓が関わったフィルモグラフィを掲載。あらためて、作品の多くを目の当たりにしてきた世代として感慨を覚える。


[第1章]日活助監督時代
[第2章]日活ロマンポルノ時代
[第3章]キティ・フィルムへ
[第4章]相米慎二、最初の三本
[第5章]1980年代、マンガとテレビと
[第6章]「雪の断章 情熱」と「光る女」
[第7章]アルゴ・プロジェクトの頃
[第8章]「お引越し」と「夏の庭 The Friends」
[第9章]ケイファクトリーへ
[第10章]エピローグ
対談:盟友プロデューサー、すべての始まり


    ◇

映画の荒野を走れ プロデューサー始末半世紀/伊地智啓
【インスクリプト】
定価 3,500円+税

虚実に埋もれる「曽根中生自伝」

sonejiden-1.jpg

 1990年頃に忽然と姿を消し、2011年に突然現れ、今年2014年8月26日に亡くなった映画監督・曽根中生。
 70年代に観た邦画のお気に入りが、藤田敏八や神代辰巳や深作欣二らの作品群だったりするなかで、監督の名前で作品を選んだわけではないのに、結果的に多くの作品のファンになったのが曽根中生のロマン・ポルノだった。

 急逝直前に発刊されたこの『曽根中生自伝~人は名のみの罪の深さよ』は、1970年代の日本映画界において〝官能のアナーキスト〟と言われた特異な御仁が自ら書き及んだ半生と、自作全作品(助監督時代に関わった作品も含)をインタビュー形式で解説する構成で、氏の映画人生を映しとった面白い読み物となっている(ただし興味のある箇所だけを飛ばし読み)。
 しかし、いろいろ問題のある書でもあるわけで………特に、石井隆との因縁・確執がある『天使のはらわた』『天使のはらわた 赤い教室』の箇所には、聞き捨てならない記述がいくつかある。
 石井隆の脚本に対して「こんな与太の台詞で、映像は撮れないわけですよ、かったるくて」と云っている箇所などは、石井隆ファンであり曽根ファンでもある身には哀しい発言でしかないのである。


 一度死んだと噂された御方が舞い戻ってから暫くして、あちこちでご乱心とも言える事実誤認の発言を振りまいていたのは、にっかつロマンポルノの歴代ベストテンに入る屈指の作品『天使のはらわた 赤い教室』に関しての不可解な裏話…すなわち「映画のラストシーンは自分が変えた」発言である。
 当事者の石井隆のみならず、ファンの心をざわつかせるに足る過激なものだった。

 2014年冬『映画芸術』における成田尚哉のレヴュー(倉田剛著作『曽根中生~過激にして愛嬌あり』)で曽根発言の事実誤認が指摘され、それに呼応するかのように2月にリリースされた「ヌードの夜・Blu-ray BOX」に付帯された特典ブックレットには、石井隆が製作時から不信を抱き揉めた事案について、重い口を開き綴ったインタビューが掲載された。
 石井隆の曽根中生への不信感がいまだに解かれないままであることを知り、また、この発言を石井隆は公に声することをはばかり、ファンだけが目にする封入特典にしたことに涙したものだ。

 今回のインタビューには問題のラストシーンを変えた云々の発言はなかったかわりに、村木にすっぽかされた名美が哀しみのあまり行きずりの男と連れ込み旅館で情愛を繰り返すシーンの発言には事実捏造がある。
 本文を引用してみると
「男が逃げようとして、男を引きずり込む。要するに、引きずり込む行為をふすまの陰に引っぱっていくということで描いたんですけれど、それは浮世絵のイメージなんです」

 さも自分のオリジナルかのような発言だが、狂ったように求める名美から逃げようとする男を襖越しに引き入れるこの箇所は、石井隆の原案劇画【やめないで】(’76)を引用したものだ。

yamenaide_comic.jpg

 曽根氏がイメージして創りあげたシーンでないことは一目瞭然。映画を初めて観たときは、石井劇画のテイストを大事にするために劇画を絵コンテ代わりにしたと思っていたのだが……曽根氏の頭のなかでは自分のアイデアとして残っているのか………将又、誇大妄想か……。

 こうした石井隆との因縁を思えば、他の作品においても眉唾ものも混じっているのではと懸念するところなのだが、『週刊読書人』9月19日号に興味深い特集が掲載されていた。

dokushijin_0919.jpg

 「曽根中生とは何者か」と題し『曽根中生自伝~人は名のみの罪の深さよ』における〝事実改竄〟と〝記憶違い〟を、本書内インタビューした野村正昭、脚本家荒井晴彦、元にっかつのプロデューサー成田尚哉、そして、4本の曽根作品に出演した女優片桐夕子らが座談会形式で放談している。

 世に出ている俳優、女優、監督ら映画関係者の自著には、思い違いや事実誤認あるいは話を面白おかしく書き上げたり、自分に都合のいい取捨選択をしてあるものもあるのだろう。面白い読み物としてある程度認めるところもあるのだが、今回のように監督の主観だけで誤った記述になっている箇所を、当事者たちが指摘し述べているのも珍しい。
 荒井晴彦はかなり辛辣だ。自作脚本の『新宿乱れ街 行くまで待って』の件や、同じく共同脚本に関わった『不連続殺人事件』の話も当事者だから言える批判か。
 『スクリプターはストリッパーではありません』(白鳥あかね著)のなかに、荒井氏は『不連続殺人事件』で曽根監督にかなりいじめられていたと書かれていたが、この話を裏付けるエピソードが披露されている。何か凄い発言だらけの読み物だ。

 『天使のはらわた』に関して成田尚哉がいくつかの事実誤認を指摘しているのだが、ひとつ首を傾げる箇所があった。
 「曽根さんが実際に映画に撮ったように、石井さんは決定稿を書いている」と言う言葉だ。

 「シナリオ」1984年9月号での石井隆へのインタビューには「二稿目までは直したんだけど、決定稿にするための直しの作業には、行き違いがあって加われなくて、決定稿が出来上がってから知らされまして…」と発言している。
 また、同誌に掲載されている『天使のはらわた 赤い教室』のシナリオには「決定稿は、曽根監督がこの稿に手を加えて撮影台本としましたが、編集の都合上、石井氏のオリジナル第二稿を掲載しました」と注意書きがある。
 オリジナル第二稿は完成した映画とは大幅に違う。冒頭シーンを入れ替えたりするのは石井隆の本意ではないはずだから映画が石井隆の決定稿とは思えない。成田尚哉が今回読み直したという決定稿は、曽根中生が手を入れたホンということではないのか?

 それにしても『天使のはらわた 赤い教室』がロマンポルノの傑作といえど、石井隆の劇画を見続けてきたファンは、己を含め石井隆が描いてきた風景がいかに変容していったのかを検証し続けるのだろうな。

    ◇

曽根中生自伝~人は名のみの罪の深さよ/曽根中生
【文遊社】
定価3,900円(税別)

週刊読書人
毎週金曜日発行 【株式会社 読書人】
定価280円(税込)

★天使のはらわた 赤い教室★
★新宿乱れ街 いくまで待って★
★不連続殺人事件★

「ホテルローヤル」桜木紫乃



 2度目のノミネートで第149回直木賞を受賞した桜木紫乃の連作短編集。
 北海道の釧路湿原を180度望める高台に建つ、部屋数6つの小さなラヴホテル“ホテルローヤル”。
 そこに関わる様々な事情をもった市井の営みや孤独、閉塞感といった悲哀が、一話ごと時間軸を遡って描かれる人間模様。

シャッターチャンス
  夢と希望は、廃墟できらきらと光る埃にそっくりだった

 かつてはアイスホッケーの選手で知られた中学の同級生と付き合っている美幸(33歳)は、彼に誘われ廃墟として佇んでいる“ホテルローヤル”に、投稿雑誌用のヌード写真を撮りにやって来た……。

本日開店
  死ぬまでいいひとでいられる能力は
  そのひとに与えられた徳ですもんね

 二十も年上の僧侶と結婚した幹子(40歳)は、寺を維持してゆくために、定期的に檀家と寝ている。ある日、経営難で倒産した“ホテルローヤル”のオーナーが死んだことを知る……。

えっち屋
  男も女も、体を使って遊ばなきゃいけないときがある

 ある事件がもとで客足が途絶えた“ホテルローヤル”が営業を終える最後の日、実質的に経営してきたオーナーの娘雅代(29歳)は、アダルト玩具の在庫を引き取りにきた営業マンにあることを頼む……。

バブルバス
  五千円でも自由になったら、わたしまたお父さんをホテルに誘う

 小学生の娘と中学生の息子と舅を抱える主婦の恵は、たまたま浮いた5千円で夫と“ホテルローヤル”の門をくぐる……。

せんせぇ
  帰る家を失った少女に「かわいそう」と言わせた自分を嗤った

 単身赴任している数学教師は、妻が20年間不倫をしていたことに耐えている。高校2年のまりあは担任の彼が帰省する電車に同乗し、両親に捨てられたことを告げる……。

星を見ていた
  なにがあっても働け
  一生懸命に体動かしてる人間には誰もなにも言わねぇもんだ

 十も年下の無職の夫に毎日求められるミコ(60歳)は“ホテルローヤル”の清掃婦。3人の子どもたちは既に家を出て音信不通。ある日、次男から3万円入りの封書がホテル宛に届いた……。

ギフト
  幸せなんてね、過去形で語ってナンボじゃないの

 42歳になる看板屋の大吉には21歳の愛人るり子がいた。妻と子どもと愛人のために一念発起した彼は、高台にラヴホテルを建てることにする。しかし、ラヴホテル経営を嫌がる妻は子どもとともに出て行ってしまった。るり子は大吉の子を身籠り、大吉はホテルの経営に夢を乗せる……。

    ◇

 ここに登場する人間たちはみんな金銭に困窮している。それに加え「性の貧困」「愛情の貧困」と、生臭い話ばかりが沁み込んでいる。
 暗く、重い話ばかりだが最後まで面白く読ませるのは、ホテルの開業から衰退までの時間を逆に遡ってゆく構成だろう。

 登場人物のリンクばかりでなく、例えば「シャッターチャンス」でヌード撮影に適された部屋がなぜ乱れたままなのかは「えっち屋」で明かされ、ホテルが経営難に陥った原因は「せんせぇ」の“その後”につづく。
 結末に希望らしきものが見える一編でも、読者には彼らの未来が見えているわけだから、長い時間の流れのなかに、女と男の狡さと弱さ、生きる希望と性欲がごちゃ混ぜになり、そこから抜け出せないまま、もがいている人たちの様子に生きていることの実感を見いだすだろう。切なさが、読後の余韻となって迫ってくる。
 
    ◇

ホテルローヤル/桜木紫乃
【集英社】
定価 1,470円(税込)

山口百恵 赤いBOX 届く

昨晩、ようやく山口百恵のBOOK-BOX[完全記録「山口百恵」]が届いた

IMG_2914.jpg

白地の配送用段ボール箱には、背中に[山口百恵 MOMOE YAMAGUCHI]と書かれている

IMG_2915.jpg

LP大サイズ総重量6kg………重い
とりあえず梱包を解き、赤い箱を取出し、3冊に分かれた中身をぱらぱらと…………


IMG_2921.jpg

1冊目のレコジャケ未発表写真集は、そのアウトテイクの量に圧倒される
見たこともない山口百恵の表情にクラクラしてくるぞ

IMG_2922.jpg

2冊目はディスコグラフィで、レコード、カセット、CD、VHS、DVDなどの全作品(オリジナル、ベスト、企画ものなど)のグラフィックが、歌詞カードや付属写真集、ライナーノーツにいたるまで全頁が掲載されている

IMG_2923.jpg

3冊目は、レコード販促用のポスターやら、LP特典のポスターをはじめ、映画やコンサートのポスターとチラシ、CM関連のポスター等々…………

とにかくマニアックな内容 すべてに関して膨大 まさしく豪華写真集の極地 ディープな代物である
週末に 山口百恵の全音源を聴きながら ゆっくりと堪能させてもらおう



★山口百恵の全活動記録、BOOK-BOXで刊行★



「雨やどり 新宿馬鹿物語 1」半村 良



 何度も読みかえす小説が誰にも一冊二冊はあると思う。
 ぼくで言えば、切ない気持ちに飢えるのだろうか、鷺沢萠の中・短編集『さいはての二人』の秀逸な人情噺を何度も読み返してはグッときている。

 そしてもうひとり、この半村良の連作短編集『雨やどり』も、1975年に単行本を購入してから幾度となく読み直している一冊だ。装丁の滝田ゆうのイラストもイイんだな、これが。
 
 半村良は「伝奇ロマン」なるジャンルを確立したSF作家であるが、実はSF作品は一冊も読んだことがなく『戦国自衛隊』でさえ映画でしか知らない。この“新宿馬鹿シリーズ”や『下町探偵局』『おんな舞台』『晴れた空』など、人情噺の小説だけに魅せられている半端な読者ということになるかな。


 舞台は新宿裏通りのバー街。
 バー〈ルヰ〉のマスターでバーテンダーの仙田を主人公に、彼のまわりに棲みつくホステスや客たちの人間模様は、男と女の昭和歌謡が聴こえてくるような世界感であり哀感あふれる。
 大半に不思議な女たちの生態が描かれるのだが、作家になる前には実際に新宿でバーテンダーを生業にしていた半村良だから、時代とともに変わりつつある新宿の街を舞台に、心根のやさしい夜の街の男と女の情景が温かく描写されている。
 

おさせ伝説
 常連客の室谷がホステスの多可子と結婚するという。しかし彼女は、誰から口説かれてもイヤとは言えず寝る女だった。そのうえ多可子の正体は……。

ふたり
 「まだ二十八」「もう二十八よ」おっとりした純日本美人の芳江と、何事にもドライな洋風美人の京子。バー〈ふたり〉の、二人のママの前に現れたひとりの男………。

新宿の名人
 仙田のバー〈ルヰ〉の開店祝いに尽力した中年紳士は、新宿のことならホステスや店の善し悪しに関して何でも判る“名人”と一目置かれている。その彼が〈ふたり〉の京子を引き抜いて店を出すという……。

新宿の男
 時代に合わない古くさい小さなバーを経営する周平が、過激派に追われる男を匿っていた。男は、かつて夜の街の住人たちから慕われた小さな食堂の女将の息子だった。聞きつけた仲間たちは周平の店に集まって………。

かえり唄
 バー〈ルヰ〉のピアニストは、かつてはヒット曲を書いた作曲家。彼の曲で一度は売れっ子になった元歌手と、彼のファンだという女の行く末は……。

雨やどり
 突然の雨に仙田のマンションに雨やどりしたホステスの邦子。仙田と親しい関係になり、仲間内でも公認となったふたりだったが、実は邦子はワケありの女だった……。

昔ごっこ(初出時『新宿西部劇』を改題)
 関西の金満家の資本が新宿に乗り込んできた。老舗キャバレー〈ゴールデン・ベア〉の土地を目当てに同業店を隣にオープンするが、新宿の古き良き時代を知る昔の仲間たちは悠然と受けて立つ……。

愚者の街
 我が身の愚かさを愛おしみ、人の愚行に同情する“莫迦たち”。作者が投影された男に愛しさを込めて語らせる“馬鹿物語”には、人生の真理が垣間見られる。

 1975年直木賞受賞の表題作「雨やどり」を含む8編の人情噺は、1977年に『新宿馬鹿物語』として続編が上梓されている。
 同じ1977年にその『新宿馬鹿物語』をタイトルして『雨やどり』は映画化され、主演の仙田役には愛川欽也。艶っぽい邦子には太地喜和子、おさせの多可子役は朝丘雪路が出演。脚本は神代辰巳で、中年男の哀感あふれる作品だったと記憶する。

    ◇

雨やどり/半村 良
【河出書房新社】
定価 780円(絶版)
1975年2月初版


amayadori_bunko.jpg【集英社文庫】
定価 600円
1990年8月


★晴れた空★

俳優ショーケンが、映画を語る



 単行本ではなく新書版ということもあり、余程大きな書店でなければ平積みもされていないだろうから、この本の存在を知らない人には目につかないかもしれない。(かく言うぼくも、showken-funさんの情報で知った訳で………ありがとう)
 ショーケンファンでなくても、邦画やテレビを好きな人なら読んで損はない興味深い本なのでお勧めしよう。

 副題に[黒澤明、神代辰巳、そして多くの名監督・名優たちの素顔]と付けられたように、ショーケンがこれまでに関わってきた日本映画の監督や俳優、そしてテレビで活躍したた頃の脚本家や俳優たちについて語っている(文芸評論家の絓 秀美とのインタビュー形式)ので、あらためて、役者でありクリエイターとしてのショーケンを感じることが出来る一冊である。

[第一章]黒澤明を経験するということ
[第二章]神代辰巳と共犯するということ
[第三章]1970年代の変わりゆく演技
[第四章]「映画監督」というこの異様なるもの
[第五章]「俳優」の誇りと無意識とさまざまな事情
[第六章]1960年代へ。さらには出自の源泉へ
 解説:百年の孤独を生きる、現代の「危険な才能」
    ~つかこうへい/神代辰巳/中上健次とショーケン
                  絓 秀美


    ◇

 ショーケンについて、倉本聰が披露した有名な逸話がある。
 
「かの才媛桃井かおり嬢が、「青春の蹉跌」という映画で、ショーケンこと萩原健一氏と初めて共演された時、その台本に「故郷に錦を飾る」というセリフがあった。かおり嬢、この錦という字が読めなくて、ショーケンに質問いたしました。ショーケン、いとも無造作に「ワタじゃねえか」と申しました。かおり嬢は中学から高校にかけて丁度英国留学しており、日本語に疎いのであります。
見かねた助監督にニシキと読むんだと教えられたかおり嬢、一寸ショーケンあんた何よ。ワタじゃないわよ。ニシキって読むのよ。この時ショーケン少しも騒がず、「ああ、ニシキワタって云うもんな」と泰然と答えたと申します。
字が読めないなどとゆめ云うなかれ、ここらが彼らの翔んでるところであります。」
 〈「新テレビ事情」(1980年刊行)より抜粋〉

 おバカタレント全盛の今とは違って、こんなエピソードが少し波紋になったりもした時代なのだが、この話のウラをブッちゃけるショーケン。

 轟夕起夫のインタビュー(『映画秘宝』)では口を濁していた市川崑監督とのことも、事細かに発言するショーケン。

 同時代の俳優として、いい役者だと意識した根津甚八の引退を残念がるショーケン。

 その根津甚八が演じた『さらば愛しき大地』のシャブ中の役が、最初はショーケンの予定だったなんて……。あの頃のショーケンでは、極限を越えてリアル過ぎて怖い。これは実現しなくて良かったかも。

 ショーケンのジュリー論は然もありなん話。

 これまで自伝『ショーケン』や雑誌『映画秘宝〈2010,MAY〉』で紹介した映画人たちとのエピソードに、さらに敬愛を込め、そして辛辣に、もっとディープに語っているから、面白い。

   ◇

日本映画[監督・俳優]論/萩原健一・絓 秀美
【ワニブックス[PLUS]新書】
定価 798円

★さらば愛しき大地★
★ショーケン★
★映画秘宝★