TEA FOR ONE

まぁお茶でも飲みながら気ままに、好きなことを、すこ~しネタバレしながら、のんびりと………。

MOOK本「蘇る!日活ロマンポルノ」



 去年(2016年)の11~12月頃に発刊された日活ロマンポルノのMOOK本だ。
 まず、表紙の写真が、ロマンポルノを代表する白川和子でも宮下順子でも谷ナオミでも、ましてやアイドル的存在だった美保純でもなく、80年代の作品『ブルーレイン大阪』で初主演デビューをした志水季里子というのが、彼女のファンとして嬉しい次第

 書籍としては、やはりMOOK本にした特性が活かされ、女優を中心に制作現場などのスチール写真がカラーで豊富に掲載されているし、特集を4つにわけた記事も的を射た豪華な執筆陣。団鬼六の娘・黒岩由紀子の寄稿は興味深い。

 著述家・プランナーの湯山玲子の、〝「女性も楽しめる」みたいなカギカッコはいらない〟発言や、映画音楽の役割についての辛口コメントも面白い。

 MOOK本としては女優&監督名鑑のほかに、男優、脚本家、音楽家名鑑の掲載が親切丁寧であり重宝する資料だ。
 巻末の全作品リストも、ぜんぶにコメントが付けられた労作。

 ただし、女優名鑑に「芹明香」の名前がないのは不可解…ロマンポルノの一角を支えた重要性を認識していないのだろうか?
また個人的に、「速水典子」「水原ゆう紀」「泉じゅん」の名前がないのも寂しい…

    ◇

蘇る!日活ロマンポルノ
【徳間書店】
定価 1,204円+税

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「映画芸術」ロマンポルノ再起動



 『映画芸術』2016秋457号は ロマンポルノ特集

 1971年11月の初公開から45年を迎えた2016年11月下旬からは、[ロマンポルノ・リブート・プロジェクト]として5人の映画監督が撮り下した新作が順次公開となる。
 それに伴っての新作監督3人のインタビューと、[シリーズ私の映画史・ロマンポルノ10本]の特集である。

 「(ロマンポルノって)三本立ての中から、我慢して自分にとっていいものを見つける(しょうものないものを選り分ける)、その感じがロマンポルノ」
 「二本捨てて自分だけの一本を探す経験」
 「名作でも佳作でもない、あまり評価されないものがロマンポルノ」

 インタビュー中の荒井晴彦の言葉と重なるが、それこそロマンポルノは自分だけの作品を探す旅だったような気がする…
 ただ、好みは十人十色とは云え、結果、自分のベスト作品を選んでみると、いま評価されている作品と多くがダブるわけだが……

 70年代の日活ロマンポルノは神代辰巳、藤田敏八以外の作品は女優で観ていた……
 物語はプログラム・ピクチャーなんだから三本立てのクオリティはたかが知れていたけど、2週間ごとに差し変わる作品群から「おっ」と身を乗り出すものに出会う愉しみがあった……
 新人女優として、グラマラスなひろみ麻耶(『実録ジプシー・ローズ』)や薄幸美の水原ゆう紀(『天使のはらわた 赤い教室』)に出会えたりしたわけで……

 
 ところで今回のロマンポルノ・リブートだって最低でも二本立てで観せて欲しいくらいで、各回入れ替え制になった映画館ではつまらんよ…

 [私の映画史・ロマンポルノ]において、12人の選者がそれぞれ10本の作品を挙げるなかで、脚本家として神代辰巳、荒井晴彦に次いで石井隆の名前が3番目に多く挙がっているのは、間違いなくロマンポルノの貢献者のひとりだったことに他ならず、同時代に石井隆の劇画と映画の読者と観客でいられたことが、なんと素晴らしい時間だったことか……

    ◇

映画芸術 2016年秋号
【編集プロダクション映芸】
定価 1,585円

日活ロマンポルノ創設45周年記念作品、リリース解禁



 2016年は日活ロマンポルノの初公開(1971年11月20日:白川和子主演「団地妻 昼下がりの情事」、小川節子主演「色暦大奥秘話」)から45周年。 
 それを記念して、全80作品のBlu-ray & DVDリリースが4月から開始された。2ヶ月ごとに12月までつづくこのリリース・ラッシュには、既発作品の初Blu-ray化はもちろん、初デジタル化の作品、2005〜7年版のラインナップからの再発も多くあり、ファンにはたまらない1年になることだろう。

 今回、初回リリースからは2本の初デジタルものを購入。当たり前だが、どちらも所持するVTRを一掃するクリアな画質!
 結城昌治原作、石井隆脚本、池田敏春監督で、天地真理2度目の復帰作としてジョニー大倉と共演した『魔性の香り』はオープニングの雨の橋桁シーンから、ラストの黄昏色に染まった土砂降りの雨の美しさに感動モノだし、藤田敏八監督、中川梨絵と地井武男出演の『エロスの誘惑』は、中川梨絵の美しさが倍増して映えているから、これまた感動………

 ほかに、『四畳半襖の裏張り』(神代辰巳:宮下順子)や『(秘)色情めす市場』(田中登:芹明香)はDVD所持ながら初Blu-ray化ということで思案中……特に『四畳半襖の裏張り』は宮下順子の音声コメンタリーが収録されているのが貴重なのだが、既に多くの作品が在庫切れになっているようだ。
 思案は皆無…即購入しないと後々後悔する………

 

「エロスの誘惑」*藤田敏八監督作品


監督:藤田敏八
脚本:松田昭三
撮影:山崎善弘
助監督:長谷川和彦
音楽:J.S.バッハ
出演:中川梨絵、小松方正、地井武男、川村真樹、天坊準、福地健太郎

☆☆☆☆ 1972年/日活/69分

    ◇

 初見1972年10月
 『八月はエロスの匂い』につづいて観た藤田敏八監督のロマンポルノ第2作目で、まさしくロマンポルノの女神中川梨絵の美しさの虜になった記念的作品。
 同時公開は神代辰巳監督の『一条さゆり 濡れた欲情』だった。

 舞台は、東京湾デルタ地帯の倉庫街。
 貧相な倉庫主任・菊地(天坊準)と、逞しい体格のアルバイト青年・健太郎(福地健太郎)、そして、住み込みの事務員タネ(中川梨絵)の3人が、この薄暗く殺伐とした倉庫で働いている。
 タネの容姿は男心をそそるものがあり、菊地はタネに結婚を申し込むが「私がどんな女か知ってるの?」と冷たい対応。
 タネは、倉庫会社社長の三好(小松方正)に囲われている身。しかしどこか虚無的で冷めた女だ。三好に菊地のことをうち明けると、三好はタネに結婚を勧める。
 翌日、タネは菊地に結婚の承諾をするが、その日、本社から庄司という男(地井武男)が配属されて来た。無口で精悍な庄司に惹かれたタネは、挑発的な態度で「私をここから連れ出して」とでも言わんばかりに誘惑し、そのままずるずると三好と庄司との三角関係がはじまるのだった。
 しかしある日、庄司の妻と名乗る女(川村真樹)が現れ、庄司は忽然と姿を消してしまう……。

    ◇
 
 〝何も変わらない日常〟
 藤田敏八監督の演出は、ポルノ的扇情シーンやドラマティックな展開を抑え、吹きだまりの倉庫街に集まる冴えない男女の、虚無的日常と性を淡々と描いている。

 70年代はじめは風呂なしの部屋など当たり前で、台所で湯を沸かして行水するシーンが目に焼き付いていたり、ビルの屋上で洗濯ものを干すシーンなどにエロティックな感覚が沸いてくるのだった。

 まぁとにかく、中川梨絵が美しい。
 これだけで良いだろう……☆ひとつは彼女に捧げるものである。

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★中川梨絵★
★一条さゆり 濡れた欲情★
 

「実録エロ事師たち」*曽根中生監督作品


監督:曽根中生
原作」吉村平吉
脚本:下飯坂菊馬
撮影:畠中照夫
美術:菊川芳江
音楽:月見里太一(鏑木創)
出演:二條朱実、殿山泰司、江角英明、星まり子、榎木兵衛、高橋明

☆☆☆ 1974年/日活/75分

    ◇

 〝エロ事師〟の名称は、野坂昭如が命名したとされる。
 ポン引き(売春斡旋)、ブルーフィルムやエロ写真の製作、カップルが本番行為を見せる白黒ショーの実演・上映会など、その商いは野坂昭如原作、今村昌平監督の傑作人間喜劇映画『人類学入門「エロ事師たち」より』を見ればよくわかるものだが、本作は、その野坂昭如の小説のモデルとなった伝説のポン引き師吉村平吉の著作本を原作にしている。


 手配師の殿村銀次郎(殿山泰司)の斡旋で、白黒ショーを演じる中山(江角英明)と春子(星まり子)の夫婦。ある日ふたりのショーに感激した客の西沢(榎木兵衛)が弟子入りを懇願する。それは若い女房のユカリ(二條朱実)を満足させたい一心だった。
 彼に同情した3人がいろいろと協力するのだが、なかなか効果は表れない。ある日、西沢に同情した春子が彼をモーテルに誘い、西沢は初めての歓喜を味わう。それは春子にとって初めての浮気でもあった。
 一方、殿村は性的不感症のユカリを白黒ショーに誘うが、あらためて夫の不甲斐なさを知り別れる決心をする。そして、春子の浮気に気づいた中山を尻目に、西沢と春子は駆け落ちをするのだった。
 殿村は、残された中山とユカリの新しいコンビを結成し初舞台を催すのだが、殿村が抱えるオカマ売春のカップルやブルーフィルムの監督など全員があえなく逮捕されてしまう。
 手錠姿の殿村だが「次はうまくやるさ」とうそぶくのだった…。

    ◇

 1958年までポン引きをしていた吉村平吉が述懐する彼らの生態は、やくざとは違った非合法社会を形成し、開けっぴろげでなごやかな人間関係があったとしている。

 艶笑ドラマとしての本作は、暗い部屋で睦あうアングラな世界に生きる人間たちの軽い浮き草のような人生の悲哀と、リアルに淡々と流れてゆく時間の心地良さに魅入ってしまう映画だ。
 男と女の時間に身を任せる人間模様のなか、殿山泰司が飄々としながらも活力に満ちた手配師を好演し、ある意味主役とも言える榎木兵衛は見事な情けなさぶりで、名脇役としてのいぶし銀光る姿を楽しめる。

 もちろん女優陣もよし。1973年にミノルフォンから「泣くなおっぱいちゃん」(作詞:富永一朗、作曲:井上忠夫)で歌手デビューした星まり子は、この作品で二条珠美と名前を並べて映画デビュー。以後、全部で10本ほどのロマンポルノに出演している。

 そして、欄干に仕掛けた鏡越しのベッドシーンとか、ネガポジを反転した二条珠美の裸体とか、工夫を凝らした曽根中生監督の演出も冴える。



昼下りの青春〜日活ロマンポルノ外伝



 月刊「シナリオ」に連載されていたプロデューサーで脚本家の山田耕大氏のエッセイを一冊にまとめた本が25日に発刊された。1978年名古屋から上京し日活に入社し、劇場勤務で『人妻暴行致死事件』『桃尻娘』『高校大パニック』等の上映に関わるところから、終焉を迎えようとするロマンポルノの制作現場で青春を過ごした日々の奔走を、熱く、ほろ苦く語るなかに血の通った映画制作の喜びが見て取れて、実に面白い読み物となっている。

 石井隆ファンには、ヒロイン降板劇で知られる因縁の2作『火の蛾』と『ルージュ』の話が興味深い。 
企画段階での『火の蛾』のキャスティングが明かされたのは初めてで、それまで、ただ単に女優が脱ぎたくないという理由で流れた企画と思っていたものの(石井隆自身が聞かされてきたことでの発言による)、少し思惑の違う理由がそこに存在していたというのだ。

 『火の蛾』で決まったキャストは、土屋名美を関根恵子、若い愛人の平野信を古尾谷雅人、殺される名美の夫・土屋英樹には伊丹十三だったという。監督は池田敏春。関根恵子の名美を想像するとゾクゾクしてくる恰好のキャスティング(関根恵子の抜擢は『ラブレター』繋がりだろう)だが、この時、同時に高橋伴明監督が『「TATTOO[刺青]あり』の企画を持ち込んできた事が運のつきってことか。
 しかし、『火の蛾』が後に『死んでもいい』として成就したことで、石井隆監督がメジャーな舞台に駆け上がったことを鑑みてみれば、すべて運命のもとに動かされていた出来事だったと思えるのだが…どうだろう?

 『ルージュ』も不憫な作品だった。
 1981年に制作発表されたときの陽子(名美)役は辺見マリ。辺見マリの降板も何も彼女の我儘などではなく、別の起因による残念至極な思いがあったことが判明。そして、1984年に新藤恵美のキャスティングで陽の目をみることになるのだが、それはとても石井ワールドとは言えないものだった。
 原作の「その後のあなた」が傑作だったのに、なぜ、あんなにも唖然とさせられるラストシーンの改変になったのか。企画を立てた著者の前に立ちはだかった大きな敵の存在を知り、納得する裏話ではあるが、やはり不憫な話である。

 石井隆は後々リベンジのための苦難の道を歩んで行くことを考えると、何とも辛抱強い作家だったのだと思う次第である。


日活へ行こう
愛と哀しみの社員研修
劇場狂時代
素晴らしき劇場野郎
俺たちに明日はない
仁義なき青春
僕の村は日活撮影所だった 

「おんなの寝室 好きくらべ」~「赫い髪の女」
「泉大八の女子大生の金曜日」~「クライマックスレイプ 剥ぐ」
「むちむちネオン街 私たべごろ」
「MR.ジレンマン 色情狂い」~「看護婦日記 いたずらな指」
「東京エロス千夜一夜」
「暴行儀式」~「朝はダメよ!」
「スケバンマフィア 肉刑」
「女子大生の告白 赤い誘惑者」
「ハードスキャンダル 性の漂流者」
「クライマックス 犯される花嫁」
「快楽学園 禁じられた遊び」
「後から前から」
「団鬼六 OL縄奴隷」
「女子大生の基礎知識 ANO・ANO」
「ひと夏の体験 青い珊瑚礁」
「モア・セクシー 獣のようにもう一度」
「レイプウーマン 淫らな日曜日」
「制服体験トリオ わたし熟れごろ」
にっかつ撮影所企画営業部の旅~「獲物」
「正四面体」
「小さな娼婦」
「火の蛾」
「その後のあなた」
「たかが友だち」
「無題」
「肉奴隷 悲しき玩具」
「ワイセツ家族 母と娘」
「家族ゲーム」
「セクシードール 阿部定3世」
「セーラー服百合族」
「ブルーレイン大阪」
「ダブルベッド」
「愛獣 猟る」
「女教師は二度犯される」
「縄姉妹 奇妙な果実」
「不純な関係」
「白衣物語 淫す」
「団鬼六 修道女縄地獄」
「女子大生 恥かしゼミナール」
「ひと夏の出来ごころ」
「OL百合族19歳」
「ルージュ」


[エピローグ・追悼]
三浦 朗
斎藤 博
神代辰巳
佐治 乾
奥村幸士
海野義幸
池田敏春
加藤 彰
高田 純

    ◇

昼下りの青春~日活ロマンポルノ外伝/山田耕大
【シナリオ11月号別冊・シナリオ作家協会】
定価1,680円(税込)

「黒薔薇昇天」*神代辰巳監督作品



監督:神代辰巳
原作:藤本義一
脚本:神代辰巳
撮影:姫田真佐久
主題歌:「賣物ブギ」ダウンタウン・ブギウギ・バンド
出演:岸田森、谷ナオミ、芹明香、高橋明、庄司三郎、谷本一、山谷初男、東てる美

☆☆☆☆ 1975年/日活/73分

    ◇

 藤本義一の「浪花色事師~ブルータス・ぶるーす」を原作に、ブルーフィルム作りに奔走する男と女の哀歓をコミカルに描いた傑作。
 題材は今村昌平監督の『エロ事師たち~人類学入門』('66)に似ているが深刻さは皆無。活動屋へオマージュを捧げながら、実にバカバカしく、摩訶不思議に、裏映画のバックステージ物に仕上げているのが神代流か。


 大阪を根城にブルーフィルムの製作をしている十三(岸田森)は、カメラマンの安さん(高橋明)と照明や雑用係の石やん(庄司三郎)、専属女優のメイ子(芹明香)とメイ子のオトコで男優を務める一“はじめ”(谷本一)らを従え、和歌山の海辺の旅館の一室で撮影していたが、メイ子が一の子どもを妊娠したため、胎教に悪いので引退すると言い出した。仕方なくロケ隊は撮影を中断して大阪に引上げるのだった。
 メイ子への説得はつづく。
 「わいら撮ってるもんは、そこらのヤクザが資金稼ぎにやってるのとはわけが違うで。わいらのはゲージツなんや」と声を高める十三は、大島渚や今村昌平を敬愛する“活動屋”くずれ。安さんとふたりは独立系成人映画制作会社の残党だ。しかしメイ子の意志は固く諦めるしかない。

 副業でエロテープを作っている十三は、ある日、行きつけの歯科医院に仕掛けた盗聴テープの録音から、和服姿の美しい幾代(谷ナオミ)と歯科医(山谷初男)との関係を知る。そして十三は、録音テープを手に探偵だと偽り幾代に接近し、彼女が関西財界人のお妾さんと知る。淑やかな彼女の魅力に惹かれた十三は、浮気の証拠があると幾代を部屋に連れ込んだ。

 「ファックちゅうもんわですなぁ……………人間の行為のなかで一番崇高なもんなんですわぁ。人間の根源的な美の再確認ですわ」

 幾代を口説きおとし、抱く十三。たちまち絶頂に達するや、そこに機材を抱えた安さんと石やんが乱入し、撮影をはじめる。
 こうして幾代はブルーフィルムの主演女優になり、同時に十三の嫁になった。

 「焼きもちやきまへんな」
 「誰とファックしようと、これは仕事や。女優をヨメはんにしてる監督はんはいっぱい居てはるけど、焼きもちやく監督はんがいてはるか?」

 ふたたび和歌山の旅館の一室。幾代と一のセックスシーンに、お腹の大きくなったメイ子が嫉妬し、十三さえも幾代に焼きもちをやき、撮影はまたもや中断。
 せっかくのテープがフイになっておかんむりの安さんに対して、「焼きもちやいてしもうた。修行が足らんのや」と照れる十三なのであった……。

    ◇

 内田あかり主演の歌謡ポルノ『ロスト・ラブ~あぶら地獄』('74・小沼勝監督)に次ぐ、岸田森の2本目のロマンポルノ出演作となる本作。ヒロインを谷ナオミに据えているとしても、主人公は岸田森。なんてったって岸田森なのだ。
 岸田森の本作出演は多分、前年のテレビドラマ『傷だらけの天使』で神代辰巳が2話分のメガホンをとったことがきっかけであろう。特に第4話『港町に男涙のブルースを』で、荒砂ゆきに対しての岸田森のふざけっぶりは大ウケなのだが、こちらはもっと弾けてる。コテコテの大阪弁を捲し立て、胡散臭さと呆けた所作での怪演ぶりは絶妙。
 映画の後半では、谷ナオミとの濃厚なセックスを延々と繰り広げるのだから、クールな岸田森を知っているファンはビックリするであろう。
 ついでに記しておくと、岸田森が最初に出演した『ロスト・ラブ~あぶら地獄』は、荒砂ゆきが主演した神代辰巳監督の文芸ロマンポルノ『鍵』の併映作だった。

 映画芸術論、ワイセツ論を語らせ、映画撮影を撮る内省的手法は、どこまでも神代自身が私事を映し取っているかのよう。
 全編にユーモアと哀しみを漂わせ、唐突に、画面の繋がりなどお構いなくびっこを引きながら歩く岸田森の姿には、当然にして川島雄三をダブらせている。

 70年代の大阪の街の風情、そこに流れるダウンタウン・ブギウギ・バンドや奥村チヨなどの歌謡曲は見事にマッチし、愛染かつらから大正琴、果ては全裸でローラースケート・ファックをする岸田森と谷ナオミのBGMに結婚行進曲と、シュールな神代流遊び心が遺憾なく響き渡る。
 ダウンタウン・ブギウギ・バンドの「賣物ブギ」の冒頭となるグルーヴィーなブルーズ部分をテーマにしたのは、後の『赫い髪の女』('79)で絶妙な選曲となる憂歌団のブルーズに先立つ、会心の世界観だ。
 「カッコマン・ブギ」と「知らず知らずのうちに」も見事に画とマッチした選曲。
 タクシーの中で日傘を差す谷ナオミのテーマとして「終着駅」が流れるのも、貞淑さと豊満な女の匂いがブレンドされたかたちで妙に色っぽい。

 撮影は、今村昌平映画の時代から神代作品でもお馴染みの姫田真佐久。
 全裸の芹明香が赤いパラソルを持って入り江を歩くシーン、岸田森と谷ナオミが乗る松坂屋屋上の丸型ゴンドラ、岸田森と高橋明が釣舟屋の桟橋で掛け合うロングショット、岸田森が芹明香を説得する天王寺動物園ではキリンの檻の前を通り過ぎる幼稚園児の列、なんば駅前で岸田森と谷ナオミがタクシーに乗り込むシーンとか、ワンシーン・ワンカットの長回し多用は腰の据わった美しい構図を数々見せてくれる。

 そして見事なローアングルは、芹明香が階段ででんぐり返りして「産まれてしもうやないかぁ」のストップモーションで決まる。


[神代辰巳作品]
★赤線玉の井 ぬけられます★
★一条さゆり 濡れた欲情★
★恋人たちは濡れた★
★女地獄 森は濡れた★
★やくざ観音 情女仁義★