TEA FOR ONE

まぁお茶でも飲みながら気ままに、好きなことを、すこ~しネタバレしながら、のんびりと………。

「疾れ、新蔵」志水辰夫

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【徳間書店】定価 1,836円 2016年6月初版

    ☆

名手が描く、痛快エンタテインメント時代長編!

    …………………

新蔵は越後岩船藩の江戸中屋敷に向った。姫を国許に連れ戻す手はずであった。街道筋には見張りがいる。巡礼の親子に扮し、旅が始まった。
手に汗握る逃走劇の背後には、江戸表と国許の確執、弱小藩生き残りをかけた幕府用人へのあがきがあった。
そして、天領だった元銀山の村の秘密、父子二代に亘る任務のゆくえも絡み一筋縄ではいかないシミタツの魅力満載!
山火事が迫る中、強敵と対決する!
姫を伴った新蔵の旅は成就するのか? 
   (帯惹句)

     …………………

    ◇

疾れ、新蔵/志水辰夫
【徳間書店】
定価 1,836円
2016年6月初版

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【志水辰夫作品リスト索引】

 志水辰夫の小説書庫【noa noir】の作品リスト(エッセイ集以外すべて読了)です。
 志水辰夫の書き下ろし新作が7月に、好評シリーズ『蓬莱屋帳外控』第3弾「待ち伏せ街道」が9月に発刊されたので、この索引をトップに持ってきます。

印:作品紹介

    ◇


【単行本】
01. 飢えて狼  1981年8月初版  
02. 裂けて海峡  1983年1月初版  
03. あっちは上海  1984年2月初版 
04. 散る花もあり  1984年5月初版
05. 尋ねて雪か  1984年11月初版
06. 背いて故郷  1985年10月初版
07. 狼でもなく  1986年11月初版
08. オンリィ・イエスタデイ  1987年12月初版
09. こっちは渤海  1988年6月初版
10. 深夜ふたたび   1989年5月初版
11. カサブランカ物語  1989年8月初版
12. 帰りなん、いざ  1990年4月初版
13. 行きずりの街  1990年11月初版 
14. 花ならアザミ  1991年4月初版
15. 
夜の分水嶺  1991年8月初版 
16. 滅びし者へ  1992年8月初版
17. いまひとたびの  1994年8月初版
18. 冬の巡礼  1994年10月初版
19. 虹物語  1995年4月初版
20. きみ去りしのち  1995年6月初版
21. あした蜉蝣の旅  1996年2月初版
22. 十五少年漂流記  1997年10月初版
23. 情事  1997年10月初版
24. 暗夜  2000年3月初版
25. きのうの空  2001年4月初版 
26. 道草ばかりしてきた*エッセイ集  2001年11月初版 未読
27. 負け犬  2002年4月初版
28. 生きいそぎ  2003年2月初版
29. 男坂  2003年12月初版 
30. ラストドリーム  2004年9月初版
31. 約束の地  2004年11月初版
32. うしろ姿  2005年12月初版 
33. 青に候(あをにさうらふ)  2007年2月初版 
34. みのたけの春  2008年11月初版 
35. ラストラン  2009年3月初版 
36. つばくろ越え  2009年8月初版 
37. 引かれ者でござい  2010年8月初版
38. 夜去り川  2011年7月初版
39. 待ち伏せ街道  2011年9月初版

【アンソロジー収録作品】
01. あなたの思い出 1987年11月 未読
02. A列車で行こう 1989年8月/1995年8月 
03. 石の上 1996年12月


志水辰夫、初映画化。

 志水辰夫ファンに朗報。
 過去に水谷豊主演で唯一映像化(2時間ドラマ)された作品『行きずりの街』が、監督阪本順治、主演仲村トオルと小西真奈美で映画化される。

 脚本は丸山昇一。プロデューサー黒沢満と撮影仙元誠三の名前が並ぶと松田優作の一連の作品を思い出す布陣だ。骨太の男の映画の代名詞となる阪本順治監督なら、人間ドラマとして新しいハードボイルドの世界を構築してくれるのかもしれない。

 ただファンとして手放しで喜べないのは、丸山昇一は原作を大幅に改変することをいとわないライターだということ。
 シミタツ節といわれる文章が、いかに映像化の難しいことかは想像に難くないからこそ、面白い映像作品にするために自分なりの色づけをどこまでしたのだろう。
 志水氏はシナリオの3度の改稿までは目を通したというが、映画化の話ほどあてにならない企画はないと、すっかり映画化の件を失念していたという。なんと、ゲタは全て預けてしまっているようだ。

 映画は10月クランク・アップで、劇場公開は2010年の秋だという。先は長い。
 でも何にしろ、志水辰夫作品の映像化は嬉しいし、待ち遠しいものになるだろう。

「つばくろ越え」志水辰夫



 『小説新潮』に掲載されていた志水辰夫の時代小説第3弾となる「蓬莱屋シリーズ」が先月発刊された。

 幕末を疾走するクールな飛脚屋たちの物語で、第一話のみ掲載時に読み、単行本になるのを愉しみにしていた連作だ。 

    …………………

 燕の通う尾根を ひとり疾駆する影 飛脚問屋・蓬莱屋シリーズ開幕!

 売りは秘密厳守とスピード
 あえて難路を選び 単独で列島を横断する脚力
 火急の金品を守り抜く状況判断力
 修羅場をくぐった男たちを束ねる蓬莱屋には
 そこを見込んでの注文が絶えない

 時は風雲急を告げる幕末
 行く手を阻む影に目を凝らしながら
 峠を越える男たちの物語四話
  (惹句より)

    …………………

 江戸時代の飛脚には大名飛脚と町飛脚のふたつがあり、一般の武士や商人とか町民は民間の飛脚問屋を利用していた。街道や宿場の整備によって二人ひと組で宿駅と呼ばれる区間を引き継ぎながら走るのが普通だろうが、目的地までたった一人で走りきる“通し飛脚”と云う専門職もあったらしい。

 ここに登場するのが、その“通し飛脚”の者たち。
 たった一人の道中で大金を運んだりするのだから、途中、賊に襲われないよう街道を外れ、独自の路を走ることになる。それはかなり過酷だ。だからして、ここにハードボイルドなストーリーが生まれる。これまで、小説の題材などにはあまり取り上げられなかった職業だからして、新鮮な人物像として描かれている。
 請け負った“ワケアリ”を抱え走る主人公、彼に絡む登場人物として蓬莱屋の親方勝五郎も、行き先ざきで関わる者たちも、実に魅力的だ。

 道中、山間の情景描写、木々の匂い、鄙びた村あいの空気や彩り、人間たちの息遣いは、まさにシミタツ節である。
 
    ◇

つばくろ越え/志水辰夫
【新潮社】
定価1,785円(税込)
2009年8月初版


「ラストラン」志水辰夫



 志水辰夫の初期短編集が発売された。
 氏は、2005年に発刊された『うしろ姿』のあとがきで「現代物の短編はこれが最後」と述べており、以後、時代劇の執筆に情熱を注いでいるのだが、これは氏も半分は忘れていたという1988年から2000年にかけて『ミステリーマガジン』等に発表された古い作品ばかりで、本当に最後の短編集といえるだろう。
 ファンにとって思いがけない、スゴい贈り物である。

    ◇

A列車で行こう「ミステリーマガジン」1988年
石の上「ミステリーマガジン」1989年
カネは上野か「ミステリーマガジン」1990年
ジャンの鳴る日「ミステリーマガジン」1991年
やどり木「ミステリーマガジン」1991年
愚者の贈物「ミステリーマガジン」1992年
わけありごっこ「問題小説」2000年
見返り桜問題小説」1997年
狙われた男「小説コットン」1989年
ぼくにしか見えない「小説Non」1989年
 
    ◇

 アンソロジーで既出の「A列車で行こう」と「石の上」以外は未読だったので、この作品集で一応は発表作品の完全読破を進行中ということになる。

 氏が単行本化する場合は初出誌から加筆作業を行うのが通例なのだが、今回の場合、20年も前の情熱や熱気で書き上げた足跡を見てもらうということで、最低限の修正だけで余計な手を入れない、発表当時に近い姿で収められている。
 封印されていた“シミタツ節”は、『深夜ふたたび』から代表作「行きずりの街』や傑作『夜の分水嶺』を書いていたころのものが多く、まさに、まぎれもなく初期の志水辰夫の足跡であり、その妙技を堪能できる。

    ◇

ラストラン/志水辰夫
【徳間書店】
定価1,680円(税込)
2009年3月初版

「みのたけの春」志水辰夫



 志水辰夫の書き下ろし長篇時代小説の第2弾は、激動の時代に翻弄された郷士(農村に居住する下級武士)たちの生き方を描いている。

 時は幕末。
 北但馬の農村で養蚕で生計を立てている清吉は、病身の母を抱えながらつましい暮らしを送っていた。
 清吉は家業の合間に、武術や学問を学ぶために私塾・山省庵に通っている。
 大転換期の時代、尊王攘夷の風は山深い農村にまで届き、山省庵にも天下国家を論じる血気盛んな者たちが多くいたが、清吉は行動をともにしない。
 ある日、私塾仲間で幼馴染みの民三郎が刃傷沙汰を引き起こし、京へ身を隠す。
 兄妹のしがらみを断ち、尊王攘夷の活動に参加する民三郎に対し、清吉は母親の看病をしながら、時代に流されず、身の丈で生きる道を見い出そうとしていた。

 そしてついに、京で何人もの人を殺し罪人となった民三郎が逃げ帰ってくる。
 清吉は、友のために行動にでる………。

    ◇

 「すぎてみれば、人の一生など、それほど重荷なわけがない。変わりばえしない日々の中に、なにもかもがふくまれる。大志ばかりがなんで男の本懐なものか。」

 毎日縁側に座り、自然の移り変わりを眺めながら、自分の本分をわきまえている主人公の静かな生き方は、目立たず、騒がず、常に己の道を歩む姿勢だ。そこにすっかり引きこまれる。
 いかに、激変の時代であれこの殺伐とした現代と比べてみると、そこには、親と子、兄と妹弟、師と弟子、そして主と仕える者との関係など、いまの日本には決してない忘れられた何かが見えてくる。

 そして、相変わらず魅力あふれる傍役たちと、鮮やかな情景描写。
 民三郎の兄妹たちの健気さと頼もしさはもとより、清吉がほのかに想いを寄せる女性への拙い行動や、清吉の家に長年仕える下男の存在がほんの二言三言の会話で浮かび上がってくる様子など、見事にシミタツの世界である。

 最後の2頁が往年の代表作のラストを彷彿させながらも、読後感はまったく違った思いにさせられる。いい小説である。

    ◇

みのたけの春/志水辰夫
【集英社】
定価1,890円(税込)
2008年11月初版

「夜の分水嶺」志水辰夫

【徳間書店】定価1400円 1991年8月初版

【徳間文庫】定価 620円 新装版2007年9月

    ◇

 極上の冒険小説が、究極の恋愛小説になった!

 刻々と追いつめられてゆく男と女。夜が動く。山が退き、谷が消え、天地がひとつになった……。ふたりは旅立つ。地の果てまで。官能に抱かれて。

元警部補の青野淳一郎は仕事先でトラブルに巻き込まれ、殺人容疑者として追われる羽目に。逃げ込んだ軽井沢の山荘で、秘密機関と闘争中の男から、彼の妹を脱出させるよう頼まれた。
 ふたりの未来は……世界は恋人たちのためにある。 (惹句より)

    ◇

 この『夜の分水嶺』は、圧倒的な権力から男と女が逃避行するだけの話。
 大事なひとを守るために、ただ、逃げるのみ。誠実に生きるために、誇りを失わないために、逃げて、逃げて、逃げきってみせる、そのための気概と反撃。逃亡劇だからこそ、全編にいきわたる緊張感は凄いものがあり、作者の文章力にまたまた参ってしまうのだ。
 
 執拗に追っかけてくる国家権力側の姿ははっきりと描かれず、追われる側の人間だけで進行していく単純さが歯切れいい。
 脇役たちのキャラクターも実に魅力的に描かれ、後半、逃亡の途中で出会う山中にひっそりと暮らす人間との触れあいがとても印象に残る。
 故郷にこだわり静かな余生を送る老人。故郷を捨て、自分の居場所を探し求めながら、また故郷に舞い戻ってきた従兄。彼らとの関わりが、主人公たちに、誠実に生きることの尊さを感受させる。

 だからこそ、このラスト。
 賛否両論あるだろう最終章は、生命の息吹を感じるありふれた風景のひとコマ。その静寂さが、気持ちのいい読後感となる。

★志水辰夫小説書庫【noa noir